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時を止める能力に目覚めたとか言い出した彼女をどうすればいいですか  作者: 月立淳水
本編 時を止める能力に目覚めたとか言い出した彼女をどうすればいいですか
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第六章 どうやら俺も能力に目覚めてしまった勘弁して(2)

 ――時間、止まってね?


 俺の周りで何が起こってる?

 時間を止める能力はメルのものだ。


 俺にはそんな能力なんてあるわけが――。



 あ、あるわ。



 なんか急にうざい会話が脳内にあふれてきやがった。


 これか。これがメルや美空が言ってたやつか。

 うわー、うざい。


 あー、んで、これがサービスタイムね。


 発動するレベルを決めるまで時間停止ね。

 ――時間停止を発動してるメルまで止まってるって、どんだけだよ。どんだけメタなんだよ。


 まあいいや。


 発動レベル――32だ!


 とたんに、俺とメルだけが動き出す。


『ピロリロリン♪ 時を止める能力に入門しました。レベル1につき0.1秒時間を止められます。また、オリジナル能力者が時を止めたとき、その停止時間世界に制限時間まで便乗することができます』


 はい来ました、これがオートアナウンス機能。

 もうどうでもいいや。


「なっ、何でカズも動いてんの!?」


 メルの驚きの声。

 俺は駆け出しながら応える。


「詳しくはあとで説明する! 俺も能力に目覚めたってことで! 今は奈々美を!」


 走る。

 メルも俺に駆け寄ろうとした方向を奈々美のほうに変えて走るが、少なく見積もっても俺のほうが三倍は速い。


 俺は二秒ちょいを経過したところでもう奈々美の後ろに回りこめた。


 残りの時間を使って、奈々美の両脇を抱え込むようにして羽交い絞めの体勢へ。

 メルはまだ数メートルを残している。


 そこで、俺の時間停止の限界が来て――。


 目の前にぱっと瞬間移動するメルが見え、それから、俺に羽交い絞めにされた奈々美が激しくびくりと体を跳ねさせたのを感じた。


「えっ? えっ? なに? なんなの?」


 奈々美は状況をつかめずに慌てふためいている。

 とほぼ同時に、俺を狙って落とした金ダライが大きな音を立てて床に落ちた。


 それから、奈々美の体が、ぐい、と俺のほうに押し付けられるのを感じる。


 見ると、メルが奈々美ののどにしっかりと手を食い込ませている。メルらしからぬ、しっかりとした体重の乗せ方だ。


「……二人がかりよ、観念しな」


 言いながら、メルは奈々美をにらみつける。


「私、実は結構怒ってるんだよね」


 その低い声で放たれた言葉には、俺でさえもさすがにぞくりとした。


「おとなしくしろ、奈々美。俺な、能力に目覚めたんだ。『入門を許す』とさえ言われれば、どんな能力でも使えるようになる。時間を止める能力者二人、しかも一人は陸上部員だ」


 幽霊部員だけどな。


「くっ……」


 奈々美の悔しそうな声。


 そのとき、思いもよらぬ声が図書室の入り口から響いてくる。


「だったら私も入門を許すよ、四切君!」


 そこに立っているのは、美空だった。

 その隣には、こよみもいる。


「ははっ、間に合ったわね。カズが一人で説得に入ってる間に、こよみに連絡して連れてくるようにお願いしておいたのよ」


「妹がお世話になったので恩返ししたくて……矢那先輩の指示だって言ったら見張りの人も通してくれました」


 ここにきて、異常に機転の利く二人。


『ピロリロリン♪ 落とし穴の能力に入門しました。レベル1につき――』


 そして、オートアナウンスが俺の脳内に刻まれる。


「さあ、三対一だ。まだ逆らうか?」


 俺がドスの効いた声で言うと。


「ふっ、ふふふっ♪」


 突然、奈々美が笑い出す。

 決定的な状況に、笑うしかなくなったか?


「ざーんねん♪ 三対二よん♪」


 二? 二だって?


 俺の疑問に答えるように、図書準備室、つまり俺のほぼ背後方向から姿を現したのは、こなとだった。


***


 こなとのことをすっかり忘れていた。

 そして、図書準備室が、とこか、別のところからつながっているということも。

 こなとは男どもをどこかの教室に連れて行ったあと、一人で戻ってきたのだ。


 今、奈々美を押さえる力を緩めることはできない。

 いくら首に手をかけているとはいえ、メルが一人で奈々美を抑えることはできないだろう。


 では新入手の落とし穴か?


 ――だめだ。さっきのレベル32時間停止の待機時間が経過してない。


 そうだ、美空に――。


 美空に向けて叫ぼうと思ったときには、もうこなとは俺の肩に手を触れるほどの距離にいた。


「奈々美様。いきます」


「ええ、来なさい、こなと」


 そして、こなとは俺の肩……を素通りして奈々美の肩にその右手をそっと乗せた。


「……限界突破……」


 彼女のぼそりとしたつぶやきが聞こえる。


 その瞬間。


 奈々美の全身から青い炎のようなオーラが立ち上った。


 そう、校庭で対峙したときとまったく同じだ。


 熱いわけじゃない。痛いわけでもない。

 ただ、何か理由があるわけでもなく奈々美に触れられなくなる。羽交い絞めにしていた俺は弾き飛ばされ、メルも後ろによろめいている。

 格闘ゲームでよくある『必殺技発動時の無敵時間』という言葉がなんとなく脳裏をよぎる。


「う……うふふふふふ♪ さあ、限界を超えた不幸を味わいなさい! 発動! レベル256! 対象はこの部屋のこなと以外全員よ!」


 しまったっ。

 こなとの能力はつまり――。


 限界突破。レベル128を超えて、おそらくレベル256までの能力を引き出す力だ。


 さっきはその力で何が起こったか。

 ――そう、メルの能力が封じられた。


 それだけで済むのか?


 あるいは、同じレベルでも異なる不幸を発動できるのか?

 分からない。


 俺は思わず首をすくめて身構える。


 ――と。


 こつん。


 俺の頭に何かがぶつかる。


 おや? と思ったときに、さらにこつん。


 こつんこつん、が、だんだんざらざらに変化し、ドザーッという音に変わるのに一秒とかからなかった。


 その正体はすぐに知れた。


 大量の『どんぐり』だ。


 頭上から大量のどんぐりが降ってきたのだ。


 ……なんだこれ。


 これが究極の不幸?


 やがて、どんぐりの雨は止む。


「こっ……」


 奈々美が小さくつぶやく。


「こっ、こんなときにハズレなんてっ……うっ、うえっ、うえーん、えーん」


 そして、奈々美は泣き出してしまった。


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