五五段 こういうときは単純に力こそ正義なんだ
「いい加減、謝るべきだよねー」
「それは、できない……」
女戦士のリリムは、目の前にいる女錬金術士を含む別のパーティーに対し、何度も首を横に振っていた。自分は決して間違ったことはしていない。その確信がある以上、死んでも謝罪だけはしたくなかったのだ。淡い茶色の短髪に添えられた食虫花のヘアピン、大きめの胸のラインがよく見える厚みのないレザーベスト、大胆な切れ込みのあるミニスカート等で自身を彩る錬金術士は、マントにプレートアーマーといった自身の無骨な姿とは違って着飾っていてさらに気取ったような態度だったから、余計リリムの反骨心を強固にさせていた。
「リリム……言いたいことはわかりますが、まー、ここは折れたほうが賢明ですよ……」
「……ティア、私は折れない……」
「もー……」
リリムの仲間である回復術士のティアが弱り顔で耳打ちするが、強情な彼女はここでも首を縦に振らなかった。
「私は間違ってなどいない。間違っているのは、そちらのほうだ……」
ことの発端となったのは、今から10分ほど前に起こった二つのパーティーの釣り役同士の衝突である。
ノンアクティブモンスターであるソリッドスケルトンを、リリムが《ブーメランアックス》で釣ろうとしていたがなかなか命中せず、ようやく当たったタイミングで別のパーティーの釣り役に持っていかれそうになり、憤ったリリムが怒涛のブーメラン連打で奪い返した結果、今に至るというわけだった。
釣り役がモンスターを釣り、壁役の元に運んでいって殲滅役が処理するというやり方は、パーティーの一つのスタイルとして確立されているわけだが、それがゆえにこうした釣り役同士の衝突がパーティー同士の争いに発展するのは、決して珍しいことではなかったのである。
「何度も言う。あのソリッドスケルトンは私がずっと狙っていたもの。それを奪われたから奪い返しただけなのに、何故私が謝罪する必要があるのだ……?」
「だーかーらー……あなた、本当にアホなの? 当たらなかった以上、そのモンスターは誰のものでもないの。それはわかるよね?」
「……」
別のパーティーの釣り役だった女錬金術士にリリムは押されていた。大きな赤い蠅のような姿をしたホムンクルスが挑発するかのように飛び回っている。
「……わかるが、先に当てたのも私だ。それをそっちが持って行こうとしたから奪い返した。それの何がいけない……」
「……だーかーらー。そのさ、先に当てたってのを一体誰が証明できるの? ん?」
「……それは、こっちも同じことが言える……」
「……はあ……。どっちが信用できるかっていう話なら、断然私のほうよね? ねえ、わかってる? あなたのブーメラン、全然当たらないんでしょ? それとも、私が狙ったときに、今まで命中してなかったものがそんなに都合よく当たったっていうの? ん?」
「……」
錬金術士のパーティーから笑い声が上がった。正しいのは怒りで顔を赤くしているリリムのほうだったが、それを証明することが難しいために劣勢に立たされていた。
「わかる? 悪いのは100%、あなたのほうなの。私のホムの攻撃でこっちにタゲったモンスターを、あなたがブーメラン連発で横殴りして奪った。んで、今は私が悪党のあなたにお説教してあげてるわけ。たったそれだけの話」
「……」
「一言でも謝れば許してあげようっていうのに、それすらできないの……? ねえ、頭大丈夫? ん?」
「ぐぬう……」
両手で握りしめた斧を震わせるリリム。
「何? 悪党が逆切れして戦おうっていうわけ? それなら相手になってやるけど……」
「ちょ、タイム、タイムです……」
ティアが間に割って入ると、リリムに再度耳打ちした。
「もー、リリム、やめてください。なんなら、私が代わりに謝りますから……」
「絶対ダメだ。というか、ティアはここから離れてほしい」
「え……?」
「私一人でも、断固として戦う。それなら迷惑を掛けないから……」
「そんなの、仲間として承認できるわけないでしょうが……。もー、こんなときにアシェリは一体いつまで探すつもりなのですかね。あんなに強い転移術士様がこんなところにいつまでもいるわけないでしょうに……」
「ねー、打ち合わせ、まだ終わらない? そこの小さな回復術士さんも参加するかどうか早く決めたら?」
「わ、私は、その……」
腰に両手を置いて不気味に笑う女錬金術士に対し、後退して怯むティア。
「アローネ、もうめんどくせーしそいつも纏めてぶっ殺そうぜ!」
「「「そーだそーだ!」」」
「みんな、待って。このどうしようもないアホの子はともかく、まともそうな回復術士さんの意志も確認せずに巻き込んでしまうのはちょっと可哀想かなって……」
「あ、あなた……」
「あら、もう決めた?」
「さっきから黙って聞いていれば……どれだけ性格悪いのですか……」
「……」
「本当に頭に来ました……。誰かと比較しながら、一方に対してそういう酷い言い方をする人、大っ嫌いです」
「……てぃ、ティア……」
ティアは声だけでなく足も震わせていたが、その勇気に対してリリムは感動し涙を浮かべた。
「はあ。まともそうかなって思ったけど、同類の残念な子だったか。それじゃ、仲良く惨めにここで人生終わらせようね」
「――ちょっと待ったあっ!」
「「アシェリ!?」」
リリムとティアが見たのは、あの転移術士を連れたアシェリの姿だった。
「て……転移術士様!」
「転移術士どの……!」
「……また会ったな。話はアシェリから全部聞いたよ。あとは俺に任せてくれ。こういうときは単純に力こそ正義なんだ……」




