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二二段 周りのほうが異常であるかのような錯覚すら覚えた


 グリフを追いかけると、その先には新しい溜まり場があった。


『あんなところに変わっていたのか……』


 ホール一階の内側はダンジョンへの通路に近いため、溜まり場にするには競争率が高いことで知られている。その一角に、やつらは陣取っていた。俺がいない間に随分出世したじゃないか……。エルジェ、ビレント、ルファス……それに新しい顔もいる。


『――って、あいつは……!』


 遠目であるにもかかわらず、俺は咄嗟に近くの柱の陰に隠れてしまった。そこから二度見してみたが、間違いない。あの髭と余裕に満ちた顔、忘れるはずもない……。


『シギル兄さん?』

『……やつだ。殺し屋もいる……』

『うん、いるね。髭の人でしょ?』

『わかるのか? まさか、知り合い?』

『……ううん。雰囲気でわかるよ』

『雰囲気か……』


 ああいうことがなければ、俺には胡散臭い拳闘士モンクくらいにしか見えなかっただろう。殺し屋同士にしかわからない、独特の空気感みたいなものがあるのかもな……。


 ん? グリフが溜まり場に戻ってまもなく、メモリーフォン上にアイテム欄を浮かび上がらせて、みんなそこに手を伸ばし始めた。パンやらジュースやら。見た感じ、使い走りにされてたっぽいな、グリフのやつ……。しかも、グリフがベンチに座ろうとしたもののルファスに蹴られて転び、笑い声が上がってる。グリフもヘラヘラと笑いながら起き上がったが、内心穏やかじゃないだろう。ああ見えて結構傷つきやすいやつだからな。いい気味だ。


「あのおじさん、かわいそー……」


 セリスが呟いてるが、ちっともそうは感じない。俺の殺すリストに入ってるしな。まあ俺よりずっと年上に見られるくらい老け顔なのは確かに少し気の毒だが……。


『それにしても、殺し屋を仲間に引き入れてたなんてな……』

『……仲間? 違うと思う』

『え?』

『殺し屋はパーティーを固定しないのが基本スタイルだから。情が移らないようにするために』

『……なるほど。じゃあ、なんで一緒にいるんだろ……』

『……多分だけど、確認じゃないかな』

『確認?』

『うん。あのあと、何か異変はなかったか、とか……』


 そういや、標的を仕留められなかった場合、殺し屋はずっと気にしてるみたいなことをリセスは言ってたな。


『……執念深いんだな』

『そうだね。でも、殺し屋にとっては生きるためだもの。お義父さんもよく言ってた。標的を仕留められないなら、自分が死ぬ番だって。こうしてシギル兄さんが復活したんだから、尚更よくわかるよ』

『……』


 それなら存分に後悔させてやろうじゃないか。あのとき俺を仕留めそこなったことをな……。っと、そうだ。どこまで攻略したのか会話の中に出てくるかもしれないし、狩りに行く前にセリスを近付けるべきかな。


「セリス、あいつらの近くに行って、どんな会話してるか聞いてきてくれないかな?」

「うん、いいよ!」

『待って。あの男が去ってからにしたほうがいいよ』

「あ、セリス。あの髭面の人がどこかに行ってからね」

「うん!」

『……慎重だな、リセスは……』

『……というか、あの男がいる限り、絶対に手を出さないほうがいいと思う』

『え、あいつそんなに強いのか?』

『うん。殺し屋の中でもトップクラスじゃないかな』

『……なんでそんなことまでわかるんだ?』

『なんとなく』

『……まさか、レイドより強いとか?』

『……どうかな。互角くらいかな』

『……』


 殺し屋で名を馳せてるレイドと同格だと? なるほど、あの殺し屋がいるときにあいつらに手を出すのはまずいというのはよくわかった。


『でも、私が勝つと思う』

『自信が?』

『自信なんてないよ。ただ、今の私にはシギル兄さんの体と執念がある分、ほんの少しだけ上回るかなって』

『……な、なるほど』


 なんか微妙にプレッシャーのかかる発言だが、それだけ俺のことを買ってくれてるってことだろう。俺もレイドがいるから負ける気がしない。お……あの殺し屋、一人でどっか行くみたいだな。やっぱり固定パーティーじゃなかったんだ。


 ……ん、あいつの歩き方、なんか変だと思ったら、微妙に両足の長さが違うように見える。まさか、義足か? そのくせ、やたらと堂々としてるっていうか、微塵も周りを気にしてない感じなので、むしろあの男の歩き方が普通で、周りのほうが異常であるかのような錯覚すら覚えた。


『……あ……』

『ん、リセス、どうした?』

『ううん、なんでもない……』

『そ、そっか……あっ!』


 気が付いたら、セリスがやつらの溜まり場のすぐ近くにいた。お、なんかビレントに話しかけられてる……と思ったら走って戻ってきた。やつら一様に笑ってるし、セリスに一体どんなちょっかい出したんだか……。


「シギルお兄ちゃん、リセスお姉ちゃん、ただいま!」

「おかえり、セリス。どうだった?」

「うん。……んと……」

「ん?」

「……私の言葉じゃないからね! シギルみたいな勘違いの雑魚が来ても困るし、メンバー募集は当分しなくてもいいだろうとか、怖いお兄さんが言ってて、ほかの人が一斉にうなずいてた……」

「……そうか。ありがとう」

「う、うん……」


 多分、ルファスだな。俺がいたときから実質リーダーみたいなもんだったし、もうあいつがほぼなんでも決めてる感じだろう。


「あとね、優しそうな男の人にナンパされちゃった……」

「……」


 ビレントだな。あいつ、子供にも手を出す気か? ふざけてやったんだろうが、調子に乗りすぎだろ……。


「でも、好きな人がいるからって、ちゃんとお断りしてきたよ!」

「好きな人?」

「もちろん、シギルお兄ちゃん……。は、恥ずかしいよう……」

「……そ、そうか……」

『よかったね、シギル兄さん』

『……』


 今のリセスの心の声、ちょっと迫力あったような……。

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