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十六段 仲間を助けようとする気持ちはそれほどまでに重い


『《微小転移テレポート》――……!」


 あれから約一週間が経ち、《微小転移》の精度はこの上ないほどに極まっていた。りんごや葉っぱだけでなく、もっと小さくて動くもの……枝を這う毛虫ですら置き去りにできるようになった。これでもう、スパルタ師匠の出す難題にはすべて応えた形になる。


『おめでとう、シギル兄さん』

『……シギル君、ようやったの』

『ありがとう、リセス、師匠……』


 やることはやったし、あとは結果を見るだけだ。


『……これでいよいよ……』

『うむ。もうシギル君は新たなスキルを覚えておる。これを見たまえ』

『おお……』


 師匠は俺のメモリーフォンからスキル欄を立ち上げてみせた。


『……こ、これは……』


 師匠が指差す先に表示されているのは《イリーガルスペル》というCランクの新スキルだった。確かに見たことも聞いたこともないが……え、Cランク……?


『素晴らしい。素晴らしいぞシギル君。これぞ、わしさえも覚えることができなかった史上最高のスキルだ……』

『シギル兄さん、凄い……』

『……し、師匠、Cランクで最高のスキルって……一体どんな効果なんですか?』


 正直、想像がつかない。俺はずっと《微小転移》で色々置き去りする修行をしてきたわけで、あれと密接に関係するのは確かだろうけど……どういう場面で使われるものなのか、まったくイメージが湧かなかった。


『その前に少し話しておきたいことがある』

『……話しておきたいこと?』

『うむ。この話はできればしたくなかったのだが……師匠の立場にある者が現実と正面から向き合えないのに、弟子にそれを望むのは少し違うと思ったのだ。それに、これは《イリーガルスペル》の効果にも関係する話だからな』

『……』


 師匠の顔に悲壮感が色濃く出ているのがわかる。よっぽど話したくないことなんだな。《念視》の熟練度が上がるたび、師匠の顔は正視するのがが辛くなるほど無数の皺で覆われていると知った。これでもまだ50代前半らしいが、髪も髭も真っ白だしもう70代後半くらいに見える。相当辛い経験をしてきたんだろう。


『……もしかして、師匠が冒険者を一度止めた理由と関係が?』

『うむ。まだわしが若かりし頃……ダンジョンでは傭兵的な仕事をしておった。主に初心者をナンパ……いや、ターゲットにして、転送役を買って出たものだ』

『……』


 今、ナンパとか言ってたな。聞こえなかったことにしておこう……。


『そこである人と知り合った。のちにわしの相方となる女性だ。それはもう美しい錬金術士アルケミストでな……』


 錬金術士か。何度かダンジョンで見たことあるが、様々なホムンクルスを召喚して戦わせるだけじゃなく、自分でモンスターに毒瓶や火炎瓶を投げてて、地味な見た目の割に結構派手だったな。


『わしは基本的には一匹狼だったのだが、彼女と出会ってからは傭兵的な仕事もすっぱりと辞めてしまって、ペアで狩りをするようになった』

『なるほど……。そういや、師匠はどこまで攻略してたんですか?』

『一応二五階層までは攻略したが、わしはそういうものにはあまり興味が無くてな。どこでもいいから狩りをして、それで稼いだ金で日々を楽しく暮らせるならそれでよかったのだ』


 ……なんか師匠らしいや。それで二五階層まで制覇しちゃってるところも。


『だが、好奇心旺盛な相方は次の階層に進みたがっての……。わしもそれなりに奮闘していたが、ある日モンスターの湧きが凄くて、《極大転移》を何度も試みるも上手くいかなかったのだ……』

『……』

『何度も何度も、わしは成功するまでやるつもりだった。何度連続で唱えようとしたかわからん。それこそ、言葉になっていたかどうかもな。ようやく成功したときには、もう遅かった。彼女は致命的な傷を負い、かなり衰弱しておった。遂に亡くなったときは、自分の無力さを責めたものだよ。もう冒険者なんて辞めようとも思った。あれほど転移術士に情熱を持っていたのが嘘のように冷めてしまってな……』


 師匠が話したがらなかった理由はよくわかった。俺でもそうなったら引退してしまうかもしれない。仲間を助けようとする気持ちはそれほどまでに重いんだ。


『だが、皮肉にもそのことが最高のスキルを発掘するきっかけとなった』

『ええ……?』

『悲嘆にくれる中、わしはあることに気が付いた。前歯が一本だけ綺麗になくなっていたのだ。急いで現場に戻り、探してみたらあったよ。わしの歯がな……』

『ってことは、歯を置き去りに《極大転移》を?』

『うむ。それによってわしは《イリーガルスペル》というスキルの存在を突き止めたのだ。ただ、難易度があまりにも高すぎるため、最後までわしが覚えることはできなかったが……』


 つまり、連続では決して使えない《極大転移》を、師匠がああいう苦境で何度も立て続けに使おうとしたからこの《イリーガルスペル》というスキルを発見できたってことか……。連続で使える《微小転移》をあえて緩い間隔で使って習得できたわけだし、考えてみれば同じ原理なわけだ。なのに俺だけ覚えられたのは、多分《極大転移》も極めてたからなんだろうな……。

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