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第5話 洞窟なんて大概ロクなもんじゃない


今日も空が青い。


家に近づいた為、通学カバンから鍵を取り出すのにスマホを落とした。


「ヤバっぁああっ!!!」


焦りながら手を伸ばしもカスリさえせず、スマホは硬い舗装にブチ当たり、画面を擦りながら流れるように1メートル先に飛んでいく。


「ああ、やってしまった…」


重たい足取りでスマホを拾い上げると、案の定画面に擦り傷が…


こうなるなら手帳ケースにするべきだったと後悔しながら家路に急いだ。


玄関を開けると、いつもの様にムシヤキがひんやりした玄関のタイルの上で寝っ転がっている。


あわよくば外へ出ようって魂胆だろうが、そこはプロの私がムシヤキを足で挟め動きを封じ、下駄箱の上に常備してある猫じゃらしを数回揺らした後、廊下奥の部屋である夫婦の寝室目掛けて投げつけた。


細かった黒目をカッ!と丸くし、流星の如く勢いで私の履く予定であるスリッパをぶっ飛ばしながら奥へと突っ切っていく黒い弾丸、その名もムシヤキ。


肉球の間からはみ出る毛をうまく使い、ドリフトを決めながら猫じゃらしを器用に咥えると、夫婦の寝室であるドアを蹴り、己の反動を生かして猛スピードで此方へと突っ込んでくる。


その先にあるのは、渇望するほどの大冒険、血肉滾る野生への本能。


光さす自由への扉を…






私は無慈悲に閉じた。



「残念だね、ムシヤキ…

この地域での猫の放し飼いは禁止されてるんだよ」



諭すように言えば、上がり間で歩みを止めるムシヤキ。

私は黒い毛玉を優しくひと撫でし、微笑む。


そう、内心で分かりやすくザマァwwと嘲笑いながら横を通り、飛ばされたスリッパを履く。


スマホの鬱憤をムシヤキに当てつけたのだ…


何とひどい飼い主だろうか…スマホの件は確実に本人のせいであるのに…


黒い毛玉は動かない…知らぬが仏とはこの事か…



だが、ムシヤキは知っているのだ。


こいつには勝たなければならないと…





そして、




私は知っているのだ。


こいつに負けてはだめなのだと…










……カチャン…



背後で何かが床にぶつかる、そんな小さな音が響く…


振り返っては駄目だと、私の中で誰かが焦り出し警告を発する。


しかし、それを振り切り、私は後ろを見てしまった。


猫じゃらしを小さく咥えたまま、横たわり…


モフれと言わんばかりのオメメぱっちりムシヤキが…


にゃん…


か細い、可愛い声を私に投げかける。


私は吸い寄せられる蝶のように…あるいは蛾のように、その黒いモフモフの元へ足が動く…


駄目だ!離れろ!逃げるんだ!これは策略だ!!


誰かが警告し、叫ぶ。


それなのに、私の体は言うことを聞かない。


まるで魔力だ。

誰も知らない不思議な力によって私の体は突き動かされているのだ。



私の体は…ゆっくりと黒い毛玉の横に両膝を付けた。




そして…




…顔をその毛玉の中に埋める…



その瞬間、ビリッと体を駆け抜ける得体の知れない感覚が来た直後、私の意識は飛ぶ。




ああ、なんと言う至福のとき、なんと言うモフモフ感。


この世の全てをそこに集結させたような、そんな居心地の良い、心満たされ邪な気持ちを洗われる幸福感。


芳しい香りを堪能し、己とは違う暖かな温もりを感じ取った。


私の中に居た誰かが警告を捨て、快楽のラッパを鳴らし始める。





そして、顔を上下左右に動かせば、顔全体に感じる毛の流れ。


必要以上に私の頬は、上へ。

そして鼻下が、下へと伸びる。



そう、私は堪能しているのだ。


このモフモフを、この温かさを、この愛おしさを…



そして、私の頭をがっちり抑え込む…


爪の痛さを…蹴りの力強さを…























はっと目を覚ます。


懐かしい夢を見た…気がする。




大きく伸びをし、空気をめいいっぱい吸い込んだ。



どうやらずいぶんと…懐かしいけど、変な夢を見た、なって思った。



時計を見れば19時だった。


「夕ご飯を作らないと…」


そう思い、立ち上がればどこかで笑い声が聞こえる。


ああ、そうだ…


お父さんとお母さんが家にいるんだっけ?


階段を降り茶の間を開けると、唐揚げとジュース類とビールとおつまみ類を広げてお父さんとお母さんが笑っている。


丁度録画していたお笑い番組を見ていた。


「あら、おそよう繭ちゃん。この新人芸人さん初々しいわよ」


面白げにイマイチ面白くもない、どちらかというとスベってる感のある新人芸人を画面越しに上品に笑うお母さんはいつも通りで。


「繭ビール飲むか?それとも焼酎にするか?へっへ、繭はジュースだよなぁ!あとお母さんの唐揚げうまいぞぉー、えへへぇ」


もう真っ赤になって出来上がってるお父さんが唐揚げをドヤ顔で頬張っている。


しかし、良くもこんな粗暴で目つきも頭も悪く酒好きな腹ポヨ男に、美人で家庭的で名門大学行ってキャリアウーマンやってた高嶺のおっぱいすごいが良く付いたもんだと疑問に思う。


昔、お母さんにお父さんのどこが良かったのか聞いてみたがフィーリングだと返答された。


この短所しかない男とフィーリングって何や…と思って、


お父さんにお母さんのどこが良かったのか聞いてみれば、頭を傾げ、何だろうなぁ…とどこが遠い所を見つめて考え込んでいたんだが…おい、何があった。


普通なら、自分よりもスペック高い女を貰ったんだからお母さんの全部が愛おしいとか、俺には勿体無い妻だよ(いい顔で)とかなんか言えるだろう…と冷たい目をしてお父さんを見た覚えがある。


まぁ、2人の馴れ初めなんて知らぬからね、


本当に意味のわからない変な夫婦だなって思う。


ああ、そんな夫婦から私が誕生したのか…


感慨深いな…


そう思い、私専用の座布団の上に腰を下ろしてテレビを見る。



なんだかひどく懐かしい雰囲気だった。




そう思っているとムシヤキがすり寄ってきた。



あ、ムシヤキ、さっきは良くも夢で……




細い、その黒目が私を見据える。








……ああ、そうか。


夢だ、これも夢なんだ。





だって、ムシヤキが居るのに…



お父さんとお母さんが居るわけがないのだから。






なんて、都合のいい夢だろうか……



























暗闇の中、頬をさわれば涙が出ていた。


水分が勿体無いな…と、どこか他人事のように自分のことを思う。



木の根が入り組んで窪んでいる所で、疲れ果てて寝むってしまったらしい。



光る苔も周りには無く、周りは闇で、手探りで気が付けばこんな所へ来ていたようだった。


多分、注意散漫していたんだと思う。


根を掴んで立ち上がろうとするとグラッと揺れた。


ああ、そうだ。

上から根っこを伝って降りてきたんだった。


そのまま窪みの中で、もう一度体を縮める。











不意に、暗闇の中で遥か下の方。

小さな違和感を、体や感覚で感じ取った。


寝起きであまり動けないのもあるが、周りを把握できていない、なんせお腹も空いて喉も渇いて何日たって何時間経過してるのか分からないし。


少し、いや結構フラフラするし…


でも何処かで、何かがザワザワとざわめいている…様な気がして…


鳥肌が立つ程の気持ち悪さを私は感じている…

体をもっと出来るだけ縮め、何も考えない様に無心になる。


私は石、私は石…


……ああ、また思い出した。

ここで寝る前もこんな風にしていたっけな。


それから何分経ったのか時間の感覚はわからないが、その違和感も少し意識を飛ばしていると、いつのまにか無くなった。


夢を見るほど長く寝てないみたいだった。


「…なんだったんだ…」


掠れた声が耳に入る。


ああ、喉が渇いた。

水が欲しい…


声を出したことで気持ち悪さがスッと引き、安堵感が心を満たす。


まるでアレだ、……鬼から隠れる気分、でも見つかったらアウトなヤバめの鬼ごっこしてる気になるのだ。



…怖いが、こんな所にいつまでも居れない。

動かなければ、動いて…ママンに会わなければ、話を聞かなければ、その為には生きないといけない。


深淵へと繋がるポータルなる所に行かないといけないのだ…



しかし、そのポータルがどう言ったモノであるのか、私は分からない。


多分人工物であるはずだ。そう希望を持たせた。


だってダンジョンだよ…人工物はお約束なはず。


立ち上がった時、木の根っこが軋み、そしてゆらゆらと揺れた。


私の体が一瞬にして冷えて、とっさに太めの根っこにしがみ付く。


バンジージャンプする人が良く、肝が冷えたっていうけど……こういうことか…


今、私は下へと降りている最中だったのだ。


そんな重要な事さえ忘れているなんて…栄養失調に陥るのも…当たり前か…


木の根を離せば空中に放り出される所だったし、深さは分からないが下に落ちたら、打ち所悪く死ねるだろう。



だけど、私は死にたくないのだ。



入り組んだ根を掴み、慎重に裸足の足をかけながら下へ下へと降りる。



多分十分以上かけて下へと降りると、そこは立ち上がれる程の空間が広がっていた。


屈まないって楽なんだね…初めて知ったよ…





ああ、夢の中でベッドに寝てだけだど……平らなところが欲しいと思うのは悪いことなんだろうか……






地面にはやはり大小様々な砂利や石が転がっている。


ゆっくり慎重に数歩進んで行くと、石がボロボロと砕ける感触を感じた。


立ち止まり、足をゆっくり上げ、足裏を触る。


何が湿り気を帯びた石…か?

いや、湿り気を帯びた…乾燥した土?だろうか。


私は多分、それに近いものを踏んだようだった。


手を地面に這わせ、硬いだろう石を拾い、力を入れてみる。

するとすぐポロポロと砕けていった。

なんだろう…この石は…土の塊…と考えるのが正しいのだろう…

もう一度手を這わせれば、今度は拳大の土塊があった。


それを拾い暗闇の中、形を確認すれば、コレが変なことに気付く。


ゴツゴツしていると思って居れば、つるんと丸かった。

そして、ひっくり返せば何故かお椀状になっており、そのお椀の中が湿っている。どちらかと言うとお椀の中の方がつるつるしていた。


なんだ、コレは…


その湿り気部分を爪で引っ掻けば、乾燥した表面の奥に粘土みたいに柔らかい。


私は暗闇の中、その粘土質の土を触りながら匂いを嗅ぐ。


土の匂いと…少し生臭いような…そんな匂いがした。


きっとこのお椀状の中で空気が停滞した為に、湿りに雑菌が繁殖して生臭く感じたのかも知れない。


小さいものはすぐ乾燥するが、このくらいの大きさなら中々乾かないのかも知れない…しかし、触っていくうちにポロポロと崩れ壊れた。


他のお椀型を探せば、丼、ボール、鍋並みに色んな大きさの土塊が出てきた。中には酷く柔らかいものもある。


それをパンパンと手で払い、私は思考する。


水分がこの空間には多かれ少なかれ、存在することが分かった。


と言う事は…だ。


やはり何処かに水源があるのかも知れない…


その水源が何かしらの形でここに現れるとしたら…


私は焦る気持ちを押し殺しながら、一先ず水の音を探した。


数分後…




……ポチャン……





何処かで、微かに水滴の落ちる音を聞いた。


私は目を見開いて…ゆっくりと顔を上げる。


水滴が落ちる…と言う事は…何処かで水が少なからず溜まっているのだ。



ああ、生きれる…


少なからず希望が持てた…




私は降りて来た木の根を背後にし、乾燥した手頃な土塊を持ち、左右前後に投げつけた。


右側はすぐ壁に当たる音。

左側は転がる音。

前方も転がる音。

後方は壁とそこを伝う木の根だけだった。


土塊を拾い。

前に慎重に5歩進み、右側に土塊を投げる。


また壁にぶつかった。


右側の壁はさっきと同じような距離感で壁があるようだ。

左側に投げれば、また転がる。

前方に投げれば、またまた転がる。


それを何度も繰り返していると、前方が壁になった。


そこを基準に、右足を1歩下げ180度回転する。

今度は後方を前ぽうにしてそれらを繰り返す。


……嗚呼、良かった。


降りて来た木の根に帰って来れた。

大体50歩くらいで帰って来れたのだ。


ホッとして、今度は根っ子のある後方の壁を左側の壁として、同じことを繰り返す。


すると先程と同じ様に50歩分の感覚で、前方の新たな壁を後方にし、根っ子の所まで帰ってきた。


その間、結構な数の砕ける土塊を踏み潰して来て、なんだか少し面白いなと思った。


思って仕舞えば、なんだかワクワクして来てしまった。


水滴でも水の音を聞いたと言うことが、どれほど私の中の安堵につながったのか…


やはり水は生き物が生きていく上で、非常に大切なものであると、改めて思った。


私はゆっくりと、慎重に歩を進め、崩れる土の塊を踏みしめながら、小さいが確実に水滴の落ちる音を捉えつつ、壁側を埋める。


やっと壁側を制覇すれば、やはりどちらも次の壁までは大体50歩くらいで到達した。


と言うことは…一周すれば、木の根に帰って来れると言うことだった。


一か八か、左手を基準にぐるっと周って見る事にした。

もちろん土塊で壁を確認しつつだ。


……案の定戻ってこれた。


この部屋は根っ子を基準にひし形の、要は正方形の洞窟であると確信が持てた。


もしかしたら、この壁はダンジョンの一部なのかもしれない。


そうなれば慎重に中心部分を確かめなければならない…


もしかしたら大きな穴が空いているかも知れない。

もしかしたら柱みたいなものがこの空間を支えているかも知れない…あるいは宝箱?かも知れない。

いや、ダンジョンに宝箱があるという話は聞いたことはなかったな…


それらを考えればキリがないが、真っ暗闇な以上確認しないと、水を逃してしまう恐れもある。


そんな、水を逃す恐怖が暗闇を進む恐怖よりも勝ち、私を少しばかり…いや、かなり急かしたのだった。


暗闇の中…私はその場にしゃがみ込んで顔を地面に近付ける…


土の中から湿り気を帯びた水の匂いを嗅ぎとる為に一生懸命這い蹲り、自分の位置を頭の中でシュミレーションしながら探す。


ああ、この近くだ…確実に…この近くなのだ。


私は這うように中心へと、水の在り処を探した。


中心部分はどうやら土塊の塊が沢山あり、少し小高くなっている。


しかし、それと同様に大きめの土塊が見られる様になってきた。鍋級の穴や土塊が結構あるのだ。


私は出来るだけ屈みながら、膝が汚れようと、頭を大きな土塊に打ち付けようと、ボコっと窪んだ穴に足を落とそうと


私は必死に水を求めたのだった。




人間、何かの為なら何だって捨てれるし、何だって出来る…ってのはあながち間違いでもないようだ。


私は多分きっと文明らしいものを全て捨ててる気がする。


そう考えるとクスクスと笑える気がした。

今はまだマトモに頭を動かせてるようだ。



しかし…水滴の落ちる音は聞こえれど、肝心の水が分からない。

此処は洞窟、雫の音が反響し、水の在り処を上手く隠しているのだ。


喜びは段々と焦りに変わって行き、すると段々イライラしてくる…というのは、人間…生き物としての当たり前な感情で、…それがどうも酷く辛い。そして、自己嫌悪に陥ってしまう。




私はその場にしゃがみ込み、頬をバシンと叩き、心を落ち着かせ大きく深呼吸した。


すると突然の泥臭さを感じる。

鼻で嗅いでみるが分からない、口で大きく息を吸うと…そうだ、まるで公園の泥水を…いや違う…田んぼの泥水が口に入った時のような…



……ポチャン……



パタッパタッ…




頭の上に何かが落ちた。


頭皮の地肌に、冷たいものが浸透する。


それは、昔に感じた雨の冷たさに似ていた。


口がうっすら開いて、上を見上げた。


口の端っこが上に小さくつり上がる。


「はっ…ははっ…」


嗚呼、成る程…この水滴音…そして、この冷たいの…水だ。


口から微かに「…水だ…」とどうしようもないため息が漏れる。


私は何を焦ったのか、下ばかり気にして、四つん這いになりながら真面目にゴツゴツした地に這いずっていたのだ…


上を良く見れば、私が多分入れるくらいの空洞の洞窟があり、光る苔が群生しているのだろう明かりが、奥で発行しているのを薄っすらと目視する事が出来た。


立ち上がり、その場で手を上に伸ばせば、手に木の根っ子が当たった。…よかった…木の根に届く距離だったか…


少なからず安堵する。


コレならば足元に硬い土塊を積んで行けば普通に登っていけるだろう。


しかし、今までの硬い木の根とは少し違う手触りの様に感じる。

どちらかと言うと、まだ柔らかそうな若い木の根と言った感じで、まだまだ育つ伸び代があるのだろう。


グッと触れば…少し湿り気が…というか水分が滲み出て来た。


「ふはっ…ふふっ…もうヤダ…自分嫌い…」


明らかに自分が伝って降りて来た木の根ではない、新たなしかも、水分を含んだ若い木の根っ子である。


それに、この空洞を登っていけば、苔で明るい上にもしかしたらポータルに続く道があるかもしれないのだ。


また、そこから雫の音が、反響して今度こそはっきりと聞こえた。







私は手についた水分を口に含んだ。


手についた土の味と、水分…どれほど手が汚かろうが…早く絞って水分を補給したい。


でもここで絞ったとして、今の飢えた私を満足させられる程の水量ではないのだ。


早く、早く上に行かなければ…




そんな事を思っていると、ゾワリと寒気が走った。




地下から…何かが来る…


ゾゾゾ、ゴゴゴと、土の中を何かが動いている。


そんな音が、振動が…鼓膜から、足裏から…感じ取った。


私は息を飲んだ。


こんな時に…


…コレは…バレてはいけない奴だ。


私の中の生存本能が叫ぶ。


私は石だ…私は土塊だ…

そう暗示をかけまくった。


……十数秒だろうか。

黙ってじっとしていると、何処かの土塊がゴトっガタッとずれて落ちる音がする。


何かが地面からモゾモゾと、土塊を押し退けて這い出て来る気配がしだした。


私は息もできる限り浅くし、動きを止める。


私は石だ…そこらにある土塊と同じだ。


もう、暗示をかけまくるしかない…

そうしないと、心臓が持たない…




ジュッジューッ…ジュ…グチュグチュ…


水分の混じった様な不気味な音が響く。


ここに来て、私は未知との遭遇をしている。



なんだこの音は、水分の混じった…ああ、水分…水分が欲しい…水分を…


口の中で涎が溢れる。私はゆっくりと唾液を飲んだ。


水分に飢えているとは…まさに、このことの様だ。





水分水分と煩悩に苦しんでいると、いつのまにか不気味な音も消え…ゴゴゴ、ゾゾゾと何処か土の中を動き、遠くへ行ってしまう音を聞いた。



完全に気配が消える。


……成る程…まだ私が木の根っ子の窪みにうずくまってる時、ここでさっきの何か…多分モンスターらしき物がさっきみたいな事をしていた……という事になる。


私は音がした方に慎重に歩いて行く事にした。

確かに水分は飲まなければいけない…


しかし、それと同様にあの地中のモンスターが何かをしていったのだ。

私はそれを確かめなければならない…


私はゆっくりゆっくりと近づき、何かドロドロしたものを…


ムニュりと踏んだ。


「ヒェッ!」


喉の奥から空気と声が出る。


冷たい様な暖かい様なものを踏み、鳥肌が立つ。


私は足を浮かせ、そのドロドロしたものを足から取った。


匂いを嗅ぎ、指先で捏ねる。


あれ?っと違和感を覚えた。


「………ん?……あぁー?…ああ、成る程…」


手を伸ばし、そのドロドロした本体を触り、持ち上げた。


「…………うん、泥だ…強いて言うなら田んぼの…」



そこで自ずと、理解した。



ポロポロ崩れる土塊。

お椀型の湿り気を帯びた土塊。

ボコボコ空いた大小の穴。

土の中を移動するもの。


そして、この泥…


コレは……巨大なミミズのウ○コである……と。






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