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三段 こんな状況で使うことになるとは夢にも思わなかった


 ダンジョンへと続く細長い通路で、俺はメモリーフォンによってスキル構成を久々に見直していた。転移術士が戦闘に参加するなら、みんなを地上へ帰還させる《極大転移》を外す必要があると感じたのだ。


 これはSランクなので精神容量キャパシティを8割も圧迫するから、あとは2割の容量を使うCランクのスキルのみ、それも一つしか追加できないのだ。Cランクとなると、覚えているものでは《小転移》、《リラクゼーション》、《集中力向上》、《ムービングキャスト》くらいであり、直接戦闘に関与できるものはない。


 かなり勇気のいる決断だったが、仕方ない。戦況に注視しつつ隙を見て変更すればいい。


 まず緊急離脱用に、《大転移》というAランクスキルを入れる。これは、同じ階層内ならどれだけ広かろうがどこでも飛ぶことが可能だし、一つだけなら上下に階層移動もできる。当然、一度行ったことのある場所限定だが。ダンジョンには各階層にモンスターが湧かない転送部屋があるので、そこまで飛べばいい。《中転移》でもいいが、届かない可能性もわずかにあるからな。


 Aランクなら5割しか精神容量を使わないので、もう一つ同じランクを入れるか、あるいは3割を要するBランクとCランクのスキルを一つずつ入れることも可能だ。


 というわけで《大転移》のほかに、念動力で単体の敵を吹き飛ばすことのできるBランクスキル《テレキネシス》と、術の成功率を飛躍的に上昇させるCランクスキル《集中力向上》を入れるスキル構成にした。


 俺は転移術士にこだわりがあるから、普段使わないものであっても覚えているスキルの熟練度はすべてマックスの10にしている。お宝や階層の攻略目前で味方が傷つき、戦えなくなったときに使うこともあるかもしれないと思い、街の外で密かに磨いていたスキル。まさか、こんな状況で使うことになるとは夢にも思わなかった。


 それでも、転移術士を辞めてしまうよりは遥かにいい。冒険者の中には、パーティーでの役目が変わるとジョブそのものを変更するやつがいるらしいが、俺には到底考えられない話だ。転職するにも試験を受けなければならないし、スキルの熟練度がすべて無になってしまうというのに……。


 ――っと、もう着いたのか。


 メモリーフォンに意識を傾けすぎて、歩くのを止めたビレントにぶつかりそうになった。円状のトランスボードが置かれた通路の奥まではいつもより短く感じた。


「それでは、出発するのであーるっ!」


 リーダーのグリフがトランスボードに乗り、ビシッという音が出そうないつもの敬礼する仕草を見せたが、相変わらず真似をするやつは誰もいない。若干可哀想だと思うが、さすがに恥ずかしいしな……。


 まだ初心者の頃は一人だけ乗って大丈夫なのかと思っていたが、パーティーとしてリンクされているので俺たちも移動できるんだ。リーダーがメモリーフォンで設定した場所に飛ぶ仕組みなので、目的地も既定の最新階層行き、すなわち十一階だ。


 しばらくして、周囲の景色がまったく違うものに変化していく。《極大転移》と違って、10秒くらい時間を掛けてゆっくりと切り替わっていく感覚だ。


 気が付くと、一か所だけ開かれた殺風景な小部屋に俺たちはいた。扉はないものの、この転送部屋にはモンスターを寄せ付けない特殊な結界が施されており、冒険者同士でもパーティー同様、強い攻撃はし合えない仕様なのでここでゆっくり休憩することも、展望を窺うこともできる。また、スキルはヒールしか使えないが、ここからは武器を取り出すことも可能だ。


 十一階からはジメジメした空気の漂う薄暗い洞窟が舞台だとは聞いてたが、予想以上に不気味で気温も高く、早速色んなところから汗が滲み出てきた。十階までは石壁に区切られただけの普通すぎる迷宮だったから余計にそう感じるのかもしれない。


「今日の得物はこいつでいいな」


 ルファスがメモリーフォン上に浮いた武器欄から滅法大きな両手剣――ツヴァイハンダー――を取り出し、あっさりと安全地帯と危険地帯の境界線をまたいでしまった。新階層に突入するとはいえ、今や留まることを知らないルファスのやりそうなことだ。やはり移動しながらスキル構成を終わらせたのは正解だった。ほかのみんなも息つく暇もなく、慌てて武器欄から杖やら槍やらを取り出そうとしている。


「遅れた分を取り戻すぞ!」

「ちょっと! ルファス、それはさすがに急ぎすぎ! 待ちなさいよ!」

「あっちゃー、ロッドじゃなくて慌ててメイスのほう取っちゃった!」

「うおおおっ、みんな、頼むから待ってくれー!」

「……」


 ルファスの背中をエルジェ、ビレント、グリフが追いかけていき、少し遅れて俺が転送部屋を出る形になった。


 ダンジョンのどの階層にどんなモンスターが出現し、どう戦えばいいのかは、冒険者の間で未知数の階層と言われる百階層台までは大体マニュアルでわかるようになっている。細かい部分は、実際に戦ってみないとわからないが、確かここはアックスマッシュルームとかいう、頭部が斧の形をした中型――人間サイズ――のキノコ型モンスターが出てくるところで、とにかく攻撃力が高くて近接職は特に気を遣わないといけない場所だったはずだ。やつらは倒すとたまに食用キノコをドロップするらしい。お、早速やつらがうようよと出てきた。


『ンニィー!』


 そのうちの一匹がルファスに対して自身の斧を振り下ろすも、あっさり避けられて地面に火花が咲く。


「はああああぁっ!」


 ルファスの威勢のいい掛け声とともに大剣が振り下ろされると、同時にもう一つの分厚い刃が下から出現し、モンスターの体は三つに分かれ、体液をぶちまけながら消失した。あれこそ、ルファスのAランクスキル《双性剣ツインエッジ》だ。肝心なときに出す必殺技というわけじゃなく、パッシブスキルだからな、あの威力で……。

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