二七段 同時に脆さも同居しているように感じた
「――と、こういうわけなんだ……」
「……」
おや、あれだけ元気だったラユルが急にしおらしくなってしまった。お子様に俺の話はちょっと衝撃的すぎたかな。
「ううぅ……！」
そうかと思うと、ラユルは急に涙目になって立ち上がった。そうか、あまりの深刻さに、関わったらまずいと考えて逃げるつもりなんだな。この子は殺したくなかったが仕方ない……。
「感動しましたっ！」
「え……？」
「シギルさんの境遇、私とそっくりだと思って……！」
「そっくり……？」
「はいっ。何を隠そう、シギルさんが壊滅させたあのパーティーは、私を追い出した憎い連中なんです！」
「ええっ……」
じゃあ、まさか彼女があの場所にいたのは、恨みを晴らそうとしていたからなのか。俺みたいに……。
「私、元々あのパーティーで魔道術士をやってたんですけど、私の魔法があまりにもノーコンだったんで……転移術士なら関係ないってことで、変更したんです！ でも、別のところでとちっちゃって、追放されて……」
「なるほど……」
転移系のスキルはノーコンとか関係ないからな。自分が記憶した場所にのみ飛べるわけだし。
「別のところでとちったって？」
「《テレキネシス》を入れてたんですけど、ボス戦のときにそれで周りの邪魔なモンスターを飛ばそうとして……何故かボスに当たっちゃいました！」
「……」
読めてきたな。それでパーティーメンバーもボスみたいに激怒状態になって、ラユルは追放されたわけだ。
「でもでも、必死だったんです！ もう二度と《テレキネシス》は入れませんって、泣きながら土下座までしたのに……。そもそも転移系スキルしか使わない役立たずは必要ないって、一蹴されちゃいました。せっかく、ずっと頑張ってきた魔道術士を辞めてまで尽くしたのに……」
「……そりゃ酷いな」
転職までするのは相当な覚悟があったはず。今まで頑張って熟練度を上げてきたのがすべて無駄になるからな。なのにたった一度のミスであっさり捨てられるなんて……。
「ですよね！ あんなやつらもーぶっ殺してやろうと思って、岩陰に隠れて様子を窺ってたんです。そしたらシギルさんがみんな殺しちゃってるのを見て……感動のあまり、お漏らししそうになりました……！」
「……」
ドヤ顔で言う台詞じゃないが、確かに境遇は俺に少し似ているとは思った。
「ちなみに、どんな方法で殺すつもりだったんだ？」
「もちろん、きゃつらと交戦中のボスに《テレキネシス》を当てて激怒状態にするつもりでしたよ！」
「……ラユルってノーコンなんだろ？ 当たるかな？」
「……あ、当たらないかもしれませんね……」
俺がいなかったら、この子もあとでリンチされてたのかもな。……おっと、いつの間にか、周りが客だらけになっていたと思ったら夕陽も射し込んでいた。もうこんな時間になっていたのか……。立て続けに十二階層を攻略しようと思っていたが、今日はもう止めておくとしよう。リセスからもまったく反応がなくなったし、起こすのも悪い。
「そろそろ夕飯にしようか」
「あ、はーい！」
お腹も空いてきたしちょうどよかった。いつもこのカフェはこの時間帯になると満席になって、なかなか席が空かないからな。ラユルが楽しそうにメニューを見ていて微笑ましい。周りにはちらほらとカップルっぽい男女の姿も散見するが、俺たちってやっぱりどう見ても親子くらいにしか思われないんだろうな……。
「なーんにしよっかなあ」
「……ラユルは問答無用でお子様ランチだろ？」
「うぅ……じゃあ、それにします！」
「するのか……」
「はい！」
……幼女っぽい見た目を気にしてそうだったが、意外にもコンプレックスはあまりないっぽいな。性格的におおらかであまり気にしないタイプなのかもしれないが……。っと、そうだ。お子様といえば、セリスを連れてこなきゃな。友達との突然の再会に二人ともびっくりするだろう。
「ちょっと知り合い連れてくるから、先に食べてて」
「はーい！ あ、その前に、パーティー登録をお願いします！」
「あ……」
そうだった。地味にパーティーという言葉がトラウマになっててその選択肢が浮かばなかった。
「俺が作るよ」
「はいです！」
なんてパーティー名にするか……。んー、どうせ公開しないんだし、とりあえず【シギルとレイド】にしておこうかな。これならほかのパーティー名と被って作成不可になることもないだろうし。最新階層のボスを倒せばホール一階の巨大掲示板で映像とともにアナウンスされるが、確か冒険者の最高到達階層は９５階層だったし、今の俺たちにはまったく縁のない話だ。当然、金銭獲得は分配方式にする。……よし、できた。パーティー加入要請を出すと、ラユルが即受諾して満足げにピースサインを出してきた。
「じゃあ行ってくるよ」
「お待ちしてまーす！」
『……あ』
『お、起きたのか、リセス』
『うん。意識はあったんだけど、朦朧としてた……』
『はは……』
『今日はもうダンジョンには行かないの？』
『ああ。休むことも大事だからな』
『……ありがとう、シギル兄さん』
『……おやすみ、リセス』
『おやすみ』
復讐も大事だが、仲間も大事だからな。たまに、リセスが突然消えてしまうんじゃないかと思うときがある。精神だけの状態というのはある意味無敵なんだが、同時に脆さも同居しているように感じたんだ。復讐のために無理して仲間を失うようなことだけは絶対に避けたい。
