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時を止める能力に目覚めたとか言い出した彼女をどうすればいいですか  作者: 月立淳水
本編 時を止める能力に目覚めたとか言い出した彼女をどうすればいいですか

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第一章 幼馴染がおかしなことを言い出しました(4)


 彼の名は、安森孝之やすもりたかゆきという。

 きわめて善良で純真で無垢な八剣高校期待の新入生である。


 そんな彼が、早くもメルの毒牙にかかろうとは――。


 うん、美空も大概おかしな子だと分かり始めたので、ここは、メル&美空の毒牙、ということにしておこう。

 ダブルポイズンだ。

 スリップダメージ二倍だ。

 可哀そうに。


 これが原因で不登校になったりしたらもしかして俺にもちょっとは責任があるのかな。


 無いよ。あるわけが無い。

 誰か、助けて。俺に責任が無いって言ってくれるだけでいいから。


「――で、ガイシャは?」


 と、鉛筆と縦開きのメモ帳を構えて聞き込みスタイルを決め込んでいるのは、美空だ。

 どこから出したのか知らんけどトレンチコート羽織ってるし。

 サングラスをかけて口にはパイプを咥えている。

 その辺の小道具どこから出した。

 探偵で行くのか刑事で行くのかはっきりしろ。

 ていうか違いが分かってない説も出てきたぞ。

 たぶんほっとくと、虫眼鏡と指紋をポンポンするやつも出てくる。絶対鑑識も区別ついてない。


「ガイ……?」


 安森少年は言葉を失っているが、


「ああ、聞き流せ。あれだ、里親募集中の子犬ちゃんは?」


 俺がすかさず補足すると、安森もちょっとほっとした表情に変わる。


「ああ、子犬、はい、従妹の家で生まれて、外見の良い子はすぐに貰い手が見つかったんですが、ちょっと変な子はどうしても貰い手が見つからなくて」


 手で、ちょうど子犬くらいの大きさを示しながら、安森が言うと、


「ふーん、わんこの世界もぶちゃいくは損するんだねえ、ね、安和小路さん?」


「私に何の関係が?」


「ごめーん、独り言ー」


 うわー、うざい。


「写真とかある?」


 俺が二人を無視して安森に訊くと、彼はちょっと古いスマホを取り出して子犬の写真を表示する。

 どこかで見たような品種っぽい体つきなんだが、なんか、妙な違和感がある。


「かーわいいー、誰かさんと違って超かわいいー!」


 覗きこんだ美空が声を上げる。

 そう、確かにかわいいんだが、何だこの違和感。


「……ゴールデンレトリーバーなんです」


 ああ、そうだよな。確かに、この顔つき体つきは、そうだ。

 ……で、ブチ模様?


「珍しい模様だねー」


 いつの間にか覗きこんでいたメルものんきに言うが、ゴールデンレトリーバーにブチ模様は無い。はず。


「ちゃんとした血統の子とかじゃなくて何代も前からミックスなんですけど、基本はゴールデンレトリーバーな体型なんです。でも、やっぱり変なミックスのせいでダブルコートなのにスポットが背中に出ちゃって――」


 あーカタカナ交じりで話し始めちゃった。安森クンもちょっとのめりこむとアレなタイプなのかなあ?


 それにしてもブチ模様が出ているゴールデンレトリーバー体型の犬がこんなに違和感をもよおすとは思わなかったのは事実だ。これでは確かに売れ残るのもしょうがない。


「――○○が××で△△で――なんですが、でも実際には◇◇が――」


 そんなちょっと瞼が落ちてきそうな説明を聞きながら写真をじっと見ていると――角度によっては『QRコードを背負った犬』に見えてきた。


「――なんです。逆に珍しいと思いませんか?」


「……安森君。これ、IT企業に売り込んで見ない?」


「え、どういうことです?」


 やべ、変なこと口走った。


「ああ、すまんすまん、何でもない」


「いえ、ちょっとよくわからなかったので、先輩すみません。それで、貰い手に、心当たりとか無いでしょうか」


「まーかせて! このメル先輩が超広い交友関係を総動員しちゃうよ!」


「いえいえ、この安和小路がプロ顔負けの探偵能力で黒ブチレトリーバーの潜在顧客を開拓して見せますわよ!」


 この雑種の新品種名は『黒ブチレトリーバー』に決定したらしい。

 ちなみに潜在顧客を開拓するのは探偵じゃなくてマーケッターだ。


「あんたの嘘能力が仮にほんとでも役に立つなんて思えないけどね! 時間を止めれば子犬の里親探しなんて一発よっ! 時間が止まれば悩みも止まる! 行くぞー! イーチ、ニーイ……」


 ああ、まだ時間を止めるネタ、引っ張ってるんだ。

 時間が止まると子犬の里親が見つかるというアインシュタインも卒倒しそうなトンデモ理論付き。

 そのあとの掛け声はもちろん無視。


「うるさいわね! あなたの小学生の妄想みたいな能力こそ何の役にも立たないわね。穴さえ掘れれば何でも見つかるのよ? 穴の中には、宝の山も諦めた夢も、みんなあるのよ!」


 美空もそれ引っ張るんだ。

 諦めた夢くらいならあるかもしれんけど、さすがに子犬の里親は地面の下に埋まっては無いと思いますが。

 ああめんどくせえ。


「とにかくあんたは邪魔しないで」


「あなたこそ私を頼ってくれた後輩に変なこと吹き込まないでちょうだい」


 そして、メルと美空は同時に安森のスマホに手を伸ばし、一瞬のけん制のあと、無言の奪い合いに発展する。安森はスマホを手放すわけにも行かず左右に行き来するそれを見ながらただオロオロする。

 静かなもみ合いが数秒続き、涙目になりそうな安森少年を前にさすがに傍観もできず、


「うん、分かった、二人ともよく分かった、あのな、写真は、コピーできるんだからな、落ち着いて一人ずつ――」


「うっせー! こいつより先に写真ばゲットして里親探し始めるんじゃぁ!」


 よく分からない、『番長弁』としか言いようの無い口調に変わったメルに対し、


「おんしに写真は渡さぁん! おら一年坊、こっちによこっしぇやぁぁ」


 なぜか美空も番長弁に変わる。


 ほんとは仲良いだろお前ら。


 その後、リアルで涙目になっている安森をダシにして二人を落ち着かせ、まずはそれぞれに子犬写真を平等に与えるところまで話を進展させたのは、我ながら素晴らしい調停能力だと思うのだが、どうだろう。


***


 その日の放課後、昨日のようなメルと美空の衝突は発生しなかった。

 むしろ、二人とも忙しくてそれどころではなかったようだ。


 メルは、同級生どころか中学生時代の友達、加えて、ご近所さんにまで話をしに行っている。


 両方無視しようと思っていた俺は、向かう(帰る)方向が同じという理由でメルに引っ張りまわされたが、ひどいものだった。


 何しろ、いきなり相手の家に押しかけて、呼び鈴を鳴らすわけだから。

 そして、『かわいい子犬を飼ってみませんか?』。


 何だこの押し売りは。むしろ訪問販売詐欺か宗教勧誘を疑うレベルだ。


 いやー奥さん、間に合ってるってこたーないでしょ?

 ほら、最近物騒じゃないですかぁー。

 番犬の一匹もいないんじゃあ、不安ですよー?

 ね、奥さん、もし今玄関開けていたのがこのメルちゃんじゃなくて、強盗だったら、どうしますぅー?

 そこに来て、この黒ブチレトリーバーちゃん!

 一家に一匹黒ブチレトリーバーちゃん!

 なんと、毎日三食のごはんをあげるだけで! (おぉー!)

 ちっちゃな害虫から中くらいの強盗、果ては大きなダンプカーからでも、おうちを守ります! (わぁー!)(お高いんでしょー?)

 なんとこの黒ブチレトリーバーちゃんが、番組終了から三十分以内なら、タダ! (えぇー!)

 さあ奥さん、今すぐお電話を!


 うるせえよ、という激しいチョップでメルの押し売り脅迫ショッピングは終わるわけだが、こんなことを何度も繰り返すのだから、俺の脳細胞はもう限界だ。


 そんなこんなで俺が自宅で一息つけたのは暗くなってからだったが、そこで待っていたのは、今度は美空だった。

 といって彼女は俺の家なんぞ知らない。

 だが彼女にとって俺を巻き込むのはたやすいことだった。携帯電話のメールという文明の利器があるのだから。


 送りつけられてきたメールには、前フリも何もなしに大きな画像が貼り付けられていて、こんなメッセージがついている。


『四切君こんにちは。里親探しのチラシ作りました。乾燥ください』


 よし、乾かしておくぞ!

 ……というつまらない誤変換に対するツッコミはともかく、画像を見てみると、これがまためちゃくちゃ凝っている。明らかに、PCの専用ソフトを使っていなければ作れないレベルだし、あの子犬の画像そのままではなく、ちょっとデフォルメというか、アニメっぽい画調に変換されているし、細部にはしっかりレタッチをしてある。マスコット化された子犬がチラシのあちこちで『よろしくわん』とかふきだしでしゃべっている。


 マジか。


 こういうときに使うのにぴったりの言葉を知っている。『才能の無駄遣い』。


 あれ以来、俺も、美空のことは少し興味を持って調べてみたつもりだ。


 一年のときに同じクラスだったやつはすぐに見つかった。隣の席にいた。

 いわく、まじめで頑張り屋で多才。学年順位の二十位以内で名前を見たことがある。運動もほどほどで、体育祭のクラス対抗女子リレー補欠選手だった。彼女が走らなかったことを悔やむ男子には枚挙に暇がなかったという(不健全な意味で)。


 要するに、何をやってもほどほどできちゃうタイプだ。この絵の才能も、どこかから拾ってきてそこそこにまで開花させたものなのだろう。


 だが、ここ二日ほどの彼女の動向を見るに、『まじめで頑張り屋』というけなげなイメージとはかけ離れていると言わざるを得ない。そのことをそいつに伝えてみたが、女ってやつは豹変するからな、などとふざけたジョークで返されたのでそれ以上追求しないことにした。


 ともかく、俺は、次のようにメールを返した。


『いいとおもう』


 これに対する返信として、やっぱりそうですよね、実は○○のところを△△して□□は××の――と超長いメールが返ってきたが、半分ほどで読み解くことをあきらめ、へえすごいね、というメールを返すにとどめた。帰ってきたメールは。


『ですよね四切さん私の方が役に立ちますよね!? 明日は死体して舞っててくださいね(改行)あと、穴ならすぐ準備できます!」


 穴掘って死体を待つのは探偵でも刑事でもなく殺し屋だ。


 事件の推移としてはここまででお腹いっぱいなのだが、残念ながら、本件に関しては、ここまでが序章なのである。



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