24.塔へ
城内にはどこにも居ない。
リキュールとテンパレンスは、宿屋の前で合流した俺達に向かって結論を告げた。
俺達だって街中をくまなく探したが目撃情報すらなかった。
日は随分前に西の街並みへ沈み、辺りはすっかり暗くなってしまった。すぐ近くに建っていた外灯が数回の点滅の後、白光をその身に宿した。
「しっかし、こんだけ探してもいないなんて……一体どこに行ったんだ? 王様……」
額からとめどなく噴き出す汗を腕で拭いながらぼやく。リキュールは口元に軽く握った手を当てて不安げな顔でなにやら考え込んでいた。
『テンパレンス。思念は拾えないのか。おまえの得意分野だろう』
『ええ、やってはいるのですが、クレイドゥル王らしき思考がどこにも……』
「他に、王様が行きそうな場所の心当たりは?」
「と、言っても……わたし、お父様の事は本当に何も……、………!」
悲しげに俯いていたリキュールの瞳が大きく見開かれる。
「どうした?」
顔を覗き込もうと近づいた俺の両腕をリキュールが掴んだ。
「塔!」
「……なんだって?」
「塔だよ! あそこなら、どんな魔力も、気配だって漏れない……っ 相手がどんな占術者だって感知できないって、ずっと前に聞いたことが……っ」
「…………!」
『塔って……あれか? あの北東に見える、森の中にぽつんと突っ立った城並みの高さの……』
『……失念していました。あの建物なら……ありえるかもしれません。しかし、ここからではその真偽は判らない……向かおうにも距離があり過ぎる……』
「……エビル……!」
テンパレンスの言葉を受け、懇願するように俺を見つめるリキュール。
そんなことしなくったって、答えは決まってる。エンペラーと頷きあうと、リキュールの手をとった。
「行くぞリキュール!」
「~はい!」
闇の降りた街を、四人で走り出す。
その日ゆっくりと姿を見せた月は、血のような赤色を身に纏っていた。