8.別行動
「でも、どうして判ったんだよ?」
『気配がしたんだ。テンパレンスの』
「気配?」
『微かにな。極め付けが……あの娘の顔。テンパレンスにガン似だ』
「? 適格者とアルカナの顔は必ずしも似る事はない」
『そうだな。でもそっくりだった。それで、微かな気配にも気づけた』
アルカナにそっくりな女の子……か。
……確かに、整った顔してたな。
知っている限り(っつっても、俺が知ってるのは二人だけだけど)、アルカナってのは美形種族(?)だ。
「……。なんで俺にはわからなかったんだ?」
人ごみの中、大通りを門へと走りながら、隣を駆けるエンペラーを見る。
「昨日だって会ってたのに、おまえですらわからなかった」
『連れてないんだ』
「え?」
『なんかしらんが別行動している。しかし、幾ら田舎街でも適格者が一人で行動してるのは不味い。聖職者に見つかれば即アウトだぞ』
「……彼女。今日もネコを探しに行くとか言ってたけど……」
『街の外は普通に危険だろ。モンスターに出くわしたらどうする気だろうな彼女』
「…………」
今日は王の誕生祭。
城が解放されているという。
早朝であるにもかかわらず、道は……国中ごった返していた。
これでは小さな女の子一人捜し出すのに相当な時間がかかるだろう。
キョロキョロと注意深く付近を見回しながら走る。
「あんだけ深々とフード被って顔隠してたのはそういう理由だったのか……」
つまりは、俺と同じ変装って訳だ。
俺は今やディンに保護されてる身だからして、変装する必要は無くなったのだが、彼女は違う。今も……不味い事にディンに追われている身だ。ディンの目的が判らない以上、接触は阻止したい。
危ない目に遭うのは、俺一人で十分だ。
「忠告しなきゃ」
『確かに。どういう理由かは知らんが、テンパレンスと別行動してんのは危なっかしいな……。テンパレンスの能力はあまり戦闘向きじゃないが……逃走なら可能だ。だが、ディンと対峙した時にアレすら居ないようじゃ抵抗する術は皆無になる』
「…………」
ディン……か。
朝八時にって約束は破っちまう事になる、けど……しょうがないか。
……なんかすげー怒りそうだけども。
…………。
「……おい。エンペラー」
『あぁ?』
「俺らも別行動しよう」
『はぁ!?』
「おまえ、ディンのところに行け。俺は彼女を追う」
『つうか、人の話聞いてたのか!? この俺様が、適格者が単独行動する危さを今切々と語ってやっただろうが!? それを……っ』
「……俺はディンと約束している」
『…………は?』
「行かなきゃやばい。……いや、確実に死ぬ。待ち合わせ場所に来なきゃ、『自分に同行しない』と見なされ、追われて、運悪く彼女と一緒に居る事を見つかればそれこそ、ジ・エンドじゃないか」
『…………まぁ。考えられない話じゃないわな……』
ポリポリと後頭部を掻くエンペラー。
「ディン相手に、彼女とテンパレンス護りながら戦えるのか? おまえ」
『…………』
「おまけに、もう一つ運の悪さが重なれば、そこにアスキーが来る」
『…………うげ』
「在り得ない話じゃないだろ。奴はきっと今もどこかで俺等の動向を見てるはずだ。同じ街に居るんだからな」
と。そこで、エンペラーの足がぴたりと止まった。
結果、奴より前に出た俺が奴を振り返る羽目になる。
行き交う人々が、エンペラーの透明の体をすり抜けていく。その中で。
金色の甲冑の百戦錬磨を自負する戦士の顔は、これ以上ないって位に不安そうだった。
『……おまえが一人の時に、デスに襲われたら?』
「そりゃ、そこらのモンスターに襲われた、じゃないからな。即座におまえを呼ぶさ」
『タイムラグがあるぞ。門と聖堂は正反対の位置だし。全力で突っ走っても数分はかかる』
「なんとか凌ぐさ。デスが相手なら能力も、ある程度出方も把握してるし。きっとおまえが居なきゃ、それなりに油断もしてくれる。それに……」
『奴に殺されるのなら本望だ。とでも?』
「…………」
理解してんなら言うなと。目で告げる。
周りのざわめきがいやに耳障りに響く。
少しの間の後。
エンペラーは両腕を組むと、観念したか、巨大な溜息を吐いた。
『…………わぁった。俺様は今からディンの元に行く。で? おまえが来ない理由はなんと説明すればいい』
「そうだな……昨日の傷が痛んで、宿で寝てるとでも伝えといてくれ」
『成程了解。……エビルおまえ。いつも顔には出さんし実に解りにくいが、そう即答する所を見ると、相当辛そうだな』
「ほっとけ。じゃあ頼んだぞ。少しでも街の近くで追いつきたい」
『ああ』
一言返事の後、エンペラーの姿はすぐに人海に消えた。
俺も。エンペラーと別れて、門へ。
こうして、別行動をとるのは初めてだった。
物心ついた時から、いつもエンペラーが隣に居た。
一人になるのは本当に初めてだ。
実に、心許無い。
「……情けね」
奴がいなければ、俺はもっと早くに、命を落としていたのだろう。
いや、きっと。もっとずっと早くに、命を捨てていたかもしれない。




