025/
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教室に入ると、私はひかりの姿を確認するが、机にはいなかった。
オンラインチャットで呼びかけてみてもオフラインだったので、電話もかけるのを止め、自分の席に着く。
外から教室の様子を見ていた中さんが、私に軽く礼をして隣の教室へと向かう。
『Me:まだ着ていないようなので、到着次第連絡します』
交換した連絡先にオンラインチャットでメッセージを送ると、しばらくして返事が来る。
『Shoko:わかりました。お願いします』
と表示され、すぐに追加のメッセージが入る。
『Shoko:信号入力装置も合わない体質なので返答が不安定かもしれませんが、よろしくです。緊張するる!』
『Shoko:緊張する!ですす、入力ミスですた』
返答する間もなく続々とメッセージが入る。
『Shoko:今のも入力ミスです。ごめんなさいいいいい』
どうやら入力ミスが多いようだ。
『Me:承知しました』
やがてホームルームが始まり、一時限目の始業チャイムが鳴ってもひかりは姿を現さなかった。
ひかりがいなくても、授業はいつもどおり進む。まるで最初からいなかったように。私がいなくても恐らく同じだろう。
授業は進み、二時限目、三時限目と進んで昼食時になってしまった。
今日、ひかりは休みなのかもしれない。
『Me:化生です、井出さんは今日はお休みのようで連絡もとれないので紹介するのは週明けになるかと思われます』
数秒して、返事がくる。
『Shoko:ざんえんです、月曜日よろしくお願いします』
返事を確認して私は席を立つ。ひかりのいない教室はなんだか息苦しいような気がして、逃げるように教室を後にした。
昼食時のざわめきは何か別の世界のようで、居場所の無さを感じる。
私は人気の無い場所を求めて中庭へと向かう。廊下を曲がって階段を降り始めたところで、後から声をかけられた。
「おーい、化生、ちょっと待てよ」
知らない声だった。いや、知っている声だったが、聞き慣れない言葉だった。私の名前。
「何か御用ですか」
振り向いてみると、見知った顔の男子生徒が廊下から階段前までやってくる。
「そうツンケンするなって、井出についてだよ」
「何か、知ってるんですか?」
私の問いにその男子生徒、内部吉丸は笑みを返す。
「逆だよ逆。化生なら休んでる理由しってるんじゃないかってさ」
「別に私は――井出さんについて詳しいわけではないので」
そう言って再び階段を降りる。すると、後から内部が付いてくる。
「なんだよ、一緒にゲームする仲なのに『詳しくない』ってのはおかしいんじゃねーの?」
その言葉に再び足を止める。急停止に反応できなかった内部は私を追い越して踊り場まで降りた。今度は私を見上げる形でにやりと笑う。
「『豆の旦那』とずいぶん仲よさそうだったからな、『月の字』は特に」
『豆の旦那』なんて呼び方をしている人物を私は一人しか知らない。というより、私のことまで含めて知っている相手はそもそもそれほど多くない。
「あなたが、『蔵屋』さん?」
「ご明察」
内部が指を立ててそう言うと、オンラインチャットの連絡先登録ウィンドウが表示される。
続きはチャットルームで、ということだろう。
私は登録を承諾してオンラインチャットを起動した。