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百段 この先何があるかわからないから常に備えておけ


「ひゃあっ!」


 ラユルが驚くのも無理はなかった。頭部が丸々眼球になっている猿がすぐ背後に着地したかと思うと、目玉が左右に開いてそこから長い舌が出てきたからだ。


「そらっ!」


 髭面の殺し屋クエスが舌を指で突くと、モンスターは途端に動かなくなった。


「わあぁ! クエスさん、何をしたんですか……?」

拳闘士モンクのスキル《点穴》の一つ……って言いたいところだが、これはおいらのオリジナルスキル《無穴》なんだ。どんな場所であろうと突けば相手の全身を麻痺させる効果がある。自分にやれば痛みが消えるし出血も止まる」

「へえー! 凄いですぅ……」

「モンスター相手だとたった五秒くらいしかもたないがな」

「……ええっ!?」


 その五秒も彼には充分な時間だった。ラユルが瞬く間に目玉猿の体は真っ二つに切り開かれていた。


「わあっ、怪力ですねえ!」


 ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねるラユルを見て、クエスは頭を掻きながら苦笑した。


「こんなに褒められると照れちまうなぁ、おいら……」


 実際には《ステップ》による移動の反動を巧みに利用しただけであり、彼が特別に強い膂力を持っているというわけではなかった。


「おおっと……」


 クエスが露骨に顔をしかめる。モンスターが自分たちの前後から二匹ずつ同時に襲い掛かってきたのだ。


「《テレキネシス》!」

「……なっ……」


 ラユルの魔法によってモンスターたちはただ飛ばされただけだと思ったのだが、そのほとんどが絶命寸前であり、一匹は残骸すら残ってなかったことにクエスは驚愕していた。二人でここから帰還するために臨時パーティーを作っていたのだが、心底今は味方でよかったと思った。


「やるじゃねえか……」


 クエスがラユルの頭をぽんぽんと叩く。


「えへへ……殺し屋さんも! 師匠によく言われましたから。この先何があるかわからないから常に備えておけって」

「そうかぁ。お前さんも素直だなあ。15歳だっけかぁ? それくらいの年齢なら、普通は生意気になるもんだぜぇ……」

「そうなんですかぁ?」

「アレも始まってねえのかもな、もしかしたら……」

「アレ……?」

「知らねえならいいんだよ……」

「はーい! きゃっ……クエスさんエッチですう……!」


 クエスにお尻を撫でられてニヤニヤと笑うラユル。


「俺の娘も7、8歳くらいならそんな素直な反応だったかなぁ……」

「クエスさんの娘さんって素直じゃないんですか?」

「あぁ。生意気だよ。でも可愛くてなあ。……12歳で死んじゃったけどな」

「そ、そうなんですねぇ」

「おいらの親友だったやつによー、股を引き裂かれて殺されちまったんだよ……」

「うひゃー、それは酷い親友さんですねえ……」

「これ聞いてそんなフツーの反応したの、お前さんくらいだ……」

「そうなんですかぁ?」

「そうだともよぉ……」


 クエスはラユルの天然ぶりにただ苦笑いを浮かべるしかなかった。


「けど、いいやつでよぉ。俺の親友は。糞みてえに異常者だが、ラリってねえときはとってもおおらかでなあ……」

「それで、どうしたんですか? そのお友達は……」

「あぁ、切断……いや、殺したよ。泣きながらなあ。やっぱり線引きってもんがいるだろぉ? いくら友達でもよお」

「そうですね……!」

「ただ、やつも殺られるって予感してたらしくて、色々罠を張ってやがった。んでこのザマよ」


 クエスが片足を取り外し、その指を動かして笑ってみせる。


「わああ、片足だけなのに動いてます!」

「凄腕の錬金術士に作ってもらった義足よ。すげえだろー? ほれほれぇ」

「わわ、こそばゆいですぅぅ! きゃははっ」


 クエスに義足でお尻を弄られてラユルは笑い転げるのだった。






 ◆◆◆






「《ホーリーガード》!」


 男の震えた声が森林内に響き渡る。体格の割に甲高い声の持ち主は聖騎士のグリフだった。


「あははっ、グリフ、そんな怖がらなくたって大丈夫だよ!」


 その周囲で豪快に笑いながら槍を振り回し、モンスターを撃退するアシェリ。倒すのに時間はかかるものの、物理攻撃を無効化するスキルを持つ聖騎士同士のペアはとにかくガードが堅かった。それでも、未知の領域である百十階層の独特な空気はグリフの気持ちを萎縮させるのに充分な効果を発揮していた。


「こ、怖くないのでありますか、アシェリどのは……」


 グリフもまた百十階層に飛ばされたのだが、そこでアシェリと一緒だったため、二人で臨時パーティーを組むことになったのだった。


「怖い? そりゃあたしだって少しは怖いさ。でも怖がってたってなーんにも解決しないだろー?」

「……勇敢なんでありますな、アシェリどのは……」

「アシェリでいいよ。どの~とか、なんかあたしの仲間のリリムみたいじゃないか。って、こいつ!」


 矛先がモンスターの目玉猿の頭部を貫通したものの、目玉が口に変化して齧られたため、足で蹴飛ばして槍を抜くアシェリ。


「……自分を女々しいと言いたいのでありますか……」

「あははっ! 面白いねえ、あんた……」

「そりゃどうもであります……」

「あたしはねえ、勇敢っていうより鈍感なんだよ」

「……そうなんでありますか」

「そうさ。そうじゃなかったらパーティーのリーダーなんてやってらんないよ!」

「……それは同意するところであります」

「へぇ。グリフ、あんたもリーダーなんだ!」

「……体格だけはリーダーなのであります」

「あはは! あたしも似たようなもんだって!」

「……はあ、そうでありますか……」


 二人は思いのほか馬が合った。ただ同じ聖騎士ということだけではなく、神様による陰と陽の引き合わせがあったとしか思えなかったのである。

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