クリア報酬(初回限定)
うーん
日本語ができない
「気をつけないとダメですよ、兎亜さん」
パチン、と指を鳴らす音。それと同時に明らかに空気が変わったのがわかる。
「刀なんてもの、一般人に見られたら大騒ぎですよ?」
それは、認識阻害。対象を第三者から気付かなくする風系統の魔法。対象は三人。兎亜と有香、そして
「美優か」
「えぇ、あなたの美優ですよ」
広瀬美優である。にっこりと笑いながら兎亜に話しかける彼女は、まさに聖女というに相応しい風体であった。
兎亜は手に持つ刀にステッキのイメージを投影し、有香に返した。
「そちらの子は昨日の……」
「あぁ」
「こ、こんにちは……」
こうして、昨日のメンバーが全員揃った。
「で、まぁ集まったわけだが」
「……」
「考えると俺らは特に話すことないな」
「そうですね」
「えっ?えぇ?」
一旦仕切り直して同じ場所。
追加で飲み物とサンドウィッチを注文して、落ち着いてから話し始めた。
「で、でも」
「まぁ、用はあるのは確かだ。君に何かしらの褒美をやらないと。試練をクリアしたんだから」
「ほ、褒美?で、でも私はあそこから即座に離脱しましたし……」
「最後に君が放った魔力砲が当たったんだよ。だから試練はクリアだ」
そう言って兎亜は有香の頭に手を乗せてポンポンと撫でる。
「……?」
「はい」
有香が撫でられたところをおさえながら、兎亜を見つめ返す。
「……??」
「あげたよ、褒美」
「?????」
「イメージしやすいように脳を少し弄った。それで、それもうまく使えるようになるだろう。悪影響もなんもないから安心してくれていい」
「!?!?!!???い、今のでですか!?」
自分の頭部を右手左手でペタペタと触りまくり、挙げ句の果てには関係のない胸や腹の部分まで触り始めた。
まぁ、自分の頭の中を弄られたなんて、普通の人ならこういう反応をするのかもしれない。自分で確認するすべがないのだから。
埒があかないので、兎亜は鎮静作用を目的とした回復魔法を使用。
「落ち着いたかい?」
「は、はい…。取り乱してすみません」
「いや、いいんだ。落ち着いたところで、改めて説明しようか」
兎亜が有香に与えた能力は、何もイメージ力の強化なんていうちゃちなものではなかった。
イメージするにはその元となる情報が必要であるが、その情報すら、彼は彼女に与えたのだ。
アカシックレコード
三人に一人は聞いたことがあるのではないだろうか。特に男は多いかもしれない。ラノベでもなんでも、厨二病であったのならばなおさらだ。
原始の頃からのすべての記録の概念。それの一部に接続できる権限を与え、脳の今まで死んでいた回路を復活させて活性化を図ったのだった。
「別にあんまり深く考えなくていいよ。そこらへんのテレビに映ってるクイズ番組でぶっちぎりで優勝できるほどの知識が与えられて、なおかつ、脳の回転が少し良くなった程度に考えていい」
「は、はぁ……」
「これで、今までよりもそれを使いこなせるはずだ」
兎亜が指差したのは彼女の手にある先ほどまで刀だったステッキ。イメージの具現化なんて誰もが一度は考えたことがあるであろう「ぼくのさいきょうののうりょく」。
そんなぶっ壊れ能力を持ったアーティファクトにはお似合いである。
『守護者』
この世の『歪み』を消す役割を持つ者の名だ。
『歪み』は世界が生きるうえで必ず生じるものである。放置するとその世界に多大なる悪影響を及ぼすため、それをどういう形で消すかは世界によって違う。
例えば兎亜が転移した異世界では、『歪み』は魔物やダンジョンといったものに変化し、誰でもそれを討伐でき、討伐すると何かしらの報酬が死体から得られるというシステムになっていた。
つまり、あちらの世界の住人は、全員が守護者の役職を担っていたのである。
一方こちらの世界。
魔物やダンジョンなどファンタジーの代物。近代社会には縁のないもの。
…………ではないのだ。
少なくとも彼女の役職は守護者であった。兎亜は有香を見たとき、思った。………こっちもあっちもあまり変わらないのではないか、と。
守護者は指定された人物という点は違うが、『歪み』が魔物として具現化してそれを守護者が討伐する。
つあちらと同様のことが、こちらでも起こっていると。
「力は得られるときに得るほうがいい。それが自力で掴んだものであれ、他人のものであれ、だ」
「それは、どういう……」
「それは過去のあなたと重ねての助言ですか?兎亜さん」
「いうなバカ」
美優の言葉を肯定しながら、飲み干し終わったコーヒーカップをタンッ、と軽快にテーブルに叩きつけた。
「さて、そろそろ出ようか」
代金は、2580円だった。
高くない?