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三三段 これ以上ないくらいの顔芸で示してくれた


『ギュッ、ギュッ、ギュウウウウゥゥゥッ!』


 周辺の岩石に、次々と赤い肉片がこびりついていく。最早、一方的な殺戮と言ってよかった。激怒状態のスチームバットにとって、支援もなくバラバラになったパーティーは恰好の的だからだ。最後まで抵抗していた聖騎士も、《ホーリーガード》をしている状態では動くこともできず、遠目に見ているこっちまで息苦しさを覚えるほどの蒸し暑さにやられたのか、スキルが解けると牙に引っ掛けられた状態であっちこっち飛ばされ、仲間の男剣士や女戦士と同じように挽き肉にされてしまった。


 その一方、魔道術士の少女ルシアと回復術士の男バルドは、充分に離れた場所から余裕の表情で仲間の惨たらしい最期を見届けたかと思うと、激怒状態が解けたボスに手を出すこともせず、お互いに顔を見合わせて談笑している様子だった。よし、そっと近付いて話を聞いてみるか。やつらのいる岩の後ろまで《微小転移》で移動する。


「――メモリーフォン、壊れてないといいけどなあ」

「バルドは相変わらず心配性ね。丈夫に出来てるんだし、どうせ全部無事に残ってるっしょ」

「けど、いかにも稼いでそうなやつのが壊れてたこともあったぜ? ほら、ルシアにしつこく自慢してたおっさんの錬金術士がいただろ」

「あれ一回だけじゃん。しっかしあいつらの今までの人生、全部私たちに貢ぐためでしかなかったなんて、ホント笑えるよね」

「だなあ」


 ……なるほど。冒険者のボス狩りを妨害していたのはこのためだったのか。しかも【中級者殺し】のスチームバットなら、激怒させればほぼ確実に皆殺しにできるだろうしな。それで仲間のメモリーフォンに残っている金や装備を丸ごと頂く、と。考えたもんだ……。


「それにしても、あいつらまだ転送部屋にいるのかな?」

「どうだろ? まあいくら犯人を探したところで無駄なことだけどね。なんか妙にお強い連中だったし、もう会うこともないんじゃない?」


 どうやら俺たちのことを言ってるようだが、こっちには殺し屋レイドもいるんだ。相手が悪すぎたな……。


『行くか』

『シギル兄さん、大丈夫?』

『ん、あんなの俺一人でも行けるって』

『うん。知ってるけど、私もやりたいなって……』

『……次は任せる』

『うん』


《念視》でやつらの体内をじっくり観察したあと、なるべく自然な感じを装ってやつらの前に登場してみせた。


「――よう、お前たち、また会ったな」

「「え?」」

「あのときのお礼がしたくてな……《微小転移テレポート》!」


 ルシアの杖の先から水属性魔法ウォータークラッシュが作り出されるのが見えたときには、もう《イリーガルスペル》を伴った《微小転移》が決まっていた。


「これで《マインドキャスト》はもう使えないな。足元見ろよ」

「……は……?」


 バルドの目が下に向いてから3秒ほど経ち、ようやく今の状況というものをこれ以上ないくらいの顔芸で示してくれた。ルシアが倒れたことを知り、やっと誰の脳みそなのかわかってくれたみたいだ。ちょっと遅いな。


「……ひ、ひ……ひぎいいいいいいぃぃっ――!《クイックムーブ》!」

「――《微小転移》!」


 膝と足首の間にある骨――脛骨と腓骨――を全部飛ばしてやったからもう逃げられない。


「ぎぎい!《ヒール》!《ヒール》!《プロテクション》!」

「……痛いか? でもな、残念ながら《微小転移》は攻撃魔法じゃないから、《プロテクション》を貫通するんだ」

「お、おおっ、お願いだっ、だずっ、だずげてくでぇ……!」

「この痛さに耐えられたら考えてやるよ。《微小転移》――!」

「……」


 体の色んな箇所の骨を少しずつずらしてやった結果、バルドはすぐに白目をむいて失神してしまった。不合格ということで、ルシアと同じように脳を飛ばし、仲良く並べておいた。最期までお揃いでよかったな。メモリーフォンはみんな潰しておくか。こういう卑劣なやり方で甘い汁を吸おうとするやつらがもう二度と出てこないように……。






 ◆◆◆






「――じゃじゃーん!」


 服が破れてしまったこともあり、ラユルが新コスチュームを披露してくれるということで、翌日の午前十時にセリスを交えて例の溜まり場に向かったわけだが、着替えを終えてトイレの個室から意気揚々と飛び出してきたラユルを前に、なんとも言えない空気が漂っていた。


「どーですかあ、ほら、ほらぁっ!」

「……」


 肩に掛かった青いケープはいいんだが、その下がな……。お臍とお尻丸出しの黒い腰布がいくらなんでも無防備すぎる。


「ラユル、それじゃあまりにもだな……」

「は、はい……」

「防御力なさすぎだろ!」

「そっちですか!」

「違うの?」

「違いますっ。ご主人様……私の頭をなでなでしますか? それとも、お・し・り?」

「こらっ」

「はうっ……」


 おでこに俺のチョップを受けて痛がるラユル。言いたいことはわかるが、あえてスルーした。こんな露出の多い格好でも、さすがに幼女じゃ色気なんて感じないしな。ゴミ箱の上に座ってる黒猫のミミルなんて欠伸しちゃってるし……。


『ラユルのお尻、撫でてあげればいいのに』

『リセス……』

『ごめん、冗談……』


 リセス、声が笑ってるぞ。俺をからかってそんなに楽しいか……。


「ラユルちゃん、とっても可愛いから私がなでなでしてあげる! よしよしっ」

「あうあう……」

「……」


 なんせ十二歳のセリスに頭を撫でられるような見た目レベルだからな。完全に年下扱いだ……。

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