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五段 すべては仲間を守るためだから


『ンギイイイ……』


 ボスのニードルマッシュルームが巨躯を反らせると、棘のついた頭部全体がめくれあがり、ひだが露になった。隙だらけなのにここでルファスが特攻しないのは、これからすぐに来る特殊攻撃をかわすのが至極困難だとわかってるからだろう。


「《ホーリーガード》!」


 先頭に立ったグリフがボスに盾を向けると、その周辺に光の粒が舞い上がり始めた。この間グリフは一切動くことはできないが、近くにいれば短時間物理攻撃を完全に無効化できるスキルだ。その間、こっちに近付こうとしているモンスターはエルジェの《フレイムバースト》でことごとく駆除されていた。


「ふふん!」

「……クソッ……」


 ルファスのやつ、顔を歪めて凄く悔しそうにしている。いい気味だ。


『ンギーーーー!』


 ボスから立て続けに棘が放たれるも、グリフのスキル《ホーリーガード》によって弾かれていく。棘には猛毒があり、掠っただけでも確実に死ぬという。噂には聞いていたが、それにしても凄まじい量だ。……お、打ち止めみたいだな。棘自体はすぐ再生したが、ボスがこの特殊な攻撃をしてくるのは一回だけらしい。


「うらああああぁっ!」

『ンギイッ!?』


 早速ルファスが猛然と斬りかかる。あっけなく終了……かと思いきや、何か様子が変だ。当たってるのに、ボスは掠り傷程度で済んでいた。それだけ固いのか……?


「……あ」


 ルファスが自分の剣を見て唖然としている。折れてしまっていた。そうか、あれだけの数のモンスターを倒してきたから既にボロボロになっていたんだ。


『ンギ、ンギッ……!』


 ジャンプして頭の棘で串刺しにしようとしてくるボスに対し、メモリーフォンから武器欄を出しながらも優雅にかわすルファス。相変わらずやることが器用だし度胸もある。ちょっとでも間違えたら死ぬのに……。試しに《テレキネシス》を使おうかと思ったが、止めた。あ、危なかった……。


 確かこのボスは魔法耐性はあまりないが、自身に対する魔法攻撃、または詠唱に反応して激怒バーサクする仕組みになっているそうだ。すべてのボスは何かの拍子でしばらく激怒する仕様になっており、その間は手が付けられなくなるほどに飛躍的に強くなる。一階層のボスも激怒状態になれば、中級者で構成されたパーティーですら苦労するらしい。


「――はっ……」


 目を疑った。エルジェの杖から飛び出した火球が、湧いてきたお化けキノコの群れの前で膨張し、爆発したんだが、その位置がボスとそこまで離れてなかったため、巻き添えにしてしまったのだ。


『……ン……ギ、ギィィィイイイイイイイッッ!』


 もう、そのスピードからして桁違いだった。激怒して赤いオーラを纏ったボスが跳躍し、エルジェの頭上に迫ろうとしていた。棘だらけの頭部を向けて。


「エルジェッ!」


 ルファスが小振りな両手剣――クレイモア――を掴んで駆け寄ろうとしてるが間に合うわけもない。


「《大転移テレポート》!」


 視界が瞬く間に塗り替えられて行く。躊躇なんてするわけなかった。すべては仲間を守るためだからな。問題はこのあとだ。


 転送部屋に到着するなり、まずはエルジェの無事を確認する。可哀想なくらい顔面蒼白だが、大丈夫そうだ。よし、あとはボスの確認のみ。


「――あ……」


 遠くで暴れていたボスの動きが穏やかになったかと思うと、ほかのパーティーに取り囲まれてあっという間にやられてしまった。ここまで歓声を届けたあと、彼らは光に包まれて消えた。次の階層へ送られたんだ。多分、俺たちが戦っている間、近くの岩場の陰に隠れて様子を見てたんだろうな。横取りされる形になったが仕方ない。仲間の命に代えられるものなんてあるわけないし……。


「おい、シギル……」

「うっ……?」


 振り返った途端、耳まで赤くしたルファスに胸ぐらを掴まれた。凄い迫力で頭が真っ白になりそうになる。


「勝手な真似しやがって……エルジェを助けるにしても、テレポートするならもっと小さいのをやれ! 何故ここまで戻る必要がある!? 盗られちまっただろうが!」

「……バ……」

「ああっ!?」

激怒バーサク状態だったから……。だから、安全な場所で一旦鎮まるのを待つ必要が……」

「……シギル、てめえぇ……俺の力が信用できねえって言うのかよ?」

「……いや、そうじゃない。ただ、もしもの場合も……」


 俺の震える言葉に、ルファスは右の口角を吊り上げた。


「おもしれえ。じゃあ俺とお前とどっちが正しいか、多数決といこうぜ」

「……え?」

「おい、ビレント。お前、シギルが激怒状態のボス近くにテレポートしていたと仮定して、どうなってたと思う?」

「……んー、ルファスの力なら、勝ってたと思う」

「だよなあ」


 ……そう言うと思った。ビレントには最初から期待してない。


「おい、グリフ。お前はどうなんだ……?」

「そ、その……」

「早く言え!」

「……そっ、その、ルファスどのが勝っていたと思う!」


 グリフのやつ、やっぱり流されちゃったか……。


「これで、エルジェがお前に賛同したとしても3対2だ。俺が正しいってことでいいよな?」

「た、正しいならどうなるっていうんだ……?」

「決まってるだろ。パーティーから抜けてもらうんだよ」

「……」

「……もうやめて……」


 エルジェの弱々しい声が耳に届いた。


「そもそも……あたしが、あたしがあんなことしたから……」

「……それもそうだな。じゃあエルジェ、てめえが抜けるか!?」

「……いや、エルジェが抜ける必要はない」

「シギルさん……?」

「俺が責任を取る。ミスなら誰にでもある。俺がルファスを信用しきれてなかったんだ。パーティーにとっては致命的だ。だから……」

「そんな……それならあたしも……」

「いいんだ。責任を取るのは俺だけでいい。俺だけで……」

「ううっ……」


 強いルファスと一緒にいたほうが、エルジェのためにもなるしな。俺のために茨の道を進むことはない。


「よくわかってるじゃねえか。ならとっとと消え失せろ、シギル。今すぐな!」

「……」


 メモリーフォンを操作し、俺は自らパーティー【ディバインクロス】を脱退した。

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