第2話 まずは到着
今回の社員旅行は、土日を利用した1泊2日。なので、現地での滞在時間を少しでも長くしたいという理由で、往復飛行機を利用することにしたの。
快適なフライトを経て到着したのは、出雲縁結び空港。
面白いのよ。滑走路は宍道湖に突き出てるんだけど、降りて見渡すと、そんな近くに湖があるようには見えないの。なんか大平原にポツンとあるような感じ。ものすごく大きな空港ではないけれど、路線がいくつも飛んでいて、空港の中は結構賑わっている。
自動ドアに結びの水引の絵が描いてあったり、ゆるキャラの「しまねっこ」って言うのがあちこちにいたり。もちろん! 記念写真は撮りまくったわよ。
面白いのは天井に雲が飛んでるの。さすがは出雲大社のお膝元よね、え? 関係ない? あはは、そうかもね。
「あー、着いたあ。ねえ、疲れちゃった、ちょっと休憩しましょうよ」
私が言うと、その他のメンバーは、出たー! って言う顔をした。で、失礼にも言葉にする奴もいる。
「また出たよ、由利香のワガママ。そんなに長い時間乗ってないじゃない。つべこべ言わず、すぐ移動」
「ええー? イヤよ。のど渇いたー、小腹が空いたー」
なんて、本当はそこまで本気じゃないんだけど、冬里には条件反射で反抗してしまう。
すると出入り口の方から、ふふ、と小さな笑い声が聞こえてきた。
そこに立っていたのは……。
「シフォ!」
そう、以前京都に滞在したときにお世話してくれた、シフォさん。本名をシルバーフォックスと言う神さまの使いで、今は人の姿をしているけれど、本来はとっても綺麗な銀のキツネなの。あのときはヤオヨロズさんにお仕えしてるんだって自己紹介してくれたっけ。
「どうしたの?」
思わず駆け寄って聞くと、彼はニッコリ微笑みながら答えてくれる。
「ご依頼により、レンタカーを手配させて頂きました」
空港にはレンタカー受付があるんだけど、色々手間どるだろうから、と、ヤオヨロズさんがシフォさんに頼んでおいたらしい。実はニチリンさんが助言したから、なんだけどね。
「と言うことは、もしかして」
「はい、ヤオヨロズが現地でお待ちしております」
「うわあ、そうなんだ」
またヤオヨロズさんに会えるのね、嬉しいー。
私たちのそんな会話を聞いて、どう? って感じでニッコリしながら鞍馬くんを振り返る冬里。その鞍馬くんはなぜかちょっと微妙な表情だ。
「へえ? あの、豪快な神社のオーナーさんだよね。やっぱり各地の神社の人と知り合いなんだね」
ひとり事情を知らない椿はそんな風に言う。本当は隠し事はしたくないんだけれど、こればかりはね。なんだかごめんね、椿。
「だったら早く行きましょうよー」
と、嬉しそうに言う夏樹に「待った」をかけると、私はシフォさんに聞いてみる。
「ねえ、そのレンタカーって、どこに置いてあるの?」
「駐車場に」
と、通りを挟んだ駐車場を指さす。
「それならしばらく置いといても大丈夫よね? じゃあ決まり。シフォも一緒に何か飲んで休憩しましょ、ね、いいでしょ?」
で、他のメンバーは、また、出たー! って顔をして。
シフォさんは少し驚きながら、キュッと目を閉じたんだけど、そのあとうんうんと頷くと、すっと目を開けて言った。
「わかりました。お許しを頂いたのでご一緒します。確か上階に喫茶があったと思います」
で、「やったあ」って言う私を先頭に、皆でゾロゾロと3階へ上がると、そこには〈神在〉って言う名前の喫茶があった。
「神在、ですって。さすが出雲の国ね。他の地方じゃ、10月は神無月だけど、ここだけは神在月って言うのよね。どう、知らなかったでしょ、夏樹」
ちょっとからかい気味に、夏樹に振る。
「さすがの俺も、それくらいは知ってますよ」
夏樹は、ふん! と言う態度で生意気に言い返してくる。
「あら? それは失礼しましたわ」
以前なら、なにをーってはたいてたんだけど、ここはおとなしく言い返すだけにする。私も大人になったのよ、なーんてね。
見学デッキが見える席を陣取って、飛び立つ飛行機を眺めながら、しばしのお茶タイムを楽しんで。
駐車場に降りていくと、借りてくれていたのは、7人乗りのミニバンだった。
実は、鞍馬くんたち『はるぶすと』のメンバーは最初、椿と私のお邪魔虫になっちゃ悪いと遠慮して、車を2台借りようと思ってたらしいの。
でも、それを聞いた私たちは、「ええー?!」と、びっくり。
「いまさら、何言ってるのよ。あんたたちがそんな気を遣うなんて、気持ち悪ーい」
「うへ、それはひどいっすよ、由利香さん」
「気なんて遣ってなーいよ。僕たちはデリケートなんだから、狭い車内で新婚さんにイチャイチャし続けられるのは、ゴメンだからね」
「そう、それっすよ!」
言いたいことを言う夏樹と冬里に半ばあきれてたんだけど、横から椿が笑って助け船を出してくれた。
「もうそれこそ今更ですよ。それに道中は大人数の方が楽しいし、2台に分かれてると、万が一はぐれてしまった時とか、どこで待ち合わせようとか、けっこう無駄な時間が増えると思うし」
「さすが椿ね」
「それにさ、久しぶりだから、夏樹とゆっくり話もしたいし」
そんな風に言う椿に、夏樹はやたらと感激したみたい。
「うわっ椿、嬉しいこと言ってくれるね! 俺も俺も、おれも椿と語りたい!」
元気に挙手して言う夏樹に、
「あれ、上手く言いくるめられてる」
と微笑んだあと、仕方ないなーと言う感じで冬里も同意してくれたのだった。
「ねえ、ヤオヨロズさんにレンタカーの事伝えてあったの?」
不思議に思ってこっそり冬里に聞くと、いとも簡単に「ううん」と否定される。
「そうなの? だったらどうして1台でいいって知ってるんだろ」
また首をひねる私に、そんなことも分からないの? と言う表情のあと、ニッコリ笑ってひと言。
「だってそこは、神さまなんだから。じゃなくて、普通この人数なら1台で十分でしょ?」
「あ」
ポカンとする私を置いて、冬里は優雅にレンタカーの方へと歩いて行った。
「ここからでしたら、ゆっくり走っても、40分もあれば出雲大社に到着します」
運転席に座ったシフォさんが言う。出雲大社までは、シフォさんが運転して行ってくれるとのことだ。
助手席には鞍馬くん。
その後ろに、冬里とちょっぴり緊張気味の夏樹。え? どうしてかって? ふふ、夏樹は冬里が隣にいるだけで緊張しちゃうのよ。
で、そのまた後ろ、最後部に椿と私が乗っている。
現地まで1時間もかからないし、今度こそ途中で休憩したーいなんて言ったって全員に却下されるのが分かってたから、空港の売店で、お菓子やら飲み物やらを買い込んでの移動だ。
「じゃあ、出発!」
「「しゅっぱーつ!」」
静かなのは運転席と助手席だけ。
後ろのヤツらは、私も含めて、嬉しくて楽しくて大はしゃぎだ。夏樹なんかはほぼ後ろを振り向いて、椿とあーだこーだと語り合っている。
私? 私は「夏樹うるさい」とか言いつつも、飲んだり食べたり、お菓子配ったりに忙しいから、全然平気よ。
そんなこんなをしているうちに、車はあっという間に出雲大社の近くに到着したようだ。
最初に白くて大きな鳥居をくぐると、ずっと向こうにもう一つ鳥居が見えるんだけど、そこまで行く途中、両側にはお土産屋さんや食べ物屋さんが並んでいて、車道にもあふれんばかりに通行人がわんさといる。いわゆる参道ってやつかしら。
「わあ、ステキなお店がいっぱい。あとで歩いてみましょうよ」
「そうだね」
奥の大きな鳥居前の信号を左折してしばらく行くと、出雲大社大駐車場というのがあって、たくさんの車が駐まっている。ラッキーなことに、入ってすぐのスペースが空いていた。
やったあ!
とうとう出雲大社に到着!
車を降りて、うーんと身体を伸ばすと、どこからともなく心地よい風が吹いてきた。暑くもなく寒くもなく、参拝日和の駐車場は、たくさんの人が行き交って賑わっていた。




