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時を止める能力に目覚めたとか言い出した彼女をどうすればいいですか  作者: 月立淳水
本編 時を止める能力に目覚めたとか言い出した彼女をどうすればいいですか
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第一章 幼馴染がおかしなことを言い出しました(3)


 そしてめんどくさい事件が起こったのはまさにその日の夕方。


 六限の授業が終わったところで、メルと美空がほぼ同時に俺のところにやってきた。


 メルはと言うと、


「今朝は悪かった。今日は、その、一緒に宿題やろ。私もちゃんとやるから」


 と妙に殊勝なことを言う。


 一方の美空は、


「陸上部、行こうよ。私、元気の出るおやつとか用意してみちゃったりしてるし」


 なんて、頼んでも無いおせっかいを焼いてくる。


「時任さん、四切君は陸上部の練習に一緒に行くって約束したの、邪魔しないで」


 約束してません。あ、ぎりぎり約束っぽいはぐらかし方はしたけど、なんかほぼ冤罪だ。


「美空が言ったんでしょ、ちゃんと自分で宿題しろって。今日はカズは私と宿題すんの」


 うん、そんな約束もしてないけどな!


「ていうかあなた、なんで私のこと呼び捨てにしてんのよ」


「カズに、呼び捨てでいいって言ってたじゃん」


「はあ? 盗み聞きしてたの? うわー、やーらしー」


「やらしくないもん! あんたこそ、いきなり呼び捨てにさせて、その上部活に誘って手作りのおやつ? やらしー!」


「やらしくないわよ!」


「いーや、やらしいのはあんたよ!」


「あなたのほうがよっぽどやらしいわよ!」


「むしろエロ! あんたエロいわ! もう体つきとかチチとかがマニアックでエロい!」


「あなたこそ昨今の貧乳マニアの心をくすぐるその体つき! エロい!」


「貧乳じゃないもん! エロいけど!」


 どっちがエロくてもいいよ、もう。

 少なくとも教室の真ん中でエロエロ叫ぶな。

 それに今日のメルは薄茶色のセミロングヘアをお団子にしていて、セクシーと言うよりはお子ちゃまスタイルだ。大体三分の一の確率でこのスタイルだと気づいているやつはどのくらいいるだろう?


「じゃあ言いますけどね、私、ちょっとした特技があるのよ。今日はそれを四切君に見てもらわなきゃならないの」


「なんなのよ、それ」


「ちょっとした不思議な能力に目覚めたの」


 あ、あれ?

 美空まで頭をやっちゃったか?


「なによそれ、頭おかしいんじゃね?」


 お前が突っ込むのはおかしいけどな、メル!


「おかしくなんか無いわよ。ある日、目覚めたの。私はどんな場所にでも穴を掘れるのよ!」


 穴、穴ですか。

 美空は誇らしげに胸を張っているが、虚言を呈するにしても、『穴掘り能力』ってのはさすがに外しすぎじゃないか、ネタにしても。


 いや、笑わそうとしているのか。


 だったら笑わないと失礼なんじゃないか。


「は、はは……」


 俺は一応愛想笑いを浮かべるが、


「あんた、何笑ってんの? 今の面白かった? どっか面白かった? うわ、そのあんたの反応が寒いわ」


 とメルに一喝される。

 そして彼女はその返す刀を美空に振り下ろす。


「穴掘りて。何その貧弱な能力は。私なんて、時間を止めることができるのよ!」


 メルが言うや、美空はわざとらしくぷすーっと笑ってみせる。


「時間止めるですって! 中学生? ねえあなた中学生? じゃあ止めて見せてよ、さあさあさあ!」


「あんたこそ今すぐ穴掘ってみなさいよ、教室の床にどーんとでかいのをヨロシク!」


「誰か落ちたら危ないでしょ! あなたその程度の配慮もできないの、この考え無し」


「はーい、出ましたー。口だけー」


「あなたこそね!」


 お互いに口を尖らせてにらみ合う、メルと美空。

 俺から見ればどっちもどっちなんだが。


「ひとつ聞いてもいいかな」


「何?」


「何ですか?」


 メルと美空の問い返しが重なった。


「その、『能力に目覚めた』とかって、女子の間で流行ってんの?」


「は? 流行り?」


「いや、そういうジョークというかギャグが流行ってんのかと――」


「流行とかじゃねーよ。あんた馬鹿?」


 俺の言葉をさえぎるようにメル。


「あっちはどうだか知らないけど、私のは本当よ。四切君は当然私の言うこと信じるよね?」


 さらに美空が被せてくる。

 あわわわ。

 こりゃいよいよ二人とも頭をあれしちゃってるわ。


「カズは当然私のこと信じるよ!」


「どっちなの四切君!?」


 どっち? どっちとかって問題なの?


「まあまあ、二人とも、妄想はその辺にして、まずは落ち着こうぜ。はたから見るとどっちもどっちレベルで超アホっぽいことを言ってるわけ――ごふっ」


 俺が言い終わる前に美空の見事なローキックがすねに決まり、それでふらついたせいで普段なら空振りするはずのメルのローキックが反対のすねに決まった。もちろん俺は悶絶するしかない。


***


 最悪の事態の、それは始まりに過ぎなかった。


 翌朝、二日連続でメルが別登校なんて珍しいな、なんて思いながら八剣高校の正門を抜け玄関をくぐり靴を脱いで下駄箱に入れ廊下に一歩踏み出したところで、俺は人生最大級の脱力ガックリポーズをすることになる。


 廊下に出てすぐのところに、掲示板がある。


 全校生徒に何らかのお知らせをするための、言わば公的な掲示板なのだが。

 A4用紙に雑なイラスト付きの二枚の掲示が目に入る。


『よろづそうだんうけたまわり! 便利屋メル 時任メルのなんでも相談 じん速解決』


『案件募集 アンナ探偵事務所 どんななくし物でも一発で”掘り起こし”ます 安和小路美空まで』


 迅速って漢字が思い出せなかったんだろうけど、せめて辞書くらい引けよ、と。

 校内に探偵事務所はどうよ、しかも外資風!?


 その他無数のツッコミポイントはあるが、ともかくこれを見た俺には、脱力することしかできなかった。


 そして大変残念なことに、掲示板のふもとにはすでに十数名の人だかりがあり、俺がそれを引っぺがそうものなら、自ら関係者だと喧伝するようなものなわけで、手も足も出せずに教室へ向かうしかない。


 教室では、メルと美空は、まさしくいつもの風を『装って』自席に座っている。

 もちろん、掲示板にアレを貼ってやったという得意満面と、相手にしてやられたという渋面と、いつ依頼が舞い込むかという期待が入り混じった表情で、意識しまくりなのはバレバレなのである。


 さて、どっちから料理してやろうか。

 うむ、幼馴染のよしみでメルから血祭りに上げてやろう。


「おいメル。何だあの張り紙は」


「あ、カズ、見た!? もうさ、せっかく能力に目覚めたんだから、何かしなくちゃっていう私の正義の心があふれにあふれてきちゃって」


 ペロ、じゃない。

 彼女のウインクベロ出しかわいこちゃんポーズに対する俺の返答は、頭上からのスマッシュだ。

 舌を噛んだメルは口元を押さえて涙目で転げまわる。


「ぎぃええー、ひ、ひろい(ひどい)! いきらり(いきなり)らぐるらんれ(殴るなんて)!」


「ふざけんな今すぐ剥がしてこい!」


「ら、らんれよー(なんでよー)」


「大体お前時間を止めるとかわけ分からんしなんでも屋って時点で信憑性ゼロだし簡単な漢字も書けてねーし第一あれは学校の公共の掲示板であってお前の宣伝のものでもないしあれを見て間に受けた人がいるとも思えないがもしいたらそれはそれで不幸だし誰かに職員室にタレこまれる前に剥がしとけっつってんの!」


 一息に言い切ると、メルはまだ涙目で俺を見上げる。

 ふと気がつくと、美空もじんわりと近くに寄ってきている。


「あ、あのさ、四切君は、ああいうのはよくないって思ってる……とか? ひょっとして?」


「ひょっとしなくてもだめです」


 ひゃぁ、とかいうような味のある悲鳴を上げた美空は、さりげなく廊下に近づくと、たたっと駆け出す。


「あ、一人で剥がしに行く気だ、ずるい!」


「ずるいとかずるくないとかじゃなくてお前も――」


 俺が言い切る前にメルも立ち上がって駆け出す。

 うーん、素直に言うことを聞くなら最初からそうすればいいのに、なんて思うんだが、なんなんだろうね、困ったものだ。


 かける二人を追って掲示板の前に着いてみると、人だかりは大体はけていたが、一人、どうやら一年生男子と思われる男を前にして、二人が立ち尽くしている。


「あ、あの、時任さんって?」


「はいはいはーい、私です!」


 メルが応えると、


「この、なんでも相談ってほんとですか? その、相談したいことがあって、子犬の里親を――」


「わーわーわー!」


 俺があわてて大声でさえぎったが、手遅れのようだった。すでにメルが目を輝かせている。


「――んです。だめでしょうか」


「だめなことあるもんですか! 子犬の里親探しね、ばっちこい!」


「くっ、被害を防げなかったか……」


 うなだれて一人つぶやく俺をさらにうちひしがらせるパンチは、メルの隣から放たれる。


「――探しものなら、当然、この”探偵”安和小路美空よ! 何君だっけ、何でもいいや、この私がきっと里親見つけてあげるから、連絡先よこしなさい!」


 何君でもよくねーよ。

 被害倍増かよ。

 ああ、許せ、少年。アホ二人の意地の張り合いなんだよ、これ。


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