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十一段 経験という重みに加えて遊び心も垣間見える


 俺は今、文字通り崖っぷちにいる。


 師匠の《大転移テレポート》でここまで来た。両眼をくりぬかれているために何も見えないが、山特有のとても強い風を受けているのがわかる。全身に包帯を巻かれているのに痛みさえ感じるほどだ。


『シギル君、ここは絶景だぞ。わしらの宿舎のある山の麓がよく見渡せる。風もヒュウヒュウと満足そうに唸っておる』

『……意地悪な師匠、こんなところで一体何をしようと……?』

『無論、飛び降りるのだ。さあ、行け!』

『――ちょっ……』


 背中を強く押されて、俺の体は宙に投げ出された。弟子になって一週間。師匠は本当にスパルタで、前触れもなしにとんでもなく危険なことをさせる。


 ……だが、もう慣れた。


『――《中転移テレポート》!』


 師匠から教わった《マインドキャスト》である。Cランクに位置するこのスキルがあれば、声帯を切られた俺でも、誰にも邪魔されることなく心の中での詠唱が可能になる。


 声を失うまでは《テレパシー》同様にかなり難易度も高くて、習得する必要性を感じなかったが、あの殺し屋に詠唱妨害されたことを考えると、覚えておくべきだったと後悔している。やり返す意味で師匠を少しでも動揺させるべく、地面すれすれで発動させてやった。《中転移》《マインドキャスト》《集中力向上》に加えて《ムービングキャスト》を俺のスキル構成に入れた師匠の意図が今になってよくわかる……。


『……シギル君、よく戻ってきたと言いたいが、今のでわしの寿命がまた縮まったぞ……』

『こっちはいきなり押されて心臓が飛び出しそうだったんですけど……』

『それはな、愛の鞭というやつだ。わははっ!』

『……』


 いつもこんな感じだ。師匠は死ぬ心配すら微塵も感じさせないほど元気だった。もしかしたら、ただ単に教えたがりだから弟子を探していたんじゃないかって推測するレベルだ。もう先がないと言うことで発言の信憑性を増そうとしていたのかもしれない……。


『それにしても、最近覚えたばかりなのにあそこまでぎりぎりでやるということはもう熟練度マックスなのか。君は本当に飲み込みが早い』

『……そういう師匠だって、色んなスキルを覚えてるくせに』


 師匠は俺ですら避けるような難易度の高いスキルを覚えてるし、教え方も上手い。それに加えて、自ら編み出したオリジナルスキルも複数持っていた。一つだけでも難しいのに。逆の立場だったら、確かに教えたがりになるかもしれない。


『わしの場合、浅く広くだからな。色んなスキルを持ってはいるが、あれもこれもと手を出して成功率はそりゃ酷いものだ……』


 師匠の自虐には、深刻さはあまり感じなかった。俺はパーティーで必要なもの以外は覚えようとしなかったが、師匠はずっとソロとかペアで工夫しながらやっていた人なのかもしれない。だからなのか、なんというか経験という重みに加えて遊び心も垣間見える。それがあるからこそオリジナルスキルを幾つも編み出せたんだろうけど……。


『シギル君の、一つの物事に異常に集中する力、それはわしにはなかったものだ。常に完璧を求める素晴らしい才能。だが、それが君の弱点でもあるのだよ』

『……弱点?』

『うむ。君は能力がありすぎるゆえに、転移術士としての挫折を知らなかった。だが、この挫折こそが大きな力を生み出す原動力となりうるのだ』

『……挫折……』


 違う意味での挫折は沢山経験してると思うが、確かに転移術士としての挫折は記憶にないな。


『わしもかつては君のようにスキルの完璧さを目指していたが、能力のなさゆえに挫折した。だが、今考えればこの挫折こそが大きかった』

『……それで、色んなスキルを?』

『うむ。その挫折の中でも特に大きなことがあってな。言葉にするのもためらうほどの……。それで一度冒険者を止めてしまった。だが、そこでわしは転移術士としての、最高の可能性を持つスキルのヒントを得ることに成功したのだ』

『……それは一体……』

『あくまでもヒントだが、ただのスキルではない。途轍もなく強大なスキルだ。しかし、残念ながら習得するには至らなかった。わしの推測が確かならば……これを覚えることができる転移術士は、君ただ一人だけだろう』

『俺だけ……?』

『うむ……。大事なのは信じること。わしの言葉をな。……これ、笑うでない。わしの真面目な顔がそんなに面白いか?』

『もちろん……え?』


 師匠は何を言ってるんだ。俺は笑ってないが……。


『おっと、すまんな。外に出すつもりが、心の声として出してしまった』

『そこに誰か?』

『うむ。今はもう亡き、わしの弟子だった者の身内だ。その弟子の代わりにわしのアシスタントをやってくれている。少し大人びておるし生意気だが、なんでもできるいい子だぞ。そのうち君に紹介するつもりだったが、忘れておった。これ、挨拶しなさい』

『どうも……』


 お、心の声が聞こえてきた。しかも幼い少女の声だ。なのに《テレパシー》が使えるんだな。ってことは、この子も転移術士なのか……。


『どうも、俺はシギル。よろしく』

『はい。私の名はリセス。うちの至らない師匠のことも、どうかよろしく……』

『……』


 この子、やはり只者じゃないな。俺の見た目なんて相当酷いはずなのに、それを前にしてもやたらと落ち着いてて、師匠のアシスタントをしているだけあると感じた。スパルタな修行続きだったが、これからは面白くなりそうだ。

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