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十七段 いくらなんでもスパルタすぎなんだよ


 師匠の打ち明け話はしばらく続いた。


 相方を失い、心に深い傷を負った師匠は、山の麓にこの宿舎を建てて隠居することになった。それから十数年後、今から約一年前のある日、レイドという名の少女が師匠のもとを訪ねてきたそうだ。元冒険者の父親から師匠の武勇伝を聞いて、弟子になりたいと申し込んで来た変わり者らしい。転移術士テレポーターはずっと不人気の職だったので驚いたという。


 彼女は師匠のオリジナルスキルを俺並に覚えるのが早い優秀な転移術士だったが、あることがきっかけで絶縁状態になってしまったとのこと。そのきっかけになった出来事についてや、レイドという少女のそのあとについては何も話してくれなかった。


 師匠曰く、不愉快だし語る価値もないのだそうだ。ただ、最後に言い放ったあのバカものめが、という台詞にはむしろ愛情さえ感じられた。もう弟子は二度といらないとまで思っていたそうだが、最近になって自分の命が残り僅かだと知り、ダンジョンに出向いたというわけだ。転移術士の最高のスキル《イリーガルスペル》をこの世に表せる人物を探すべく……。


『……もう夕時間近か。大分時間がかかったな。では、そろそろ試験に取り掛かるとしようか』

『試験……?』

『《イリーガルスペル》を使った試験だ。これに合格したとき、初めて免許皆伝となる』

『なるほど……あ、師匠。その前に《イリーガルスペル》の効果を……』

『もう言ったはずだぞ?』

『ええ? ……あ、まさか……』


 そういや、師匠は話の中で自分の歯を置き去りにして飛んだとか言ってたな……。


『気付いたようだの。だが、《イリーガルスペル》はあのときの経験とは威力がまったく違う。そのうえ、もっと奥まで影響するスキルだ』

『奥……』

『りんごで例えるとだな、《念視》で内部の種を確認したあとであれば《イリーガルスペル》と転移系スキルの組み合わせで、種のみ置き去りにすることができるのだ。これをもし生物相手にやったらどうなるか、想像できるかね』

『……』


 一瞬だけ想像して身震いしそうになった。あまりにもグロテスクだ。考えてみると、これほど恐ろしいスキルはないな。パーティーのサポート役に過ぎないと思っていた地味な転移術士に、まさかここまでインパクトのあるスキルが生まれるとは思いもしなかった。残虐な効果だが、これは復讐にぴったりなスキルともいえる……。


『《イリーガルスペル》はそれ単体で完成品であり、熟練度を上げる必要もない。これでCランクなのは、あくまでも周りを最大限に生かすための裏方的なスキルだからだ。《微小転移》だけでなく、ほかの様々なスキルと合わせても、いずれもSランクスキル以上の効果を発揮するだろう。その効果はシギル君自身が今後試してみるとよい』

『わかりました』

『では、最後の試験を始める。構成スキルは《小転移》《集中力向上》《念視》《マインドキャスト》《イリーガルスペル》だ』

『はい』


 師匠、これから山の中で俺に狩りでもさせるつもりなんだろうか。もうこんな時間だし、夕飯の材料にはなるだろうけど、あまり難しそうには見えないな。ただ、《微小転移》は容量の関係でこのスキル構成だと入らないし、触れないと《小転移》が使えないわけだから、獲物の種類によっては度胸が試されるな……。


『さあシギル君、わしを殺せるか?』

『……え?』


 ……び、びっくりした。一体何を言いだすんだ、師匠は……。


『師匠、きつい冗談を……』

『冗談などではない。卒業試験は、わしを殺すことだ』

『……し、師匠……?』

『わしにはもう先がない。もってあと数日の命だろう。死んで灰になってしまう前に、この体を有効に使ってほしい。《念視》でわしの体の構造を確認したあと、《イリーガルスペル》と《小転移》によって、わしの体にある君に欠けているものすべてを移植させるのだ。転移術の補正力によってちゃんと繋がるから安心したまえ。拒絶反応も少ないだろう。もちろんわしは死ぬだろうが、どっちにしろもうあと僅かの命なのだ……』

『……そ、そんなことが……できるわけ……というか、師匠が死んだらアシスタントのリセスはどうなっちゃうんですか……』

『リセスには、もうこのことを伝えてある』

『え……』


 リセスは黙ってうなずいていた。……本当に、俺は師匠を殺さなきゃいけないというのか……?


『……シギル君。わしに無駄死にさせるつもりなのか?』

『……でも、師匠を殺すなんて……嫌ですよ……そんなの……』

『殺せないというのなら、もう試験は不合格でいいな。わしは君を弟子としては認めない』

『……』

『シギル君……どうか……わしの最高の弟子として、認めさせてくれ……』


 師匠が抱きしめてくるのがわかった。俺だって、師匠の弟子として認められたい。……やるしかない。やるしかないんだ……。《念視》で師匠の体内を抉り出すように見つめる。


『――《小転移テレポート》!』


 ……気が付くと、俺は茜色に染まったりんごの木とリセスの目前で変わり果てた師匠を抱きかかえていた。


『……シギル君、よくぞ頑張ったな……。これで免許皆伝だ。君はわしの最高の弟子となった……。これでわしも安心してあの子の元に行ける……』

『……師匠……?』


 師匠はもう息をしていなかった。師匠……こんな別れ方ってないだろ……。こんなの、耐えろってほうが無理だ。熱いものが頬を焦がし続けた。いくらなんでもスパルタすぎなんだよ……。

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