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十九段 俺が本当に殺したいのはかつての大切な仲間


「あ、あれは……」


 不気味すぎるほどに痩せ細った長身の男が庭に立ち、木漏れ日の中で俺を睨みつけている。


 眼球等の移植の影響なのか、身長だけでなく顔つきも微妙に変わっているが、あれは紛れもなく俺自身の姿だった。まるで鏡を見ているかのようだ……。これぞ、リセスから教わった師匠のオリジナルスキルの一つ《ミラー》だ。《微小転移》による二つの地点の連続的な瞬間移動が生み出したスキルで、Cランクに属する。これがあればいちいち連続で移動することなく、いつでも分身の術のように相手を欺くことが可能になるわけだ。


 俺としては今すぐにでもエルジェたちに復讐したいが、師匠の遺したオリジナルスキルをすべて習得してからでも遅くはないと思っていた。それに、手足を動かすことさえもまだぎこちないし、こうしたスキル習得のための修行はリハビリにもなるしな。


「うっ……?」


 急に拍手が聞こえてきて驚く。まだ聴覚のほうも敏感すぎて慣れない。あたかも耳の中で拍手されてるような感覚なんだ。


「成功だね。おめでとう、シギル兄さん」

「あ、ああ。ありがとう。リセスの教え方が上手なおかげだ」

「そんな……師匠ほどじゃないよ」


 リセスは、泣きもしないが笑うこともない。《念視》だとしょっちゅう使うわけじゃないからよくわからなかったが、師匠から貰った眼球のおかげでそのことに気付いた。たまになんらかの表情があるように見えるときはあるが、とにかく乏しいんだ。一喜一憂しないところに有名な殺し屋らしさを感じる。常に冷静でいなければ自分が殺されるだろうしな……。


「シギル兄さん、これからお昼ご飯にする? それとも……」

「修行」

「……言うと思った」


 リセス、今ちょっと口角を上げたな。たったそれだけなのに凄く嬉しそうに見えたから不思議だった。






 ◆◆◆






 あれから十日ほど経ち、《ミラー》だけでなく《浮遊》《模倣》という師匠が編み出したオリジナルスキルを習得、マスターすることができた。


《浮遊》は宙の一点箇所に集中的に《微小転移》を繰り返すことで覚えることができた、まるで浮いているかのように見せるCランクスキルだ。《テレキネシス》でも同じようなことはできるが、転移系のスキルのように一瞬でやることは無理なので咄嗟の回避、または急襲を必要とする場面ではとても有効だ。


《模倣》は《トランスファー》を応用したスキルであり、自分と相手の位置を入れ替えるだけでなく、自分の今の動作までも相手にそっくり模倣させるBランクスキルだ。《テレキネシス》によって自分の動作を相手に模倣させたうえで《トランスファー》によって入れ替えるという動作を執拗に繰り返すことで習得した。自分が座っているときなどに奇襲を受けた場合、これで立場は一瞬にして逆転する。ただし、《トランスファー》に比べると効果範囲はかなり狭いので要注意らしい。


 これで師匠のオリジナルスキルはすべて習得したということになる。本当の意味での免許皆伝ってわけだ。体も大分動くようになり、聴覚等の感覚も良好になったのでいよいよダンジョンへと赴くことにした。あとは、エルジェたちが一人も欠けることなく無事でいてくれることを願うだけだ。


「シギル兄さん……行くの?」

「……ああ」

「復讐だよね」

「……師匠から聞いたのか?」

「ううん。でも、わかるよ。もし相手がモンスターなら、そこまでしないと思う」

「……」


 人間の残虐さはモンスター以上だからな。リセスは殺し屋だから、同業者のこともよくわかってるだろう。


「ああ。俺をここまでやったのは、殺し屋だよ」

「……やっぱり」

「殺し屋にも恨みはあるけど、あくまでも依頼された立場だろ。俺が本当に殺したいのはかつての大切な仲間なんだ。命がけで守るつもりでいたのに……」

「……裏切られたの?」

「そうだな。こっぴどく……」

「シギル兄さん、私にも協力させて。そいつら、殺したい」

「……気持ちはありがたいが、年齢がな」


 リセスが《憑依》しているセリスはまだ十二歳だったはず。さすがにあと三年も待てないしな……。


「それなら、良い方法があるよ」

「良い方法……?」

「ほら、私のオリジナルスキル《憑依》を使えば……」

「……なるほど。でも、そんなに都合よく宿主なんて見つかるか?」

「いるよ。目の前に……」

「……えええ?」

「嫌?」

「んー、そりゃ有名な殺し屋のレイドが協力してくれるのはありがたいけど、《憑依》されるなんてなんか怖いな……」

「《憑依》されても、起きてる限りは宿主が制御できるから大丈夫」

「そ、それはなんとなくわかるけど……心の奥を覗かれるとかありそうで……」


 なんせ自分そのものを誰かと共有するわけだからその不安は大きかった。《テレパシー》は心の声でやり取りするもので、心の奥を覗けるわけじゃないからいいが。


「大丈夫だよ。一人の中に二人いるだけで、心は別々だから」

「そう、なのか……。それなら……」

「うん。それじゃ、始めるね」


 リセスが俺の手を握ってきた。……う、なんだ。この、手から胴体に向かって、徐々に液体に包まれていくような妙な感覚は……。


「――はっ……」


 それが全身を覆ってきて、気が付いたときにはリセスが俺の体に凭れかかっていた。もう意識がない状態なのがわかる。


「り、リセス?」

『ここだよ』

『……あ……《テレパシー》を使ってないのに心の中で話せるのか……』

『うん。もう《憑依》したからね」

『……じゃあ、いつでも入れ替われるのか』

『うん。シギル兄さんが体の力をなるべく抜いて、心を無にしてくれたら』

『……あ……』


 試しにやってみたら、自分の体が動かなくなった。


『今は私が制御してる状態だよ』

『……』


 自分の体が勝手に動き回っている。妙な感覚だ……。


『宿主が強く動かそうとすればすぐ交代できるから、心配しないで』

『そうなのか……あっ……』


 確かにそれで動けるようになった。これ、だるくて自分で動きたくないときとか、結構便利かもしれない……。

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