第1話 私は常闇の支配者(笑)
…ふぁ〜…良く寝た。
なんか変な夢を見た気がするよ、なんか可愛い女の子が出てきて、んで真っ白な家とかアーチ?…あれ?何だっけ?…なんか将来の夢とか語っちゃったりして…ホームパーティーぽい事したりしたんだっけ?
なんか重大なことを知った様な気もするけど…分かんないや、本当変な夢見たわ…
…はぁ…にしてもヤバイなぁ、今日って仕事じゃん……早く起きなきゃな…
コーヒー牛乳(500ml)飲んでから支度しよ、ムシヤキのご飯入れとかなきゃ…あっ、そういや猫砂の予備買い忘れちゃってたなぁ…仕事帰りにホームセンター寄るか……
早く起きよ…よっこいしょっ……………………あれ?
あの、…
…えっと…………ん?
……え?
……………コレは……どう言う状況なの?
意識が浮上した、だからいつも通りお布団の中から出る為の準備をしてた。
なのに体が動かない、と言うか感覚がない。
しかも……真っ暗だった。
真っ暗な空間。
………なにも見えない。
自分の手足も見えないくらい真っ暗で、何も聞こえない、静かだ。
ポカポカしているのは分かる。だから最初お布団だと思ってたんだよ。
なのに、何だか浮遊してるみたいで、…今自分どうなっているのかが分からない。
けど、なんか安心できる心地良さで、だんだん眠くなってくる。
……………………………。
…………………。
………。
ハッ!
…いやいやいや、さっきまで私寝てたじゃん?!
なぜ寝ようとするの私!起きてなきゃ駄目だよ!!
考えよう!
何かあったはずだ!思い出すんだ!
……駄目だ…思い出せない…
さっきまで夢見てたのは覚えてるけど、…内容忘れた。
変な夢ってことしか覚えてない私の頭バカ!
てか、…ここ何処なんだろう…
…何で…真っ暗?今は何時かなぁ?…
……何日なんだろう…
拉致…とか?
…ああ、ムシヤキに会いたい…
…ヤバイ、眠い…
あー、コーヒー牛乳飲みたい…無性に…
無断欠勤…怒られたくないな…
行方不明…扱いなのかな…
PCのデータ…見られたくないな…絶対…
ムシヤキ…どうなったんだろう…
あの幼馴染は…心配してるな…きっと
ムシヤキ…会いたいな…会いたい
ああ……意識……が……
…遠退く…眠い…
そんなことを何度も何度も繰り返して、
悲しむのも、嘆くのも、怒るのも。祈るのも。全部全部が無意味で、疲れるものなんだって、もう色々と諦めたころに分かったことがひとつだけあった。
私は何かに拘束されてるみたいなのだ!!
最初から体に感覚なんてなかったんだけど、思考するの面倒になったころ。
あれ?なんで思考するんだ?なんで睡眠するんだっけ?って不意に思い始めたのが始まりだった。
眠りの感覚が、浅かったり深かったりで自分の意思でどうこう出来るものではないらしいけど。
…あれ?それって何故?どうして?と思い始めたら、それってやっぱおかしいよねってなった。
だって思考するって、脳があるって事でしょ?
じゃあ、脳があるって事は、体があるって事だよね?
寝て、目を覚まして、毎度のごとく暗闇で感覚も無く音さえも聞こえないけど、寝るって事は休んでるって事だから体が無いと意味がない気がするんだよ。
だから私は今きっと体を拘束され、尚且つ食事なんかなくても生きていける、きちんと思考を保ってる?
という状況な、チョースーパー人間?って思ったりもしたけど。
それでも飽きる程に何度も同じことを自問自答して、昔みたいに走る動作や腕を振る動作、首を回す感覚を思い出しながら動け!と繰り返す。…そう、あの時の様に。
遅刻寸前、コーヒー牛乳(500ml)を片手に通勤ラッシュの混雑を横目で見ながらチャリを漕ぐ私、ゼェハァしながらビルの自動ドアに挟まるというアクシデントに遭いつつも急いで職場のドアを開ける。
…そう、休みだと言うのをすっかり忘れて鍵がかかっているドアを必死にこじ開けようとする私…
『田中くん開けて!千秋ちゃん開けて!これってイジメなの!?泣くよ!夜神さんがはしたなく泣くよ!ほんとごめんて!遅刻したのにはちゃんとした理由がぁ!』と、これでもかとドアを叩きながら慌てふためく私。そして担当の違うお向かいの部署の童貞伊藤くんに『アレ?…今日夜神さんとこの部署休みでしょ?』と含み笑いをされ尚且つ一部始終目撃されたと言うあの時の事を!
…所詮、そんな噂なんて75日を過ぎても続くものなんだぜ…(噂ではなく事実だから)
とまぁ、普段の日常的な動きを意識していると、ある怪奇事件を境に自分の筋肉の動きを感じることができるようになったのだ。
ある怪奇事件とは。その日(?)は普段よりも元気よく、いつも通りに「うぉぉぉおおおおお!!猛烈に!!無限に!!コーヒー牛乳飲みたいよぉーー!!!」と、駄々こね思考に陥っていながらも、「…もう駄目だ、眠ろう…そして忘れよう…」と全てにおいて投げ出す思考が上手く融合している時だった。多分近場?から地面を抉るようなとんでもない大きな音、多分アレは爆発音だと思う。その後に耳をつんざくような雷鳴の音と共に頭のてっぺんからつま先まで電流が走ったみたいな激痛が私を襲ったのだ。
その後の記憶はほとんどないけど、すっごく、…ものすっっっごく痛かったのは覚えてる。
んで、何だかんだ、次に気付いた時には体の感覚が手に取るように分かったんだよ、感覚が全然わからない鈍チン体が、その怪奇事件を境にグイッ!と、本当にグイッ!と動かせる様になったんだよね。
その時はなんかマジで感動してヒャッホォーイ!動ける!動けるぞぉ!我は不死身だぁ!!って変なテンションで舞い上がった。
まぁ、まだ全然動けないことには変わりないけど。
その後は謎のテンションで一人演劇ゴッコしまくった。
もう、マイブームは魔王様ゴッコが楽しすぎたとでも言っておこう。
私はそれを【怪奇ビリビリヒャッホォーイぼっち劇事件】と呼んでいる。
それからの私は、ちょっとしか動かない体を只々一生懸命に動かした。
バタバタと必死に手首足首を動かし、筋肉を使い、何かに掴まろう、触ろう!と言う狂気染みた意気込みで探し回ったら、最近知ったのだけど意外と柔らかい物…に実は身体が包まれていることに気づいた。
なんか全方位に柔らかい壁がある、尚且つそれは私を柔らかく包み込んでいると分かったのは、悲しいくらい本当に最近だった。
それを理解して、眠って目覚めた頃に得体の知れない音が薄っすら遠く?から聞こえてくる様になった。
鼓膜に何重にも膜が張って有るのか、とっても聞き辛く、それが何の音で、どんなものなのかさえも分からない。
でも理解してることならある。
ここは絶対安全で、私が愛されてるって事。
それだけは何故かすっごく理解してる。
それは何故かって?
ふふっ、それは私が……赤ちゃんだからさ!!
ごめん、まだ赤ちゃんじゃないね。胎児だね。
あのね、うっすら遠くって言ったけど、ひとつだけ響く音があるんだよね。
なんだか女性的で、思い遣りのある優しい声色でね?
私の名前をがっつり呼んでるんだよね。
マユ?マユー、まぁゆぅー?
ってな感じで。
なんか恥ずかしいのよ、何度も呼ばれると。
しかも温かいのですよ。
声質からして絶対的に私のオカンじゃないのよね。
でも、何かしら反応しないとなぁって思うと体がね?
勝手に動いてしまうのですよコレが…
私の名前を呼んでいる母親(確信)に。
グイッて押したり蹴ったりしちゃうわけなんだよね。
これって生理現象なのかなぁ。その辺分かんないけど。
でも、これすると母親(美人だといいな)が喜ぶんだよね。
なんかこう、奇声あげる。
こう、『ひやぁっ!』とか、『きゅんっ!』とか。
あざといわ。新しいオカンあざとい。
よし、ママンと呼ぼう。
そんなこんなで私は…
『絶賛!お腹の中にてすくすくわんぱく胎児なのだ!!』
て言う訳わからんことになってるんだよね?
だって、私、いつ死んだ?
全然無いんだけど…記憶がな!
だって、アレよ。
私は普通に朝起きてコーヒー牛乳(コップ一杯)飲んで、ムシヤキいじって、仕事行って、休み時間にコーヒー牛乳(200ml、あーもの足りない)を飲んで、帰りに同僚と居酒屋行って、同僚と別れて、コンビニ寄ってコーヒー牛乳(500ml×5パックと1000ml×1パック)買って、ムシヤキいじって、シャワー浴びて、幼馴染とちょっとの間ゲームして愚痴言って笑って、コーヒー牛乳飲んで、ムシヤキいじって、寝るのよ。
全然普通じゃんよ!
いつも通りじゃんよ!
何処に死因があるんだ!
神様最低!神様マジう○こ!
そうよ!ちょっと人よりコーヒー牛乳飲むからってフザケんじゃないよ!!
それが死因の要因なら世の中のコギュラー達が黙っちゃいねぇぜ!!
戦争が起きんぜ!!痛い目みるぜぇ!!
だってコーヒー牛乳だよ?!コーヒー君と牛乳ちゃんが出会い頭にごっちんして、わっ!きゃっ!てなってすみません!お怪我は!いえっ!大丈夫です!ってなって目が合わさった時にトゥンクッ…!からの宇宙全体を巻き込んだビックバンだぜ!!
衝撃の出会いから始まるラブストーリードリンク!
…いや、そんな恋愛なんてチャチなもんじゃねぇ…
それは必然!神秘の巡り合わせ!神が意図せず作り出してしまった奇跡の聖水。
いや、聖水さえも劣る至高の湧き水!最早神の領域!神聖なる飲み物!!飲めば神殺しと言う罪さえも許されると言われる伝説の正義水!!
……………………ちょっと落ち着こう。
まぁ、要するにコーヒー牛乳は正義なのでこの死因の件には関係ないと言うこと。
じゃあ、死因は…ベッドの中で……変死………。
よし、この事は検索拒否しよう。そうしよう。
ムシヤキならあの動物好きな暇人幼馴染が、責任持って世話してくれるだろう!
じゃあ、何で知らないママンのお腹の中に居るの?って話よね。
これって、若い頃は良くそう言う小説とか漫画とかアニメとか観てたけど、でも流石にね。
無いよ、普通に無いよね。
だってアレよ?こう言うのってさ…
勇者でしたぁー!
とか…
悪役令嬢だったぁーー!!
とか…
魔王とかなんでだぁーーー!!!
とかになるんでしょう?
んで…
前世の記憶を思い出した!
とか…
移転先が異世界だった!
とか…
知らない子に憑依してる!
とか…
性別が逆転してた!
とか…
最早人間でもなかった!
とかテンプレなんでしょ?
….いや、クリーチャーだったらマジで泣きたい。
強いて言うなら可愛い系クリーチャーなら…ロボでも可愛い系なら可。
どっちかと言うと亜人とか……獣人だったら良い。
モフモフ!ケモノミミ!フワフワノシッポ!オゥフ…ココハテンゴク!ナンテスバラシインダ!
じゃあ、一先ず。
私に降りかかってる現象は【転生】てことよね?そう言うことだよね?
転生で、前世?の記憶を有してて、この魂に憑依…なのかな?性別や種族とかは分からないや…
そうだね…種族は猫になりたいな…
場所は知らない世界か、そうじゃなかったら日本圏じゃ無い他国って事かな。
うまくいけば…日本には帰れる。
にしても、ママンが何語使ってるのか分からないよ、私頭悪いからなぁ…
あっ、ママンは猫じゃ無いね確実に。
はぁ、生まれた後が問題だ…言葉、覚えれるか不安だよ…。
『言語スキルを有効にしますか?』
……………………え?
なんか一瞬知らない美人さんだろう声が聞こえたよ。
幻聴かな、…幻聴だね。
いや焦った…だって今までこの真っ黒空間、私と言う名の瘴気が渦巻く混沌とした暗黒の世界、この常闇の支配者(笑)である私以外の存在はいない。そしてママン以外の声なんかはっきり聞いたことないよ。しかも業務連絡しに来た安田さんじゃないんだからさ、ほんとびっくりしちゃった!あと日本語だね!日本人かな?
『言語スキルを有効にしますか?』
えっ!はい?!えっ!だから誰?!
『言語スキルを有効にします』
えっ!!うん?!アレ?ちょっ!
「から!ダメです!そんなものを飲んではいけません!!」
「アイシャ聞いて!マユがそれを欲してるのよ!母親として子が欲しているものを食べさせるのは当たり前でしょ?」
「だからといって甘いものと苦いものを混ぜ合わせ、もし毒になってしまったらどうするのです!!!!そのようなものばかり飲んではマユ様に何かあったらどうするのですか!!」
「もうっ!!アイシャのわからずや!!マユはワタクシの子よ!!ワタクシが一番この子を理解してるのよ!!貴方には関係ないわ!!」
「なっ!姫様!!何処へ行くのです!!お待ちなさぁーーーい!!!」
なっ!!!なんか聞こえるぅーーー!!!!
なんか喧嘩してるぅーーー!!!!
しかも私の話題でだぁーーーー!!!!!
しかも姫様が私のママンだったぁーーー!!!!!
そしてなんか勝手に変なの作って飲んで怒られてるぅーーー!!!!
……はぁ…はぁ…はぁ…。
…うっ、なんか…急に疲れた…頭に響くな…痛い。
寝よう…明日に…明日にしよぉ…
明日になれば…元気にれるはずだから……
…日本には…帰れないのかな…
そして、絶賛胎児中な私の思考は一旦停止した。