第2話 常闇に潜む者(笑)
「マユ、あなたは選ばれた神の子なのよー?凄いわよね…ワタクシがお母様になるなんてね、なんだか不思議だわ…」
絶賛胎児中な私!新しいママンの常闇に潜んでいるよ!
前回のあらすじなんかしないよ!ってかなんかめっちゃ話しかけられてるよ!
しかも、どう反応していいか分かんないからひとまずど突くよ!
「きゃっ!びっくりした!……うふふ!今日も元気なのね!」
でもね、私の思考はママンには伝わらないんだよね、これ完全にママン独り言だよ!…まぁそんなもんか、だって私今胎児だもの。
逆に思考わかっちゃったらへんなスキル持ちの不気味生命体だもんね。
…いや、現在進行形で不気味生命体だった!
…ごめんねママン、ピンポイントでど突かれたら怖いよね…今度からソフトど突きにする。
えっとね…ママンのお話を聞く限り、どうやら私は神の子なんだって、神の子ってなんだろうね、そのまま神様の子供ってこと?
じゃあママンは神様と結婚したの?って思ってたんだけど、どうやらそうじゃないみたいよ。
ママンと良くバトルしてる声の大きなお付きの人…えっとアイシャだったっけ?
良く、「私は教育係としてetc」とか言ってるからそう言う人なんだと思う。
そのアイシャが、大婆様からの御告げがどうとか、神託における取り決めがどうとかこうとか…
そんなことを良く言ってるから、きっと私ってママンのお腹の中で自然発生したのかなぁって思うんだよ。
……そう言う事例も地球であったって知ってるけど、不気味じゃね?
という事で、私はなんと不気味生命体らしい!!
私の元になった遺伝子であるパパんが居ないってだけでちょっと変な感覚なんだけど、なんかそこら辺を周りは受け入れているんだよね。
神聖な物(?)みたいに扱われてるんだよ、それって逆に怖くない?
だって得体の知れない生き物がお腹にいるって事でしょ?
私だったらきっと発狂して産婦人科に駆け込む。
だってやらかした記憶がないんだもん、何かしらの痕跡があって、おいおいマジかよやっちまったぜってなるんならお腹にいる子供に罪はないが、エイリアン的なアブダクションされちゃったんなら発狂ものだよ。
て言うか、ママンはそんなエイリアン的なアブダクションされちゃった側の人なんじゃないか!なんて思うよ。
いゃ、お腹の中に居る立場で言えたもんじゃないけどね。
「っまぁ!お姫様!!そんな所ではしたない!!早く降りて下さいましっ!!アイシャ様!アイシャ様!こちらに居ましたわ!」
「もうっ!ちょっと木に登ってただけじゃない!」
…またかよ!いやいや!!妊婦でしょ?!!普通に妊婦が木に登っちゃダメだから!!とんだ妊婦だなぁオイ!
ってかママンそんなにアクティブなの!?びっくりだわ!
普通に今は椅子に座って手編みとかしてるんだと思ってたじゃん、だってこの間なんか私のために作ろうとか意気込んでたよね?え?
ママン姫様なのに、ああ、姫は姫でもじゃじゃ馬な姫なのか?
結構な頻度でアイシャと喧嘩してるな…あれ?
本当のじゃじゃ馬姫?もしかして今までの喧嘩って追いかけっこ的な喧嘩なの?…いやいやまさか…そんな妊婦がアグレッシブに動く?…まさか?
「やっと見つけましたわ姫様!私はあれっほど!言ったではありませんか!ご懐妊されてからは安静第一!お淑やかであれ!淑女であれ!そう何度も何度も!!」
「うるさいわ!アイシャは黙ってちょうだい!」
「まぁ!!私にその様な態度を!!陛下や御兄弟が此方へ来られて数刻の時が経っても尚その様な態度であり続けると言うのであらば!!この私!考えがありますわ!!」
「なっ!…何よ!」
「何処から調達したのかはこの際問いませんが!…そのように肌を出す召し物を今すぐお脱ぎなさい!」
「いやよ!この方が動きやすいのよ!」
「アラティさん、サラティさん。やっておしまい!」
「「はっ」」
「っきゃ!アラティ!?なっ…なんて事するの!早くこの束縛魔法を解きなさいっ!」
「…姫様、申し訳ございません。アイシャ様の言う通りで御座いますので直ちに剥ぎ取らせていただきます」
「くっ!こうなったら奥の手!!っきゃ!」
「駄目ですよぅ、姫様すぐ移転魔法で聖域内の何処かにトンズラしちゃいますからねぇ。たとえ魔力膜で身体を覆っていてもその冷えそうな格好は駄目ですよぅ、護衛を任された殿方達にとって目の毒でございましょーし」
「さっ…さてはあなた達!またワタクシを売ったわね!」
「「……なんのことやら……」」
あはは、また始まった。
なんか知らないけど最近になって新しいお世話係が二人増員したみたいなんだよね。
たしか双子の姉妹とかだったっけ?
声質が似てるけどアラティの方が真面目そうだが、そうでもないサラティよりも不真面目な時がある。
サラティの方はなんかテキトーな感じ、でもちゃんとした芯を持って居て事故の判断は早い。
ママンのお世話係と言うか捕縛要員みたいな感じでいるね。
ママンと年が近いのか良く新しいファッション誌のことや最近できた便利な魔道具の話とかしてるし。
なんとこの世界、魔法石を使った電子レンジや洗濯機、二人乗りの自動車なんてものがあるらしい!流石は文明の利器だね!きっと私みたいに転生してくる人間がいるってことだよね。切実に会ってみたい。
きっとママンが着てる服はサラティが通販で買ったやつだと思われ。でも妊婦なんだから体を冷やしちゃ駄目だろうに、ママンは相当ハッチャケ派らしい。
あと、分かる通りこの世界はファンタジーな世界らしくて、魔法があるんだって!なんだかワクワクすると思うじゃん?
最初に魔法とかがあるって気付いた時はみんなの声が聞こえる様になってからの事で、驚くことがいっぱいあった。その当時は聞き耳立てまくって生活してたし。
あ!あと、それ以来謎の声である業務連絡の安田さんは一度も現れてくれない。名前が無いと不便だから安田さんになった。
そう言えば安田さんと童貞伊藤くんは無事結婚できたんだろうか。あの二人は結構焦れったかったなぁなんて思う。
そんなことはともかく、あとはママンが私に読み聞かせしてくれるシリーズ物の本の事、そのおかげで色々世界を知ることができたというのも大きい。
その中で一番衝撃を受けたのがこの話。
内容が、500年前に異世界から来た勇者ヒデミツが魔王を倒すためにドラゴンを仲間にする!ってお話なんだけど、そのドラゴンが曲者で勇者の仲間である巫女姫を気に入って攫っちゃうんだよ。
そんで勇者ヒデミツの仲間の魔法使いのエルフの王子が魔法と力技で大活躍するんだけど。
……途中で寝たり聞いてなかったりで意外と内容が飛び飛びだったりする。
ある程度読み終わったら、ママンが必ず感想(独り言)を言うんだよ。
あっ、衝撃を受けたのはヒデミツが日本人だったって事じゃなくて、このママンの独り言ね。
「さすがエンブェルお兄様ですわ!エルフの中で一番の魔法使いで一番の猛者ですもの!魔法もろくに使えないあのへなちょこ勇者を差し置いてミカヅキ様をお助けするんですから!素敵ですわ!!
…あの時ワタクシもリーゼお姉様と共にお兄様を追い掛けていればこの本のシリーズの中に登場できたというのに…嗚呼、惜しい事をしましたわ…
あなたのお母様は魔王を倒す勇者の仲間だったのよ…とマユに自慢できるというのに……でも、そうよね、無理だわ……
神の子を宿している身として…ここから出ることなんて…私の存在も秘密のようなものですし、あの時の二の舞になってしまってはいけないのよ…それに私は身籠り…安静第一ですわ!
…さぁ!ワタクシはマユと共に今日を元気に生きるのよ!!!!」
うん?ママンなんかすごい事たくさん言ってない?
え、この物語ってガチなの?今までホゲェーって感じ聞いてたよ。
でもでも、えーうっそだぁー。魔法?…え?…魔法?!じゃあ、そうなったらエルフって事なの?エルフなの?私の種族的に人間じゃなくてエルフなの?…ってか宿す身?え、私その時いたの?500年も前だよ?!お腹の中に長く居過ぎじゃね?とかとか。
なんて事があったんですよ、その事実を知った時はなかなか寝付かれなかったね。
お腹の中でそんなに長生きならやっぱり私エルフなんですねーって事で、…やったね?エルフだよ美男美女の長耳だよ!
…いゃ、見たことないから本当に美男美女か長耳してるかはわかんないけどね。
因みに東の果てに勇者ヒデミツが作ったニッポン平和国って言う悪いことしないなら色んな種族大歓迎!超平和な先進技術国家があるんだって。
北に酪農盛んなキタエゾ都と南は観光盛んなリュウキュウ都、その真ん中に技術盛んで大きなエド大都市の三つの都市があって、サクラという可愛らしいピンク色の花を咲かせるエントの木がわらわら居るとか。…そんな蠢くサクラは兎も角、まんま日本みたいなネーミングセンスで、多分転生して着た日本人や外国人にわかりやすくココダヨーってしてるんだと思う。きっとその魔道具達の発信元はそこだよね!
という事はだよ?…もう日本に帰れないって事だよね?
そう思うと、私はあっちに沢山のものを置いて来たみたい。
ムシヤキもそうだし、幼馴染もそうだ…
育ててくれた父さんと母さん…幼い頃から私に夜神家の墓守りを頼む精神はアレだったけど今思えば期待されてる証だったのだろうし…。
良く公園でボッチしてるとすぐ怒って帰れクソ餓鬼と心配してくれたヤンキーな近所のお姉さん…そう言えば実家に帰った時はドヤ顔で結婚したって言ってたな。
それに迷惑かけまくった中学の担任藤谷先生…社会人になっても未だにメールで相談とかしてたし…いつまでもこんな教え子でごめんね。
仲良くなったコンビニのバイト君…懐かしいな、あの子のお陰でコーヒー牛乳を転々と場所変えして買わなくて済む様になった。ありがとう、多く発注し在庫を取り揃えてくれて…そして、ああ、同僚達よ…あれ?私って結構アイツらに弄られてたな。やめようアイツらの事を思い出すのは、…悲しくなる。
ああ、早くニッポンへ行ってみたい…!
【産まれたら行ってみたい国リスト】にニッポンが上位ランクインしたのは言うまでもないけど。
このエルフの国の、…えっと確か《グレネンデ大森林》だっけ?
大森林祭ていう自然に感謝しましょうね?って日は、そのニッポン国からオンセンマンジュウって言う高級菓子が大量に届くとか聞いた!なにそれコーヒー牛乳と共に早く食べたいよ。じゅるり。
そんな事を思い出していると本当にじゅるりと涎が出る気持ちになったのは言うまでもなし。
ママンがずっとコーヒー牛乳開発(?)に取り組んでたおかげで私の精神がとんと落ち着いたのは嬉しい事の一つ。
まだ産まれてないので味までは分からないが、ママンが納得しているため、コーヒー牛乳に近いものが出来上がっているに違いない。
そうなれば早く産まれるだけなんだけど、それがいつ産まれるのかが全然わかんない。
早く産まれたいなぁなんて思うこの頃でもある。
そんなことを思っていると、突然のアイシャの大声でビクってなった。
「嗚呼!!この数百年、姫様の教育係としてこの地で頑張ってまいりましたが!私はとても恥ずかしい思いですのよ!!貴女様を立派な淑女にするとあの時、リーネル様に誓いましたのに!これでは胸を張って顔向けできませんわ!!」
「…母上様は遠の昔に亡くなっております」
「ええ!分かっておりますとも!だからこそ!
貴女様には…祭事の年には巫女姫として立ち回って欲しいのです。貴女様は神宿り姫なのですから」
「確かにワタクシは神宿り姫ではあるわ!けれど、クレアと言う立派な名があるのよ!
…ワタクシの名を呼べなくなくなった父上様や兄様方、姉様方に今更!…どの様にすれば良いのか分からないわ…」
「姫様…」
ママン、実は姫様でもあるけど巫女でもあるらしい。
巫女って神様に使えるんだっけ?
私の中のイメージだと竹箒持ってささっと掃除してるか、おみくじ作って販売してせわしなく動いてるくらいしか知らない。
というか、幼馴染と一緒にアルバイトしてたの思い出した。
だけど、ママンはそう言うお仕事?的なのしてる様にも思えないし、まぁ、私いるから出来ないのかもしれないけど、やっぱ姫様って言うのも相まって象徴的(?)存在になってるんだろうとは思う。
あと、ママンの家族の話をすると少しややこしくて、あんま好きになれないんだよね。
でもみんな良い人なんだってのは、色んな話聞いてるとわかる。
ただママンの事って言うよりは、私がお腹にいる事で余所余所しいというか…まぁ私の所為で、この様に家族間でちょっとした亀裂があるのでは?って私は思ってる。
多分、十中八九そうだと思う。
「…そうよね、…マユに罪はないわね」
えっ…ごっごめんよママン…ほぼ私の所為であるには変わらないよ…
ママンは私を身ごもっちゃったから、聖域の内にしか居れないって聞いてる。でもなんでママンの名前呼んじゃダメなんだ?
あれか?神託の決まり事?ってやつ?もしかしてそれ法律みたいなやつなのかな?
そうなったら私産まれたら息苦しくない?主に私の自由度が。
「ワタクシが全て悪かったのよ…好奇心で聖域から出てしまった事で母上様を失った…レイーナ姉様に消えることのない傷を…ザンタス兄様も…グレネンデの兵達も…あの子でさえ……全てワタクシの軽はずみな行動のせいで!」
「…いいえ、いいえ!!違います姫様!あれは闇人の策略であって貴女様の所為では無いのです!」
「けれど…要因を作ってしまった、…私はマユを守るので必死だったわ…ワタクシの力さえ、あの闇人の前では役に立たなかった…」
………………なんか重い、すごく重い。
これは私が長年色んな人達の話をこっそり聞いて情報収集してる時に、もしかしたらこう言うこと?と思い繋げ合わせたママンの過去のことだ。
ママンは持ち前の好奇心で聖域から出て闇人って言う、悪い奴ら?に攫われた事があるらしい。
そのあとに、ママンを助けに来た双子の兄と姉であるザンタス様とイレーナ様が闇人と戦って、その際イレーナ様を庇ったザンタス様が亡くなり、イレーナ様にも深く醜い傷を顔に負ったらしい。
今は仮面を被って過ごしているそうだ。
ママンが姫ってことは、その双子も姫と王子だったって事。
その後、ママンを危機的状況から助けたのはなんと王妃である。リーネル様、要は私の祖母。
闇人の強力な魔法攻撃を受けてリーネル様は亡くなり、たくさんの兵達も亡くなった。そして、グレネンデ側の生き残りはママンとイレーナ様と数人だけらしい。ママンには傷一つなかったらしく、多分何かしらの神的な力がママンを助けたんじゃないのかって話になってる。
闇人も何人か生き残ってたらしいけど、その後にパッタリと姿を消したんだとか。
闇人の中にはリーダー格の年齢性別名前も不詳、その一撃は天災級とか言われて者もいるらしい。きっとリーネル様はその者の攻撃を受けたに違いないと言われている。
その戦地には未だに草が生えず、魔力の残りカスが渦巻いていると聞いた。
古代エルフ語で【エレ・ヌ・ナスナン】、神の怒りを買った土地…という名前が付けられてるらしい。
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その事があってから100年間は一族全員で喪に服して黒い服を着て生活したとか聞いたんだけど、そんなことがあったらママンと家族との溝が深まったんじゃ?って思う。
因みに、ママンはこの話を私に一切した事がない。
きっと、ママンにとってこの話は禁止事項なのだろうと思う。