第六章 どうやら俺も能力に目覚めてしまった勘弁して(1)
■第六章 どうやら俺も能力に目覚めてしまった勘弁して
『おめでとう、四切一之君! 君は能力に目覚めた!』
俺の頭の中に謎の声が響いてくる。
おっさん……っぽいけど、中性的な感じもする。
『誰がおっさんだ』
人のモノローグに突っ込みを入れるな。
『しょうがないだろ、聞こえてしまうんだから!』
いやいや、あんたの声がどんな感じかを分かりやすく自分なりに整理していただけで――。
ちょっと待て。
誰だお前。
『遅いわ。その問い遅いわ。お前ほんとは鈍いだろ』
誰が鈍いだよ。少なくともメルほどじゃねーよ。
『ほほう、時任メルを知っておるか』
なっ、メルを知ってるのか!?
じゃあ、メルに能力を与えたのも……!?
『え? 誰それ』
むかつくわ。
なんかめっちゃむかつくわ。
インチキ関西弁になってまうほどむかつくわ。
『まあまあ。大体みんな似たような反応だから』
やっぱりほかの奴も知ってるんじゃん。
『知らねーよ?』
あーむかつく。
『いやさ、これ説明しちゃう? 私って、一つの個があるような存在じゃないわけよ。だからって偏在とかってわけでもないし、じゃあ何かって言うと特に設定も無いって言うか』
設定……。
『分かるかなあ。上位存在? メタ存在? そういう感じなわけよ、私』
……仮にこいつをメタと呼ぶことにする。
『ああ、いいね、呼びやすくて端的に私の存在を示す呼び方。そうそう、メタ。私はメタ』
今思いついただろ。
『失敬な! 私は宇宙開闢のそのときからメタであり続けたぞ!』
なになに、宇宙開闢云々って。あれか? 神とかってこと?
『神? 違う違う。あんな俗っぽいのと一緒にされると困るなあ。私はメタ。そう、永遠に宇宙を観測し続ける孤独な存在……』
……うぜぇ。
『あ、うざメタにしとく? うざいメタ略してうざメタ』
”い”しか略せてないし。
『いいから話を進めるぞ』
脱線してるのお前じゃん。
てゆーかこの説明の間、時間止まってんの? 大丈夫?
『大丈夫、この説明中は、君の精神はえーと、そう、メタ亜空間にあるから!』
メタ亜空間って、頭が頭痛みたいな感じだな。
『間違えた、メタ空間な。君は今メタ空間でこの説明を聞いているのだ』
絶対今思いついたな。
『とにかく! 誰かが能力に目覚めるとこの私が精神に語りかけて、能力の説明をする! そういう仕組みなの!』
うん、なんかそういう流れなのは分かるけどさ、説明聞く前に、ちょっと質問していい?
『お、モノローグで質問する流れ、ようやくつかんだか。いいとも、言ってみたまえ』
お前さ、実際、何が目的でこんな能力を人に与えてるの?
『は? 私じゃないぞ、能力を与えてるのは』
え、お前じゃないんだ。じゃあ、誰? この能力の設定とか考えたり、それを気まぐれに与えてみたりしてるのは。
『私以外にいるわけが無いだろ常識で考えろ』
うわーっ! 超! うざい!
絶対性格悪いよこいつ。
『だから私は個ではなく全でもないメタな存在だからさ、私が与えたといえば確かにそうなんだけど、私は与えたつもりはないんだよ。この辺、伝わるかなあ』
いいえ、まったく。
『だよねー。質問、もういい?』
いや、まだ答え聞いてないけどさ。
とにかく、この能力は、じゃあお前自身も分からない目的で作られてるってことで、いい?
『うん、そうだね、あえて言うなら、暇つぶし?』
あ、目的あるんだ。
お前の暇つぶしなんだ。
『私も暇なんだよ、なんせね、時間とかって概念がないじゃん? この、えーと、メタ空間? にはさ。暇つぶししたいなーって思ってたら、ね』
メタ空間ってさっき言ったのもう忘れかけてるし。
『私は忘れることを許された存在。でも大丈夫、この会話の記憶は君の記憶から決して抜け落ちない』
頼むから忘れさせて。
美空もそれで苦しんでたし。
『貴様……! 安和小路美空を知っているのか!』
……流れは読めたけど。
はい、知ってますよ。
『そうか。私は知らん』
だよねー。うわーうざい。
『ありがとう』
褒めてねーよ。
っていうか、質問の続き。暇つぶしだとしてさ、誰が能力に目覚めるとかってのも、適当なのか?
『さあ? でも、面白いほうがいいよね。アホの子が頭を使わないと駆使できない能力に目覚めちゃうとか、さ。あと、能力バトルとか発生すると断然面白いよね。だから能力者が住むところって、必然的に固まっちゃうよね。メタ的には固まらざるを得ないよね』
もう、面白いかそうじゃないかの基準しかないってことは大体分かった。
俺をからかうのも単に面白いからだ。
メタがどうとかってのも、事実を語ってるんじゃなくて俺が頭を抱える姿を面白がれるかどうかしか、考えてないだろ。
『ご名答ー。でも、メタはメタだからメタってところは疑わないでほしいな。メタちゃんからのお願い☆』
……キモい。
『……説明、続けていい?』
なんで俺が説明の腰折った感じになってるんだよ。
あーそこも含めてこいつの術中なんだよな。うんざり。
『では説明を続けよう。メタ的に与えられる能力は、すべて”レベル”で管理されている。能力はレベルに応じて発動される効果が異なり――』
あー、メルたちが言ってたあれかぁ。
『――そうそう、そういうあれ。最大レベルは128。と言いたいところだが、実のところ例外がある。それは、あとで説明しよう』
例外? そういえば、奈々美が、レベル256とか叫んでたな。
『え? 256? それは知らんよ?』
うん、めんどくさいから突っ込まない。どうせ、俺が突っ込みいれると、いや、知ってるけど、みたいな堂々巡りが始まる。分かりきってる。
『くっ、ここにきて学習しやがったか』
めんどくせえ。
さっさと続けろよ。
『分かりましたよ。えーと、そうそう、で、まず、君が目覚めた能力。それは、”生兵法の能力”と言う』
……生兵法ですか。
これまたインチキくさい匂いがぷんぷんしますよ。
『その予感はほぼ当たりだ。インチキ、すなわち”チート”なのであるよ、君の能力は』
面と向かって(いや、面を向き合わせてはいないか)、インチキと言われるとそれはそれで微妙にむかつく。
『まあむかつこうがむかつかまいが、君の能力はある意味でインチキだ。つまり、他人に与えられたどんな能力でも使えるようになる、という学習型能力なのだ!』
……それって、ひょっとして俺たちが、奈々美にそんな能力があるんじゃないか、と疑ってた様な奴か。
『奪うってのとは違うんだけどね。条件を正確に説明しよう。君は、どんな能力であろうと”生兵法”で使うことができる。ただしそれは、オリジナルの能力者が「入門を許す」と宣言した場合だけである。つまり君は、世の能力者たちにいちいち頭を下げては「入門を許してください」と乞うて回らねばならぬのだ!』
地味ーにいやなことを言うなこいつ。
『大丈夫! ほかの能力者もみんな地味ーにいやな思いしてるから。してないのは、時を止める能力者くらいじゃね?』
だからアホで運痴なんていうクソ重い十字架を背負う破目に。むしろ逆か。
『そしてもうひとつ、条件がある。それは、仮に入門を許されても、レベル32までしか能力を発動できぬのだ。能力ごとにレベル32までにできることは異なるが、それは、入門を許されたときに説明されよう』
時々、変に威厳あふれる、というよりはエラそうな口調になるのも、微妙にむかつくな。
『以上で君の能力の説明はすべてだ』
ああはい、ありがとうご苦労さん、帰っていいよ。
『あ、ひとつ忘れてた』
すべてじゃなかったのかよ!
『私がサービスでつけておいた機能がある。それは、”オートアナウンス”である』
オートアナウンス? 字面から何が起こるのかさっぱりだけど。
『能力に入門したら、アナウンサー並みに活舌の良い女性の音声で知らせてくれるよ!』
はい、本当にどうでもいい機能でした。
『これで全部だ。ほかに私に聞きたいことは?』
……別に。
何を聞いてもうざい答えしか返ってこなさそうだし。
『そうか』
はい。
『……』
……。
『……』
……。
ねえ、いつ終わるの?
『あ、終わりにしたかったんだ。じゃあ、終わりね。最後にサービスタイムあげるよ。今からちょっとだけ視界が回復するよ。君がさっき入門したのは”時を止める能力”、最大レベル32だから3.2秒まで止められるんだけど、レベルいくつを発動することにするか、考えさせてあげよう。頭の中でレベルいくつにするか決まったら、サービスタイムおしまい。そこから、カウントスタートってことで。じゃねー』
はい、さようなら。
二度と来んな。




