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13.誕生祭

 目の前に迫った大きな城は、周りをたくさんの人間に囲まれていた。

 見渡す限りの人、人、人……緑溢れる立派な庭園を埋め尽くしている。

 彼等は皆、何故か一様にバルコニーを見上げていた。

 ちなみにバルコニーには、二人の兵士が立っているだけだ。


「……なんなんだこの人口密度は……っ」

『仕方ないさ。今日は田舎国の一大イベントだぜ? 隣国からもゴージャスな面子が大勢集まって来ているらしい』

「……うざったいなぁ……っ」


 人の波を掻き分け、さらに掻き分け、なんとか前へ足を動かす。

 このまま見物人に紛れて城に侵入して……。牢屋は……多分地下だと思う。向かいながらその辺の兵士を捕まえて、ぶん殴ってでも聞き出す――なんとしてでも。

 面と向かって啖呵きった、それ以後。俺の行動を咎めるエンペラーの抗議は一切止んでいた。

 いつものように俺の後を、付かず離れずの距離を保ち、歩くだけだ。

 ……そう、奴はこんな人ごみの中でもいつもどおり、両手を重ねて後頭部にくっつけて大股で闊歩している。

 半透明の体。こういう時はとことん羨ましい。


「……てか、エンペラー。おまえ先行って偵察してこいよ」


 八つ当たり気味に言い放てば、エンペラーの眉が不機嫌に釣りあがった。


『偵察? ふざけんな』

「なんだよそれ……?」

『城を開放してんだから、ソレ相応の警備体制は敷いてるだろう。言ってしまえば、今日程警備が厳重な日は無いってこった。きっとヨウィスの聖職者だって城の中ウヨウヨと結界はったりしてるんだろうぜ。なんせ、テンパレンスを捕まえてるんだからな』

「あ」


 目からウロコだ。

 っつうか、普通に考えればそれ位訳無く気づく。

 …………そんなことを、エンペラーに言われて初めて気づくなんて。

 ……焦ってんなよ。俺。


「……そっか。エンペラーが単身乗り込んでも――」

『そういう事だ。肉体のない俺様が人間に攻撃したところで、せいぜい半分以下の効果しかない。捕まりはしなくとも逆に、後から乗り込んでくると思われる適格者に対する警戒がさらに増す事になるだろうよ』


 相手がアルカナ同士の戦いの場合。肉体があろうがなかろうが、攻撃は総て有効だ。

 自分も相手も同じ状態で現存しているからだ。

 相手が適格者である場合も同じ。適格者はアルカナと繋がっている為である。

 しかし、相手が適格者でもない普通の人間の場合。アルカナは、その武器すらも自身の力(魔力)を練り上げて創っている為、ダメージを与えようとしても威力は良くて半減、悪くて全く効果がない。

 なんせ『半透明』なのだ。幽霊みたいなものである。

 それに、肉体を持たないアルカナの練り上げた武器は、やっぱり半透明で実体が無い。

 エンペラーがここであの大剣を揮えば、その衝撃波ならぶつける事が出来るだろう。辺り一面の人間は吹き飛ばされてしまう。だが、肉体を斬る事は不可能だ。


「……ンじゃおまえ。昨日みたいに呼ぶまで来るな」

『まぁた待ちぼうけ食らわせられるってか? そんなんじゃまたおまえ体壊すはめになるんじゃねぇの? そんな事ばっか繰り返してたら、幾ら回復力が高くったって意味がない……』

「しゃーねぇだろ……ブツブツ言ってんなよ。他にどんな方法があるんだよ?」

『そーだなぁ……』


 と、珍しく、会話を途切れさせるエンペラー。

 不思議に思い、足を止めて振り返る。

 俺の投げた訝しげな視線に気づいているのかいないのか。エンペラーは腕組みしたまま、呆れたような視線を上に投げていた。

 見上げる方向は、周囲の人間全員が見ている方向と一致している。

 突如、周囲で爆発音にも似た歓声が沸き起こった。


『――あそこに居る小娘にでも聞いてみたらどうだ?』

「…………は?」


 視線を追うと、さっき見上げたバルコニーだった。

 兵士が二人しか居なかったそこに、もう二人、人が増えている。

 一人は、頭に王冠をのっけて、ゆったりした服を身に纏った温和な雰囲気の中年の男。……恐らく、あれがクレイドゥル王だろう。

 そして、その後ろから静々と歩いてきたのは――


「……………………へ……?」


 ゆったりした淡いピンク色のドレス。

 結い上げた黒髪。

 透き通った白い肌に、まだ幼い顔立ち。

 印象は、全然違う。

 どちらかといえば、あの手配書のソレに等しかった。

 俺が呆けている間に、彼女が、僅かに伏せていた顔をゆっくりと上げる。


「…………うそだろ?」


 あれほど煩わしく感じていた、総ての外音が一瞬消えた。

 シャラン……と耳飾が揺れる。

 首に付けている赤い宝石が光を受けて輝く。

 伏し目がちだった黒瞳が、真っ直ぐに正面を射抜いた。

 神秘的な雰囲気を纏ったその少女は――リキュだった。

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