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彼が彼になるまで  作者: 小唄
1/1

1話 彼と彼女の日常

初めての小説です。

感想をいただけると嬉しいです。

「俺と結婚してくれませんか?」


夏の兆しを見せかけた太陽が2人を照らす。


「私はー」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 つい最近まで満開だった桜も緑の葉に変わり、始めた四月の終わり、カーテン越しの朝日が心地よい。


「もう、朝だよ春杜(はると)。早く起きてよ。」


 ベットで寝ていた俺は彩花(あやか)に起こされた。


「もうそんな時間なのか。」


 昨日は知り合いの人たちと夜遅くまで飲みすぎてしまった。俺は彩花との二人暮らしをしているので基本的に朝食と夕食は特別なことがない限り二人そろって食べるようにしている。食事は家族そろっての方が良い。なので昨日は二人で夕食を済ませた後に飲みに出かけたため帰りが遅くなってしまった。


「昨日帰って来たのすごい遅かったけど大丈夫?二日酔い?」

 

 これは二日酔いというより寝不足の方が原因だと思うが、せっかく起こしにきてくれたのだから頑張って意識を覚醒させようとする。


「きついならお弁当とか私が作るからもう少し寝ててもいいよ。」


 基本的に朝の朝食と弁当は俺が作っている。理由は簡単。

彩花は高校生の女の子だ。朝の支度は色々あるだろう。個人的にはひいき目抜きにしてもとてつもなく彩花は可愛いのだから素のままでも良いと思うが口には出さないでおいている。女性の身だしなみに男が口を挟むのは野暮なものだろう。それに朝の支度のために俺が食事を作ってることを察してしまえば、自分が食事を作ると言い出してしまうだろう。もちろんいつもより早く起きればそれぐらいの準備は出来ないこともないが、顔には出さないだけで彼女の負担になることに違いはない。

誰に似たのか彼女は人のために自分を犠牲にしてしまうことが多々ある。でも彩花は年頃の女の子だ。周りの友達との輪も大切にしてほしい。だから俺にできることはなるべくしてあげたいのだ。


「いや、大丈夫だよ。」



 現役大学生の徹夜スキルを甘く見ないでほしい。だてにぶ厚いレポートやらプレゼン資料を作ったりしてないからな。


「もう眠気もとんできたし、起こしてくれてありがとう。」


 俺は彩花の頭を撫でながら体を起こす。


「なら早く顔でも洗っておいで。」


 頭を撫でられ少しくすぐったそうにしながら言い、俺の部屋から出て行った。彩花の登校時間にはまだまだ余裕があったが俺は洗面所に行き軽くシャワーを浴びて早めに身支度を整える。女の身支度と違って男は実に楽だ。洗面所からキッチンに向かう途中で彩花とすれ違う。


「朝食は?」


「んー、今日は和食がいいな。」


「了解。」


 キッチンに立ち今日のお弁当は何にしようかと考えながら鮭を焼き、お味噌汁を作る。小さいハンバーグをメインのおかずにしようと思いながら卵焼きを焼く。ひき肉を捏ねて小さいハンバーグをいくつか焼くとちょうど鮭が焼けた。先にお弁当箱にご飯とおかずを詰めて完成させておいて粗熱を取っておく。

 朝食をテーブルの上に並べだすころに身支度を整えた彩花がダイニングにやって来た。


「私、ご飯つけるね。」


 そのまま二人分のご飯をお茶碗に盛ると二人で席に着く。そして二人で


「いただきます。」

 

 この流れがいつもの日常だった。


「高校はどう?そろそろ慣れたか?」


 彩花は今年から高校生になったばっかりだ。家族としてやはり気になるところだ。


「うん、中学からの友達も同じクラスにいるし楽しいよ。」


「みくちゃんだっけ。また一緒にいられてよかったな。」


 彩花の親友のみくちゃんには色々と彩花をフォローしてもらって助かっている。半年ほど前に俺たち二人にとってかなりショックな出来事があった時も不安定な彩花に付き添ってくれていた。やはり心の許せる同性の友達がいてくれたのは彩花にとっても大きかっただろう。おかげで今は彩花も一時期に比べずいぶん前向きになってきた。


「春杜が人の名前覚えているなんて珍しいね。」


 そう言ってジト目を向けてくる。


「みくちゃん可愛いもんね。」


目線が怖い怖い、せっかくの可愛い顔がもったいないですよー

と心の中で呟く。


「そういえば来月辺りに授業参観あるらしいね。」


「え?なんで知ってるの?てか話し逸らしたね。」


彩花の目力に耐えきれず目線を逸らしつつ会話を続ける。


「逸らしてはいないよ。みくちゃんの話題で思い出したからさ。」


「いや、なんで授業参観とみくが関係あるのよ。まさか・・・」


怖い顔から驚愕した感じの顔へと変わりつつ彩花。

どんな顔でもかわいーなー


「ご名答!!授業参観のことはみくちゃんから聞きました!!」


「なんでそんな得意げなの?え?いつ?いつなの?2人で会ったりしてたの?」


「はいはい、落ち着いてね。みくちゃんからはメールで聞いただけだよ。」


昨夜みくちゃんから『たぶん彩花は言わなそうなんで私からお伝えしますね。来月の事なんですけど・・・』という感じの始まりで絵文字たっぷりの可愛いメールが送られてきたのだ。


「女子高生に手を出すとか犯罪だからね。春杜はお母さん一筋だと思ってたのに・・・可愛い女の子がいればホイホイついてくんだね・・・がっかりだよ!」


面白いぐらいに身振り手振りも交えて1人でヒートアップしている。


「落ち着いてね。みくちゃんとはー」


「これが落ち着いていられますか!娘の友達に手を出すとかさすがにアウトでしょ!」


誤解を解く間もなく彩花に畳み掛けるように怒られる。朝から元気だなー、と思って微笑ましくなって(よりによってみくが春杜の毒牙にかかるとは・・・)いる場合じゃなくなってきたな。独り言で彩花の俺へのイメージが急降下してきている。


「だから落ち着いてね!みくちゃんとは彩花の思ってるような関係でもないし俺は葵さん一筋だからね。ちょっと前に彩花の様子を聞いたりするのにアドレスを交換しただけだから安心して。」


「・・・本当に?」


ちょっと落ち着きながらも疑いの眼差しを向けられる。


「本当だよ。だから安心してね。」


「・・・それはそれで安心出来ないんだけどな・・・」


「ん?何か言った?」


小さい声で呟いたのでうまく聞き取れなかった。


「なんでもないよ。それより授業参観だけどもしかして来るつもりなの?」


「もちろん行くつもりだけど。なにせ俺は彩花の父親ですからね。参加しても大丈夫でしょ。」


「大丈夫だけど、その顔若さで父親とか私が変な目で見られるじゃん。」


確かに俺の顔は年相応の顔つきなので他の親御さんからは不審にみられるだろう。


「そこは安心してくれて大丈夫!ちゃんと40代ぐらいの父親に見えるような化粧できるから。俺の変装技術はとっても上手だからね。」


昔の経験がこんな形で役に立つのだから人生何があるか分からないもんだな。


「いや、不安しかないけど・・・

というよりわざわざ変装しないで私のお兄ちゃんとして来れば良くない?その方が自然でしょ。」


「まぁ確かにそうだな。俺の変装技術をお見せできなかったのはとても残念だけどね。」


「というより授業参観に来ないという選択肢は・・・」


「ないな!」


せっかく彩花の日常を見られるチャンスを俺が逃すはずないのだから、そもそもそんな選択肢はありえない。


「・・・授業参観そっちのけで女子高生に手を出すとかダメだからね。」


「そんなことしないから。彩花だけを見てるから!」


「まさか、参観にきた人妻に手を出す方・・・」


「・・・いやそれもないから安心して」


「お母さんという前例があるぶん・・・ありえなくない・・・」


「葵さんは特別だから安心してください。」


何をそんなに心配しているのやら、別に好きになった人が葵さんなだけだから気にしすぎなだけだと思うんだけどなぁ。

付帯価値に目が眩むようなタイプではないよ?


「まぁ、そういうことにしてあげるよ。」


 変な誤解が生まれている気がする。


「ところで、入学して一ヶ月ぐらい経だろ。彩花は可愛いんだしそろそろ男子から告白されたりとかはないのか?」


 分が悪くなりそうなので話題を変える。彩花も朝からヒートアップしすぎると疲れるだろうしね。


「もう、おだてても今回の件は後日ゆっくり聞かせてもらうからね。」


 ばれてましたか。

 話題を変えたのは本当だが可愛いのも事実だ。もう一度言うが彩花は文句なく可愛い。何度でも言うが絶対可愛い。全体的に整った顔立ちから、くるりとした目から、肩にかかるしっとりとした黒髪から、すべてが可愛い。異論は認めない。というより異論を唱える奴なんていないだろう。それぐらいに可愛い。将来は彼女の母親みたいな美人さんになること間違いなしだ。


「別におだてているつもりはないよ。純粋に家族として彩花に変な男が言い寄ってこないか心配なだけ。純粋にね。」


「そんな頑固おやじみたいなこと言ってると、思春期の娘からは嫌われるぞ。」


 苦笑いしながら言う彩花に俺はショックを受けた顔をする。それは死活問題だ。嫌われてしまったらどうしよう。生きていけるかな。


「そんな絶望したみたいな顔しないでよ。私なんかに告白してくる人なんてそうそういないよ。」


 最近の男子高校生はヘタレな奴がおおいのだろうか。彩花に告白してこないなんておかしいだろ。俺は彩花が好きな相手ならお付き合いを止めるほど頭は固くない。むしろちゃんと応援してあげられる自信はある。まぁ告白してきてもし仮に彩花がその男子と付き合うことになったのをすぐに教えてもらえず。両親に挨拶みたいなタイミングで紹介でもされようものなら、相手の方の無事を保証できないけどな。

 

「お父さんは、男の子と付き合うことには反対しないから、ちょっと審査するぐらいだから付き合ったら教えるんだぞ。」


「なんで頑固おやじのノリのままなの?そのちょっとの審査とやらで相手の生存が気になるのは私の心配しすぎではないと思うから考えておくね。」 

 

 考えておかれたか。これは彩花の登下校を尾行する必要があるかもな。


「ついてきたら本当に嫌いになるからね。」


 声に出ていないのにそんな返答を返された。読心術でも使えるようになったか。


「さすがだな。」


「いや、心を読むとか以前の問題だから。露骨に顔に書いてあるから。」


「でも、使えるようになると便利だぞ。」


「でもの使い方おかしいから。そんなストーカーみたいな顔してたら誰でもわかるから。というより普通に使えるみたいなこと言わないでよ。」


「俺の顔そんなに折り返したりしてるか?読心術なら一応軽くなら使えるぞ。」


「わかりにくいけど、たぶんストーカーからスカートにしたんだよね。それで私が穿いてるプリーツスカートに対してのボケかな?というより、読心術ってそんな軽く覚えられるものなの?」


「よくわかったね。さすが私たちの可愛いい娘だ。なんかもう一人の方が昔独学で覚えたんだとさ。よかったら教えるって言ってるけどどうする?」


「いや、自分でも当てられたことに軽く引いてるから、もうやらないで。あと何があったら独学で覚える必要が出てくるのよ。とりあえず私は人間不信になりそうだからやめとくね。」


「それは考えておくね。なんでも人間不信を克服するために覚えようとしたみたいだぞ。まぁそれで余計に人間不信になったみたいだけど。」


「ダメなパターンじゃんそれ。」


「それはどっちの言葉に言ってるのかな?俺の考えておくことに対してなのか、もう一人の理由の方なのかな?」


「両方だよ!あ、そろそろ時間だね。学校行かなきゃ。春杜はまだ出かけないの?」


「今日は始まるのが遅いから大丈夫だよ。」


――そっかじゃあ行くね

と、さっきまでのやり取りがなかったかのように切り替え、かるく身支度を整えながら出かける準備をしている。


「もう行くけど私がいないからって大学行かないとか駄目だからね。」

 

 まったく信用ないな。前例があるからちょっと苦笑い。彩花は仏壇に手を合わせ


「じゃあ、ママ行ってきます。春杜を見張っていてね。」


 全然信じてない。


「ちゃんと行くって。あと最近物騒な話を聞くから登下校は気を付けるんだよ。何かあれば呼んで、5分あれば駆け付けるから。」


「地球の裏側でも?」


「お望みとあらば。」


「それは頼もしいことで。っとみくちゃんとの待ち合わせに遅れちゃう。」


 行ってきますと玄関を出てく彩花を見送った。

――さてと、出かけるまでまだ時間もあるし洗濯でもするか。

窓から暖かな光が差し込んで気持ちがいい。その他雑事をしながら洗濯を干し終えるとちょうど出かける時間になっていた。


〜♪♪〜


俺のスマホから電話がかかる。表示された着信相手に若干顔を顰める。


ーこれは大学遅刻パターンになりそうだなぁ


今日の講義は多少の休みで困ることはないので大丈夫だが・・・


「はい。春杜です。おはようございます。今回はどんな用件でー」


電話を終え大学に出かける準備をする。あとは・・・


――今日はいい天気になりそうですね葵さん。


と仏壇の写真に向かって話しかける。ますます彩花が似てきているその顔を愛おしく思いながら俺は家をあとにした。



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