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第3話 参拝!


 駐車場からさっきの信号前の鳥居まで、車で来た道をぐいーんと歩くことも出来るんだけど、私たちは(と言うより私の鶴の一声により)、裏道を通って3分で拝殿前に行ける道を選ぶ。


 人とは違った道を行けば、きっと良いことが……。

 なんていうのは甘い考えだった。同じようにズル(笑)しようとする人がいっぱい歩いている。

「あれ! もうここが本殿?」

 と、通り道の途中に本殿のような建物があって、思わずそんな風に言うと、鞍馬くんが、

「ここは神楽殿です」

 と解説してくれた、さっすがね。


 で、そこを横目に見ながら通り過ぎると、行く手に〔出雲大社〕と刻まれた大きな石碑がある。こちらもいちおう入り口なのかな、とか思いつつ少し進むと、なんと、そこには牛と馬がいた!

 なーんてね。

 それはよくできた作り物の神馬と神牛だ。皆、楽しそうになでなでしている。きっと御利益があるんだわ! 私は勇んで神牛も神馬もなでまくり、あげくに頬ずりまでしてしまった。夏樹と椿もやって来て、なでたり写真を撮ったり、またまたうるさいことこの上ない。

 冬里はクスクス笑いながら、シフォさんと一緒にそんな私たちを眺めている。

 ひとしきり御利益を頂いてそこを離れたんだけど、ふと何かを感じて振り返った。

 すると。

 潮が引くように人がいなくなった神馬の前に鞍馬くんが立っていた。そして、優雅な動きでゆっくり手を上げると、神馬をなでる。その表情は、なんとも言えず優しげだった。

「シュウはここの神馬と神牛が大好きなんだよね」

 肩越しに声がして振り返ると、ニッコリ笑った冬里とその横にシフォさん。

「ですね。いつ来られても、必ずここで長いこと過ごされます」

「へえー」

 なんて感心したんだけど。

「って、あんたたち出雲大社は初めてじゃなかったの?」

「シュウと僕は何度か来たことあるよ」

「俺は初めてです!」

 いつの間にそこにいたのか、夏樹が元気よく言う。けれど一緒ににいるはずの椿がいない。

「あれ? 椿は?」

「トイレに行くって」

 と、少し先にある木々の方を指さす。

「あ、じゃあ私も行ってくるね」

 と、言いながら、ちょっとだけ気になって冬里に聞いてみた。

「ねえ、この前はいつ来たの?」

「ん?」

「出雲大社」

「えーと、いつだったかなあ。あんまり昔なんで忘れちゃった」

「そんなに昔ではありませんよ。150年ほど前です」

 ようやくやって来た鞍馬くんが、はぐらかす冬里の代わりに答えてくれた。

「わあお、150年がそんなに昔じゃないって、やっぱりさすがね」

 私はちょっと楽しくなりながら、トイレへと急いだのだった。



 手は洗ったけど、もう一度きちんと手水舎を遣わせて頂いて。

 意気揚々と拝殿へ向かった。


「やっぱり大きいわねえ」

「うん、これを作るのはさぞ大変だろうね」

 大きな大きな注連縄を見上げて手を合わせると、もう一つ奥にある本殿へ向かう。

 少しの順番待ちのあと、何段かの階段を上がり、5人で仲良く横並びになってお参りさせて頂く。

 出雲大社は、二礼四拍手一礼、と言われているので、きちんとそれに則ってお参りを終えた。

 階段から降りると、全面の床に丸い模様がいくつも描かれているのに気づく。私は不思議に思って、「これ何だろ?」と、まあ、夏樹に聞いても知るはずもないし。椿も知らなかったので、一番確実なシフォさんを捕まえる。

「ねえ、シフォ、これ何の模様?」

 下を指さすとシフォさんは、「これは」と、なぜか空を見上げる。

 つられて上を見ても、やっぱり空しか見えない。

「昔はここに柱があって、本殿を支えていました。その名残です」

「ええ?!」

 思わずまた模様を見るために下を向く。

「へえー、そう言えば、大昔の出雲大社は天空へ続くような階段と繋がっていたって何かで見たことがあるよ」

 椿が同じように床の模様を眺めながら言った。

「そうなの」

 そんな高いところに本殿が鎮座していたのね。懐かしそうに空を見上げるシフォさんに、きっと彼はその頃の事も知ってるのよね、と、私は妙に感慨深くなってしまうのだった。


 で、そのあとは、本殿のまわりをぐるりと取り囲む道があるので歩いてみる。

 神社の建築様式はとても美しくて大好きなの。特に屋根の上にある特徴的な交差した木組みだとか(後で調べてみると、千木というそうだ)。完璧に優雅な曲線を描く大屋根だとか。そんな、凜とした立ち姿は、ずっと見てても飽きないくらい。


 心ここにあらずで建物を見上げながら歩く私に、「転ぶよ」と、椿は可笑しそうに手を取って歩いてくれる。そのうちに本殿の真裏へと到着した。

「あ! ウサギがいる」

 後ろから見る本殿もすごーくステキだったんだけど、ちょうど建物を見上げられるあたりの地面に、木の根っこをかたどった台に乗って、色んなポーズをする作り物のウサギがいるの。

 かーわいいのよー。

 本やお花を持ってたり、なんと、ハートを持ってる子もいる! さすが縁結びの神様のお膝元。

 もちろん、写真を撮りまくったのは言うまでもない。


 ぐるっと回ってまた本殿正面、と言うのかな、へ帰ってきた私は、おみくじ売り場を発見してしまった。

「やっぱり神社と言えばおみくじよね、さあ、みんなで引くわよ」

「って、俺たちも強制っすか?」

「当たり前でしょ! ほらほら」

 あきれる夏樹と椿を引っ張っていく。

 ここのおみくじは、吉だとか凶だとかは書かれてないのでちょっと肩すかしを食らう感じ? でも、おみくじって言うのは神様からのメッセージととらえて、神妙に内容を確認していると、

「ほほう、そうきたか」

 肩越しに誰かの声がして、驚いて振り返ると。

「ヤオヨロズさん!」

「よう、久しぶりだな」

「ごきげんよう」

 なんと、どこから現れたのか、そこにはヤオヨロズさんと、ニチリンさんが立っていたのだ。


「ニチリンさんも!いつからいたの? ちっとも気がつかなかった」

 そんな風に言うと、ヤオヨロズさんは不思議そうな顔をして言う。

「ずっと一緒に歩いてたぜえ、な、ニチリン」

「ええ」

 ニチリンさんもニッコリ笑って頷いた。

「うそ!」

 思わず椿にすり寄って、小さな声で聞いてみる。他のメンバーは、きっと気づいてたと思うので。

「ねえ、椿は気づいてた?」

「え? うーんと、あの最後の角を曲がる頃に気づいて、挨拶したよ」

「うっそおー」

 なんと、私だけ気づいてなかったんだ、ちょっとショック。

 でも、もうちょっと派手? な、登場の仕方してくれても良いのに。そこはホラ、神様なんだから。で、不服そうな顔をしていたのがバレバレだったのか、ヤオヨロズさんがまた不思議そうに聞く。

「なんだ? 何か不満か?」

「だってえー、おふたりとも神様なんだから、もっと神様らしい登場の仕方があるでしょ」

 私はヤオヨロズさんにしか聞こえないよう、極力小さな声で言う。

 すると、ポカンとしていたヤオヨロズさんが急に豪快に笑い出した。

「アーッハハハハ! あんたは本当に面白い奴だな」


 ――と言う言葉と同時にヤオヨロズさんが消えて、あたりがもやに包まれた。

 そのあと、空から幾筋もの美しい光がさし始め、背中に後光を抱いたヤオヨロズさんとニチリンさんが、雲のようなもやに乗って降りて来て……。

「ひ、人が、空から!」

「なに!」

「なんだ?」

 お参りしている人々が、大騒ぎをし始めた――


「なーんて、すごいのが良かったのか?」

 ニンマリ笑うヤオヨロズさん。

 焦って見渡しても、あたりには大騒ぎする人もなく、すっかりさっきの状態に戻っている。今のって、いわゆる幻惑? みたいなのを見せられてたのかしら。

 その横で、ニチリンさんがコホン、と咳払いして厳粛な声で言う。

「ヤオヨロズ、ふざけないの」

「あ、すまん。でも、あんまりコイツが面白かったんで」

 と、またガハハと豪快に笑う。

 それはそれで派手な登場の仕方なんだけど、なんて言うかこう、もっとねえ。

 すると、急に頭の中でヤオヨロズさんの声がひびく。

「(あのな。巷にごまんといる、我こそは神なり、なんて言ってな。みなのもの、あがめ奉れ~。なーんて言ってる奴は、ありゃすべてニセ者だ。本当にすごい奴ってのはな、目立たないただのオジサンやオバサンなんだよ)」

 驚いている私の頭を手でポンポンして、ヤオヨロズさんは頷いた。

「(で、あんたや椿みたいに、真面目にきちんと生きてる奴は、俺たちいつだって応援してるんだぜえ)」

 で、そのあと両目をバチン! と閉じる。どうやら本人はウインクをしているつもりらしい。

 豪快なんだけどなぜか不器用で、驚かされるばかりなんだけど、こんな明るい神様がいればこの世は安泰よね。なんて、おかしな事を考えて、私はひとり微笑んでしまうのだった。



「で? これからどうするんだ?」

 あえて、鞍馬くんに聞くヤオヨロズさんに、あえて、答える冬里。

「あれ? ヤオが決めてくれてたんじゃないの~?」

「知るか!」

 すると、冷静なニチリンさんがまたコホンと咳払いして言う。

「オオクニが、歓迎の宴を開いてくれるって言ってたでしょ」

 と、2人をたしなめるように言ってから、椿と私に説明をしてくれる。

「ここの神、えーと……、オーナーで、大国おおくにっていうのがいるの。その人がね、ささやかですが、皆さんを歓迎したいって」

「さっすがー。オーナー同士のネットワークってすごいね」

 冬里が楽しそうに言うけど、そのオオクニさんって確実に神様よね。私はいいけど、椿はどうするのかしら。

「料理屋のお部屋を借りて、海の幸をごちそうしてくれるらしいんだけど、私たちは準備があるから、先に行って現地で待ってるわ。あなたたちは、ゆっくり散策してから来てちょうだい」

 安心させるように言ってくれるニチリンさんに、軽く頭を下げたあとは、もういつもの私に戻って言った。

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて、ゆーっくり散策させていただきます」

 そんな私をあきれるように見て、椿がニチリンさんに言う。

「何から何までお任せしてすみません。本当ならおふたりも、もっとゆっくり参拝出来るはずなのに」

 すると、ニチリンさんはちょっと驚いたような表情のあと、とっても嬉しそうに綺麗に微笑んだ。

「あら? 大丈夫よ。私たちは何度も来てるし。それにオオクニとも話したいし」

「そうですか。それなら良かった。よろしくお願いします」

 きちんと頭を下げる椿の肩越しに、ニチリンさんが、こちらはみごとにウインクすると、また頭の中に直接声がする。

「(ステキな伴侶ね。このご縁を大切にね)」

 私は心の中で、「はい!」と、力強く返事したのだった。


「嬉しそうだね、由利香」

 ニチリンさんを見送る私に、椿が言う。

「もちろん! 参道のお店めぐり、すっごく楽しみだもん」

 と、ちょっとはぐらかしたんだけど。

「出雲そばはパス、だよ」

「え? どうして?」

「あとでご馳走がどっさり、だからさ」

「あ! そうだったー」

 椿との会話で、ハッと気づく私。楽しみにしてたんだけどな~、出雲そば。けど、ま、いいか。


 ヤオヨロズさんたちは、一歩人混みに紛れてしまうと、消えたんじゃないかって言うほど目立たなくなった。私たちには分からないけど、もしかしたら、他にもたくさん神様が歩いていらっしゃるのかもしれないわね。



 本来の出入り口である鳥居までの道すがらも、大国主命にちなんだ銅像があちこちにあるの。銅像の大国主命って、とても優しそうなのよね。このあと本人? に会うのがとても楽しみだわ。

 それとね、因幡の白ウサギにちなんで、ここにもウサギちゃんがいっぱいいる、って言ってもやっぱり作り物のがね。並び方とかが可愛くて、参拝者にも大人気。皆、うさぎちゃんと同じポーズを取ったり同じように並んだりして、バシバシ写真を撮っている。

 そのあと、木々が生い茂る広い参道を抜けて、最後に坂を登ると鳥居に到着する。

 ここが本来の入り口なのよね。坂の上からは、遠くにさっきくぐってきた白い鳥居が見えていた。

「さあーて、それじゃあお店を巡りまくるわよ!」

 元気良く宣言したんだけど。

「僕たちはパス」

「そうっすね。疲れたんで、何だったかな、出雲ぜんざいって言うのを食べて待ってます」

 冬里はともかく、夏樹までそんなこと言うなんて。

「なに? あんたたちそんなジジ臭いこと言って。夏樹なんてついそこまで椿と坂道走ってたくせに」

 そうなのよ。若い2人? は、ムキになってなんだか坂道を競争して駆け上がってたのよ。

「だからっすよお。もうへとへと」

「情けない。いいわ、こんな奴らほっといて、とっとと行きましょ、椿」

 と、私は椿と腕を組んで、参道巡りツアーへと繰り出したのだった。


 私たちが鳥居の前を離れると、ほっと息をついて夏樹が言った。

「ほんと、世話が焼けるのは由利香さんですよね。俺たちの気遣いも知らないで」

「ま、それが由利香の由利香たるゆえんじゃない? さて、では僕たちは、のんびり甘い物でも頂きに行きますか」

 2人の言葉に頷いて微笑む鞍馬くん。

 えっとね、彼らの名誉のために言うと、お土産選びは椿と私、2人きりの方がいいだろうと、わざとあんな風に言ったらしいの。

 それは嬉しいんだけど、もうちょっとわかりやすくしてよね。あ、でもそれだと、変なところで気の弱い? 私が遠慮しちゃうと思ったのかしら。

 まあ、おかげさまでとても楽しい時間が過ごせました。

 あ、ちなみに出雲ぜんざいは椿と2人、しっかり頂いたわ、悪しからず。



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