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二三段 この圧倒的な破壊力に面食らっている


 狩りに行ったらしく、溜まり場には誰もいなくなった。結局、エルジェたちの制覇階層はわからずじまいだったが、やつらの姿を実際に見られたことはよかった。本当に無事で良かったと心の底から思う。やつらをこの手で殺せるのだから……。


「――それじゃ、行ってくる」

「うん! 行ってらっしゃーい!」


 トランスボードに乗ってまもなく、背景を含めたセリスの姿が徐々に歪むようにして消えてなくなり、別の景色がぬっと割り込んでくる。セリスの澄み切った笑顔や通路の明るさとは一転して、陰気な空気漂う洞窟が舞台の十一階層だ。例の頭部が斧の形をした人間サイズのキノコ――アックスマッシュルーム――がピョンピョンと跳び回ってるのがこの転送部屋からも窺える。


 ソロよりパーティーで行ったほうが早いとは思うが、メンバーやパーティーを募集することで自分がまだ生きていることをあの殺し屋に知られる可能性もあるし、仮名表示だと訳ありだと思われて避けられる可能性が高いことから断念した。何より、転移術士は人気がないからな。


『そういや、リセスは何階まで攻略してたんだ?』

『三十階』

『さ、三十……』


 固定パーティーを作らずにそこまで行ったのは凄いな。


『でも、私の能力だと対モンスターはその辺が限界かな。シギル兄さんは無限大の可能性があると思う』

『……ん? それって、宿主が切り替わったら《イリーガルスペル》は使えないってこと?』

『うん。私の《憑依》がシギル兄さんには使えないのと同じことだよ』

『……なるほど』


 対人と対モンスターを両立させるのは難しそうだ。殺し屋が来たら、現状だとリセスに代わってもらうしか術がない。


『とりあえず対モンスターのスキル構成で行くよ。何かあったときはリセスが変えてくれ』

『うん』


 スキル構成は《微小転移》《イリーガルスペル》《念視》《集中力向上》にした。もう一つ《マインドキャスト》も入れたかったが、もう精神容量キャパシティを9割まで食ってるし仕方ない。それに、ここじゃまだ必要なさそうだ。


『――ンニー!』


 こっちに気が付き、小さなジャンプを繰り返しながら向かってくるお化けキノコ。俺の前まで来ると、ニヤリと笑って頭についた斧を振り下ろしてきたが難なくかわす。移動や攻撃の際にいちいち止まるので、複数に狙われない限りは転移系スキルがなくても当たる気がしない。


 かわしたついでに中身を《念視》すると、中心に蠢く黒い石のようなものが見えた。あれがおそらくアックスマッシュルームの心臓部分なのだろう。凝魔石、人工心臓、錬金術といった様々なものを組み合わせることで作られている、すべてのモンスターを動かす原動力だ。


「《微小転移テレポート》!」

『ンニッ……?』


 呆然とするキノコの目前にぼとりと落ちる黒い石。まだ跳ねるように動いている。


『……ンニィィ……』


 徐々に弱っていく自分の心臓を悲しそうに見ながら干からびていく姿は、モンスターとはいえ哀愁を誘った。黒い石――心臓――とモンスターは同時に消え失せていく。


『見事だね、シギル兄さん』

『あ、ああ、ありがとう。リセス』


 あっという間に一匹殺せた。この圧倒的な破壊力に面食らっている。なんか、以前とはまったく別の職みたいになったな……。






 ◆◆◆






「――《微小転移》!」

『ンニッ……』


 慣れたもので、キノコたちは俺に気付く前に心臓を飛ばされるパターンが多くなってきた。捕捉される前に《微小転移》によって細かく機敏に動き、点在する岩場の陰で小休止しつつ、同じく《微小転移》によってとどめを刺す。それも単体だけでなく、複数同時だ。一度《念視》を使ったモンスターにはそれすら必要なく、ただある程度接近して心臓を飛ばすだけでよかった。


「ふう……」


 ほかのパーティーも見当たらないし、十一階層は最早完全に俺の独壇場へと変わってしまった。獲得できる金銭は大した量じゃないが、独占したおかげでもう三日分の食事代と宿代が貯まってしまった。おっ、この大きな振動……早速ボスが出てくるみたいだ。やがて、眩い光とともに魔法陣から巨大なキノコ型モンスター、ボスのニードルマッシュルームが姿を現した。


「いるいるぅ!」

「お、ラッキー! みんな行くぞ!」

「頂きっ!」

「タイミングばっちりだねっ!」

「……なっ……」


 いきなり後方から歓声がして、一瞬何が起こったのかわからなかったが、すぐにほかのパーティーに割り込まれたと気が付く。やつらは当たり前のように俺を追い抜き、嬉々とした様子でボスに向かっていった。女剣士ソードマン男拳闘士モンク男魔道術士ウィザード女回復術士ヒーラーの計四人だ。なんなんだあいつら。俺がここにいるのを知らないはずもない。俺が転移術士かどうかは、灰色のローブだから見た目じゃわからないと思うが、こうも簡単に横取りしてくるのはソロだからか? 舐められたものだ……。


「おい、お前たち! それは俺が出したボスだぞ!」


 大声を出したが、やつらのうち何人かがこっちをちらっと見ただけで、ボスに対する攻撃を止める素振りは一切なかった。というか、振り返ったやつの中にはせせら笑ってるのまでいる。あの男拳闘士だ。力量的にもパーティーを引っ張ってるし、周りに偉そうに指示も出してるしあいつがリーダーっぽいな。ふざけやがって……。


『シギル兄さん、早くやらないとボス倒されちゃうよ』

『やつらを殺すってことか?』

『うん』

『……』


 腹は立つが、実際に殺すとなると躊躇してしまう……。


『厳しいことを言うようだけど、ここで殺せないなら、シギル兄さんの目的を達成することも無理だと思う』

『……』


 そりゃそうだよな。こんな弱腰じゃエルジェたちだって殺せやしないだろう。やるしかないんだ、やるしか……。


『シギル兄さん、私に任せて』

『え?』

『一人だけ残すから、あとは頼むね』

『え、ちょっと……』

『ボスが弱ってきたみたい。早く私に代わって』

『わ、わかった……!』


 力を抜いた途端、体の自由が利かなくなる。この体の宿主が俺からリセス……いや、殺し屋のレイドに切り替わったということだ。俺は一度止めるように声を上げたんだし、それを聞こうとしなかったあのパーティーが悪い……。

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