ちょっとした事件
随分時間が空いてしまった
店を出てからは数時間経った。
外は昼真っ只中である。秋がすぐそこまで迫っているとはいえ、この快晴の青空だ。気温はゆうに30度を越していた。
そんな中彼らはというと。
「俺はそこの椅子に座ってるからな」
「わかりました。さ、有香ちゃん行こう?」
「は、はい」
買い物をしていた。
場所は家からほど近いショッピングモール。今日は平日であるため、そこまで混んではいなかった。親睦を深めようということで適当に出かけたわけだが、途中から女子の買い物にずっと付き合わされている。
まあ、仲は良くなったようであるのが幸いであったが。
硬貨を投入して飲み物を買う。それを取り出して椅子に座ると、膝に肘をついた。はぁ、とため息。
思い出す。小さい頃、家に居たかったのに無理やり外に連れ出され、荷物持ちとして買い物に付き合わされたのを。
大して興味もない買い物に付き合わされるほど苦行なことはないのではないだろうか。そういう女心を理解できるやつが、モテたりするのだろうか。
右手の人差し指でプルタブを開けると、少し中身が飛び散った。あちらではついぞ飲むことができなかった炭酸飲料を一気に飲み干した。
「ふぅ」
うまい。暴力的だ。
こんな体に悪そうなものがなんでこんなにも美味しいのだろうか。
カシュッ、と右手で空き缶を潰してそれを何十メートルか離れたゴミ箱に投げ込んだ。
彼女たちを見る。
未だに黄色い声を出しながらあれがいいこれがいいと楽しんでいる。有香も先ほどの喫茶店の時よりもだいぶん表情が緩んでいた。結構なことである。
あんな少女をこの世の『守護者』にさせるなどどうかしている。年端も行かない女の子に背負わせる責任としては幾分、いやかなり大きすぎるだろう。
やはり子供は学び、遊ばないといけない。まあ、こちらも20ほどしか生きていないガキな訳だが。
「きゃぁぁぁああああああ!!!」
そんなこんなでもう同じ店で30分は経とうかというとき、おばさんらしき声の悲鳴が聞こえた。
「うわああ!」
「逃げろ!逃げろ!どけ!」
「邪魔だ!!」
バッとそちらを見て見ると、パニックになった人の塊がこちらから遠ざかるようにして逃げていくのがわかる。
そして残ったのは、如何にもな男がナイフを振り回しながらこちらへ向かっている姿であった。
刺されたのだろうか。その奥には、何人か倒れているのも確認できる。
「へへ、死ねぇぇぇぇ!!!」
「はぁ…」
めんどくさいなぁと思いながらも立ち上がる。
ナイフを振りかぶりながら走ってくる男に合わせた。まず右手で相手の左手をパーリング。降ろしてきた右手を左手で抑え、パーリングした右手を流れで相手の後ろ首に回した。
「フンっ!」
膝を入れる。経験者ではないのだろう。力を入れて受けようともせず、ただその膝蹴りを相手は受け入れた。
「ぅおぉ、あ……あ……」
男が腹を抑える。ナイフが音を立ててフロアに落ちた。それを拾い上げて折る。ブルブルと震えながら腹を抑えるその姿はまるで腹痛時に神に祈るかのような、そんな滑稽さがあらわれていた。
「あーまぁ、なんだ。もうこんなことすんなよ。あぶねぇだろ」
「う、…あ………ぁ…」
胴に穴が開かないよう手加減はしたつもりだがどうだろうか。もしかして間違ったかもしれない。内臓が破裂してなければいいが。正当防衛ということで勘弁してほしい。
「おい!」
「どうしました?」
「面倒なことになりそうだからここ出るぞ」
兎亜はこんな騒ぎが起きても気にせず未だショッピングを楽しんでいた彼女たちに声をかけた。
「わかりました。じゃあ有香ちゃん、これとこれにしようか」
「う、うん」
どうやら有香の方は思い切り気にしていたらしいが。
「お会計お願いします」
「え、あ、は、はい!」
放心してた店員に話しかける。こうして、彼らはショッピングモールを後にした。
がんばりゅ!