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四段 全然感情が籠もってないその言い方はなんだよ


「このおーっ!《フレイムバースト》!」


 無双するルファスのやや後方、エルジェの掲げた杖から放出された火球が、うじゃうじゃと湧いてきたキノコ型のモンスターたちの前で一気に膨張し、破裂する。


『ンニィィィー!』


 断末魔の叫び声とともに美味しそうな匂いがここまで漂ってきた。さすが食用キノコをドロップするだけある。こいつら自体は両目や口もあって不気味で食べたいとは思わないが……。そういや、アックスマッシュルームの属性は地だから火に滅法弱いんだっけか。


「《クイックムーブ》! それっ!」


 ビレントが速度を上げるスキルで自身のみブーストして、俊敏な動きでメイスを振り回し、弱ったキノコを叩きまくっている。ここはヒール砲が効くアンデッドが出てこないし結果オーライか。倒すのに時間がかかりそうだが。


「おい、ビレント、お前自分の仕事忘れてるだろ!」

「……へ?」

「ちょっと! ルファスのせいでこうなってるのに、何言ってんの!」


 エルジェに完全同意だ。正直ビレントは好きじゃないが、積極的に他人を支援してる場合でもない。そうしないとタダ働きになるっていうのに……。


「んなのわかってる! 俺が言いたいのは、ボスがいつ出て来るかわからないんだからクイックを掛けるくらい、今のうちに俺にやっとけってことだ!」

「じゃあそのときにやるよ!」

「お前……やらなかったら本気で殺すからな!」

「ひっ……」


 おお怖い。ルファスの怒号でビレントが竦みあがっているのがわかる。さすがに要求が厳しすぎるな、ルファスは……。


 ただ、ボスに警戒しておかないといけないというのはあいつの言う通りだ。ボスを制限時間の五分以内に倒せば、その階層の攻略となって次の階層の転送部屋に送られるという仕組みだった。偶然出てくるというわけではなく、ある程度モンスターを倒さないと出てこないようになっている。


 ボスは大抵、その階層に住むモンスターの強化版なのだが、それに比べると極めて強く、属性も厄介なものが多い。ここは確か毒だったか。毒属性は弱点がないんだよな……。


「う、うわああっ!」


 まずい。ビレントが挟撃に遭い、後ろから襲ってきたアックスマッシュルームの攻撃をかわそうとして転んでしまった。


「《テレキネシス》!」


 そいつを飛ばしたが、直後にビレントは前から来たモンスターの斧も食らおうとしていた。あれはもう《テレキネシス》じゃ間に合わない。メイスを掲げて受け身になっているので、なんとか軽傷で済んでくれれば……。


「ビレントどの! 大丈夫だ!」


 グリフの声だ。大丈夫ってことは、まさかあれを使ったのか……?


「――ぬうっ!」


 ビレントの胴体部分に斧が命中した瞬間、痛そうな声を上げたのはグリフだった。やはりそうか。近くにいる者が受けたダメージを肩代わりする聖騎士クルセイダーのスキル《サクリファイス》をビレントに掛けていたんだ。てっきりルファスに使っているものとばかり思っていた。


「グリフさん、サンキュー! 死ぬかと思った……」

「お、おうっ! うぐっ……」

「あっ……《ヒール》!」


 グリフが槍に凭れかかるようにして苦し気に跪いたが、ビレントから思い出したような顔で《ヒール》を貰うとすぐ立ち上がった。大丈夫そうだ。


《サクリファイス》というスキルは一人にしか掛けられないみたいだから、もしルファスにかけていたら、一度解除して再使用する必要があるので間に合わなかっただろう。グリフも自分で稼ぐ必要があったから、誰にも使ってなかったのがよかったんだろうな。って、ビレントのやつ、俺にお礼はなしか……。


「……」


 そうだ、仲間のことばかり気にしてるわけにもいかない。俺も稼がないといけないってのに


「《テレキネシス》!」

『ンニー!?』


 火傷してフラフラと歩くアックスマッシュルームを吹き飛ばし、壁に叩きつけてやるとそのまま倒れて消失した。よしっ、一匹だけでも倒せた。この調子だ。エルジェが俺たちのためを思ってか、時々わざと手加減してくれてるみたいで助かる。


「《テレキネシス》――」

「――貰いっ!」


 あ……。しまった。ビレントが殴りかかろうとしたキノコを吹き飛ばしてしまった。しかもキノコはそのままルファスの近くまで行ったもんだから一瞬でバラバラだ。


「ご、ごめ……」

「ちっ……」


 ビレントに思いっ切り睨まれた挙句、舌打ちされてしまった。感じの悪いやつだとは思ってたが、ここまでとはな。確かに今のは俺が悪いとはいえ、仲間、それも先輩に対して態度悪すぎだろう……。


 うっ……? この強い振動は……。ボスだ。間違いない。みんな表情からも警戒心の度合いを一段と上げているのがわかる。ボスが出現するときは、必ずこの兆候があるんだ。激しい揺れが収まると、近くに大きな魔法陣が浮かび上がってきた。


「――《プロテクション》!」


 ビレントがみんなに速度だけじゃなく、防御力を強化するスキルを掛け始めた。よし、これで安心……って、あれ? 俺にはないのかよ……。


「ビレント、俺にも支援頼む!」

「……」

「ビレント!」

「……あ、忘れてた。ごめん、シギル先輩」

「……」


 ようやく支援してくれたが……全然感情が籠もってないその言い方はなんだよ……っと、それどころじゃなかった。魔法陣がバチバチと音を立てながら輝き始めたかと思うと、閃光とともにボスが出現した。十一階層のボス、ニードルマッシュルームだ。


『……ンギイィィ……』


 サイズは大型で、それまで相手にしてきたモンスターの二倍ほどの体長があり、頭部の部分が普通のキノコのようになっているが、長い棘がびっしりと覆っているのが特徴だった。こうして実際に見るとかなり威圧感を覚えた。間違いなく、今までのものとは比べものにならないくらい強いと肌で感じるほどだ……。

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