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三九段 色んな意味で臨戦態勢だな


「……師匠、熱いですぅ……」

「……だな……」


 ……《テレキネシス》で俺のあとをついてきてるラユルの目に力がなくなっていくのがわかる。例のパーティーは全然見つからないし、どこもかしこも蟻対策で火柱が立ってるしで嫌になる。ここがこれだけ火で溢れてるのも、それで簡単に蟻を倒せるからなんだろうけどな。やつらはハニーアントという名前らしく、高確率で蜜石という食用アイテムを落とすんだが、それを目的でどんどん蟻が集まってきて、自ら火柱に飛び込んでいくという、まさにパーティーにとってはウハウハな状況になるわけだ。


「少し休むか」

「はぁい!」


 こういうときに露骨に元気になるラユルはわかりやすくて大好きだ。ちょうど空いている場所があったので、そこにある岩場に背中から凭れるようにして休むことにした。蟻は周りに沢山いるものの、モグラ同様アクティブじゃないし、動きが鈍いために間違って攻撃しても安全っていうのもまた人気の要素なんだろう。火柱に蟻の群れが当たってアクティブになっている状態で、それを切らしたらまずいことになるが……。


「わあ……どんどん生まれてますねえ……」

「……ああ」


 ラユルは、そこらへんに転がってる卵から次々と蟻が誕生していく過程にお子様らしく興味津々の様子だ。


「――おい」

「……」

「おい、無視かよ」

「ん、俺たちのことか?」

「はあ? ほかに誰がいんだよ、アホかお前」


 折角いい気分だったのに感じの悪いやつに絡まれた。男剣士ソードマンで、しかもルファスっぽい声だったから苛立ちが増したが、あいつと比べると顔の出来はかなり悪かった。ただ、ブサイクでもやたらと憎たらしい顔をしてるから余計むかついたが。


「ちょっと! 師匠にアホとはなんですかぁ!」

「……あ? 殺すぞクソガキッ」

「が、ガキですけどガキじゃないです!」

「……」


 意味不明だったのか、相手が困惑した顔をしている。ラユルって割と煽りに強いタイプかもしれないな。お、やつの後ろから仲間っぽいのが二人やってきた。女回復術士ヒーラー男魔道術士ウィザードだ。


「ゼフィー? 何かあったー?」

「ゼフィス、どうしたんだい」

「ああ、こいつらがさ、俺たちの場所を横取りしてやがったんだよ」

「「えー!」」

「……」


 こいつ、妙なことを言いだしたな。野次馬っぽいのも周りにやってきて冷たい視線をぶつけてくるのがわかる。まったく、とんでもない濡れ衣を着せられたものだ……。


「いや、待て。俺たちの場所っていうけど、誰もいなかったぞ。名前でも書いてあったのか?」

「そうですよ! 師匠の言う通り、誰もいなかったんですよ!」

「……らしいけど、ゼフィー、もしかしてここ離れてたの?」

「離れてたのかい?」

「……は、離れてねえよ! こいつらと俺、どっちを信じるつもりなんだよ!」


 なるほど、この剣士が場所を取るためにここにいたのは間違いないんだろうが、なんらかの理由で離れてて、ちょうどそのタイミングで俺たちが来たというわけか。


「というかゼフィって前もこういうことあったよね?」

「うん、あったよね」

「くっ……」


 どうやら、以前にも同じことで揉めたらしい。仲間からも信頼されてないっぽいな、こいつ……。


「大体、おめーらがおせえのが悪いんだろ! イライラして蟻どもを一人で片付けてたら、いつの間にか離れてたんだよ! ……あ」


 どうやら俺たちの無実が証明されたようだ。それも、俺たちがこの場所を横取りしたと主張していた本人の口によって……。


「ほら、どうですかぁ! 悪いのはそっちですよ!」

「クソッ……」

「わわっ……」


 やつがラユルに剣を向けてきたので、俺がその前に立った。


「お前……謝らずに開き直るのか? 俺たちは休憩してただけだしすぐここから離れるつもりだったが、やる気なら相手になるぞ」

「……あ? てめえ、この俺に舐めた口きいてんじゃねえぞ!」

「ちょっと、ゼフィ―、あなたが悪いんでしょ。やめなさいって。ほら、ディルもなんとか言って」

「ああ、ミシャの言う通りだ。もうやめたまえ、ゼフィス。元はと言えば君が悪いんだろう……」

「うっせえ! 見た感じ、こいつら見学に来ただけの雑魚だろ。生意気だからやっちまおうぜ!」


『シギル兄さん、どうする?』

『……やつの仲間の反応を見てから決めよう』

『うん』


「私はやらないから、勝手にどうぞ」

「僕もミシャと同意見だ」

「おめーら……もういいっ! 俺だけでもやってやる!」


『……仲間が気の毒だしお仕置き程度でいいだろう』

『そうだね』


「《微小転移テレポート》!」

「……えっ……」


 ゼフィスとかいう剣士は、ようやく自分が真っ裸で剣を構えていることに気が付いたようだ。色んな意味で臨戦態勢だな……。


「ちょ、ちょっと、なんで脱いで……」

「は、破廉恥すぎる……」


 仲間はかなりゼフィスから遠ざかってるな。他人の振りをしたいらしい。


「い、いやん……」


 ラユル、恥ずかしそうに両手で顔を覆ってるが、目も指の間隔もしっかり開いてるぞ……。


「――ど、どわああああああぁぁぁっ!?」


 色んなパーティーに笑われながら、今にも噴火しそうな勢いで股間を押さえて逃げていくゼフィス。落とした剣すら拾わずにさっさと帰ってしまうなんて、もう剣士失格だな。これからはストリッパーとして生きていくことだ。あるいは、股間のものを剣だと言い張るか? いずれにせよ仲間からは見捨てられるだろうが……。


『リセス、裸くらいでって言わないのか?』

『……シギル兄さんの意地悪』

『……ははっ』


 さすがに男の裸体はリセスにとっても強烈で言葉が出なかったか。それに、あいつ結構なモノをぶら下げてたからな……。

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