第四章 炎を使うピンク女にたじたじとなるの巻(4)
あー、あれ、やばいな。メル、やばい。
あれは死んだな。
墓は建ててやるよ。俺の小遣いでな。
その前に。
「メルの仇、てめえを討ち取ってからな!」
俺が立ち上がって、かっこよくびしっと彩紗に人差し指を突きつけると、
「死んでねえよ!」
がばっ、とメルが起き上がった。
「おおう、生きてたか。墓代が助かった」
「軽口叩けるならカズも無事だな」
まあなんつーか、熱いのは熱いんだけど、あくまで炎だけと言うか、触ると死ぬ! みたいな炎じゃないんだよね。
なので、多少焦げても、まあ死にはしないとは思ってた。だから心配はしてなかったのだ。小遣いの。
「こ、こら、まだ来る気!? もっとエラいのぶちかましちゃうぞ☆」
彩紗はそう言いながらも、右足が一歩後ずさってる。
なんだこのチャンスタイム。
分かりやすっ。
「この私がっ! あんたの炎ごときにやられると思うな! 勝負はこっからだ!」
メルはチャンスタイムを分かってるのか分かってないのか、立ち上がって強気の宣言だ。
そして、俺とメルは、同時に踏み出す。
彩紗は明らかに、まずっ、という顔だ。
俺がまさに彩紗の肩に手を伸ばした瞬間。
「ちょ、ちょっと待って、タンマ!」
彩紗が叫びながらしゃがみこんだ。
「た、タンマ!?」
「タンマだよ、タンマ! さ、さ、三分!」
俺は、ぼへぇ、という音とともにため息を吐き出す。
だめだ。この子も筋金入りのアホの子だ。
「……要するに、レベル128使っちゃった、わけだ?」
「そっ、そんなこと、しゃべるわけないじゃん☆」
はいはい、しゃべらなくても分かりました。
「分かったよ、さっきはメルの三分待ってくれたしな」
そして、再び親睦タイムがくれば、そこで口八丁……もとい、説得で彼女を退かせることができるかもしれないし。
再び三人でベンチに移動。
「いやー、強いねえ」
「あは☆ でしょ☆ どう? 勝てそう?」
なんで途端にほのぼのモードなんだよアホ二人は。
「ま、種の一つは見破ったがな」
俺は言いながら、さっき拾っておいたマッチの燃えカスを彩紗の目の前に差し出す。
「うおは☆ すごい、もうバレちゃったの☆」
「ああ、お前の能力は、『着火』はできないらしいな。着火ができるなら、わざわざマッチは使わない」
「正解☆ うーん、わくわくするね☆」
わくわくする要素があったか。
……彼女としてはあるんだろうな。何しろ全力で戦ってみたいってだけのアホの子だから。
どこの戦闘種族だよ、という突っ込みは胸にとどめる。
「それと、着火ができないだけなら、ライターを使うはずだろ。使い減りしないんだから。でもマッチを使う、つまり、燃える『燃料』も一緒に放り投げる必要がある。お前ができるのは、『燃えているものを飛ばす』ってだけだ」
「うえ、すげぇ! 一之ちゃんって、頭いいのねえ!」
彩紗は驚いた表情で、メルに向かって興奮を隠そうともせず話しかける。
「ま、うちの助手は、この私に及ばないまでも、なかなかのもんよ」
メルに及ばないってことは地球で一番馬鹿ってことか。別にいいけど。メル基準でどういう風に言われても。
「何秒なの? レベル一個で」
メルは無邪気な質問をする。
あのなあ、誰も彼もレベル一個何秒なんて能力ってわけじゃないんだから――。
「0.2秒☆ レベルひとつで☆ だから、さっきのはめいいっぱい使って二十五秒くらい操ってたのかな? メルちゃんのは?」
「私のは、0.1秒だよ。倍も性能が違うんだあ。そりゃ強敵だ」
……あっさり吐いたぞ、こいつら……!
もう突っ込みどころだらけで突っ込む気が失せる。
何でしゃべるかな。っていうか炎操る能力も制限時間制なんだ。っていうかメルもあっさりしゃべるのかよ。っていうか時間止め0.1秒と炎操作0.2秒じゃ時間は倍でもそもそもやってることの次元が違うからね? っていうか……。
ああ、頭が痛い。
「でも、あの炎のヘビだけは分かんないなあ。あれ、どうやってんの?」
「ふっふふーん、アレだけは、企業秘密☆ がんばって謎解いてね☆」
企業か。お前は企業なのか。資本金はいくらですか。
まあ、俺としてはなんとなくもう種の予想はついちゃってるんだけどな。
この休憩が終わったら、ちゃっちゃと終わらせよう。
もうほんと、めんどくさくなっちゃった。
「彩紗は……あ、彩紗って呼んでいい?」
「いいよ☆ もうあたしたちは強敵と書いてともと読む感じだからね☆」
どっかで聞いたぞそれ。
「ありがと。彩紗はなんで奈々美とこなとの味方してるの?」
「べっつにー、味方とかってわけじゃなくってさー☆ なんか、ある日変な能力に目覚めるじゃん? あたしがそんなこと吹いてたらクラスで白い目で見られるじゃん? 最初は使いこなせなくて下手な手品以下だったしさ☆ でもこなとちゃんは真面目に聞いてくれてさ☆」
「そうなんだー。あの無表情ちゃんにもいいとこあんだねー」
「でも後で聞いたら、こなとちゃんも能力持ってて、でも誰にも話せなかったところを、たまたま茶道部の先輩だった奈々美ちゃんに聞いてもらって、って感じなんだって☆」
やっぱりこなとも能力持ちか。どんな能力なのか、気になるな。
「えっ、奈々美の方が先輩なんだ!」
あ、食いつくところ、そこですか。
「そうだよー。こなとちゃんはあたしと同じ一年生、奈々美ちゃんは三年生だよ☆」
三年生相手に『ちゃん』で呼ぶのはどうだろう。まあどうでもいいや。
「……そろそろ、三分だろ」
俺が言うと、メルはぷくっとふくれる。
「もうちょっとお話しててもいいじゃーん」
「さっさと勝負つけて、それからでもいいだろが」
「カズのイケずぅ」
こんなやり取りを見て、彩紗もにゃははと笑っている。
なんで敵と打ち解けちゃってるんだよ俺ら。
「では、第二ラウンド、スタートにゃ☆」