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四三段 いつの間にかそういう体質になってしまった


『……何考えてんだ、あいつ……』


 あまりにも想定外だった。例のパーティーが俺に気付いて立ち止まったかと思うと、そこから男剣士だけが武器も持たずにゆっくりとこっちに向かってきたのだ。しかも人懐っこそうな笑みまで浮かべている。


『シギル兄さんを油断させるつもりなんだろうけど、バレバレだね』

『ああ。いくらなんでも舐めすぎだろう……』


 例の弓道士や魔道術士のほうに注意しつつ、剣士が接近してくるのを待つ。相手がその気ならこっちも舐めてかかってやる。


「――うおおおおっ!」


 案の定、男が飛び掛かってきたが《微小転移》で軽くかわした。あまりにも余裕すぎて、普通にかわせたんじゃないかと思うほどだ。この剣士、見た目からしてパワーはありそうだがスピードに関しては腹も出てるし大したことないな。おそらく回復術士に《クイックムーブ》とかは掛けてもらってるんだろうけど、それでも遅い……。


「こ、このっ! 雑魚めが!」

「その雑魚に苦戦してるのは誰なんだ?」

「――クッ、クソッタレめえぇぇ!」


 男剣士が顔を紅潮させて掴みかかってくるが、難なくかわし続ける。


『シギル兄さん、この人殺さないの?』

『もう体の隅々まで《念視》で見てるからいつでも殺せるんだけど、相手がこの調子じゃつまらないからな』

『簡単すぎるのは嫌なんだね』

『ああ。全然燃えない……』


 なんせ、俺はあの超スパルタ師匠の一番弟子なわけだからな。いつの間にかそういう体質になってしまった。


「こっちが甘く見りゃあ、つけあがりやがってよう……。そろそろ遊びは終わりにしてぶっ殺してやる。雑魚の転移術士めが……」


 お、ようやく剣を出してきたか。ボス狩りでも使っていたロングソードだ。剣士はこうでなくっちゃな。


「《ラッシュアタック》!」


 しかも、剣士の最上位スキル《ラッシュアタック》まで使ってきた。体力の消耗は激しくなるものの、熟練度が増すたびに効果時間が伸びていき、使っている間は速度が三倍になるというSランクスキルだ。ダンジョンのボス戦終盤でよく見かける有名な強スキルだが、あらゆる基本スキルをマスターしないと覚えられないので、初心者の剣士にとっては憧れのスキルになっている。ルファスも確か覚えてたはずだが、それを入れるとAランクスキルの《双性剣》が使えなくなるせいかあまり使うところは見てない。


「死ねえええええぇぇっ!」


 おお、かなり速くなった。それでも《微小転移》だと余裕で避けられるが、これなら普通にかわすとなると難しいだろう。






 ◆◆◆






「ガートナーのバカ野郎が……最弱職の転移術士相手にいつまで遊んでるんだい。とっととぶった切ればいいのにさあ……」

「もう遊んでないと思う」

「……え?」


 レッケの台詞に、聖騎士ジェリスは唖然とした顔で返した。


「……ば、バカ言うんじゃないよレッケ! 確かにガートナーはブサイクで性悪でどうしようもない糞剣士だけど、転移術士なんかに苦戦するほど雑魚じゃないんだよ!」

「いやいや、ジェリス。レッケの言う通りだぞ……。ガートナーがラッシュアタックまで使って遊んでいると思うのかね? あの転移術士、只者ではないぞ……」

「アムディまで……。只者じゃないっていうけどさあ、あたいにはただ逃げてるだけにしか見えないよ……」

「いや、転移術士にあんな避け方は普通できないよ」

「ですなぁ。私には、逆にガートナーさんが遊ばれているように見えるのですよ! 私のヒールよりも連打がきくテレポートなんて初めて見ました……。ハー、ハー……」

「ネヘル、あんたは息が臭いんだから支援だけして黙ってな! あの糞転移術士、逃げ足が速いのが得意だからって調子に乗りやがって! あたいがガートナーに助太刀してやる!」


 ジェリスがメモリーフォンの武器欄から両手槍パルチザンを取り出す。


「いや、ジェリス。あいつは僕がやるよ」

「うむ。レッケにやらせたほうが早いだろう」

「……そ、そりゃそうだけど、それじゃあたいの立場は……」

「ジェリスさん、あの転移術士が死んだら、その槍で蜂の巣にしてやればいいのですよ! ハー、ハー……」

「……ネヘル。あんた、原形とどめた状態で渡してほしいって言ったはずじゃ……」

「それくらいなら、私にとっては麗しき装飾でしかないのです……!」

「……今更だけど、気持ち悪すぎるよ、あんた……」

「ああぁ、なんて心地よい誉め言葉……。ジェリスさん、もっと罵ってください!」

「いい加減にしな、おぞましいゴミ人間が!」

「イクウゥゥッ!」

「いい加減に黙れよ、ネヘル」

「……あ、あ、あ、は、はい……」


 レッケの一言で、回復術士ネヘルの顔は見る見る青くなった。この弓道士の恐ろしさはパーティーメンバーがよく知っているのだ。彼は虫けらのように人を殺す。たとえそれが肉親であろうとも。だから声色が少し強くなるだけでも、彼をよく知る者は震えあがるのだ。


「レッケ、お前なら容易くやれるだろう」

「うん。あれなら一発で殺せると思う」


 確かに、あの転移術士の動きは尋常ではない。だが、それでも当てるのに《心眼》すら必要ないとレッケは確信し、とても静かに弓を構えた。

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