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僕に妖怪  作者: 氷雨
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明新と僕(二十二歳)

明新は小学校・中学校と一緒だった。

別に仲が良かったわけではない。ただ、共通の友人がいただけの話だ。

明新の寺に就職して1年がたった頃だっただろうか。

「なあ、親海。後悔してないか?」

「は?」

僕はきょとんとした声を出した。

「だから、『お坊さんになったこと』、後悔してないか?」

彼は神妙な顔つきで僕に迫った。彼は彼なりに僧侶になるときに巻き込んだことを申し訳なく思っているのだろう。

おそらく、彼こそが今まさに、『お坊さんになったこと』を後悔しているのだろう。

どういう理由があるのかは知らないが、『お坊さん』であることに悩んでいるのか?

自分が後悔しているから僕も後悔していると思い、済まないと思っているのだろう。

「してるさ」

「うわぁ、やっぱり」

もの凄く申し訳なさそうな顔をした彼に重ねて言葉を告げる。

「僕だって人間だからな。後悔する生き物なんだよ」

「は?」

今度は彼がきょとんとした声を出した。

「人間って後悔する生き物なんだよ。たまにしない奴もいるけど。あのときああしていたら、こうすればよかったって。お前は違うのか?思わない?」

「いや、時々思うけど」

「そうだろ?現状が不満なときは大体そう思うものだろ?だから、これは僕の問題。僕は断ることもできた。でも、このルートを選んだんだ。僕が悩む事。明新じゃない」

腹に力を込めて声を出し、きっぱり言い切った。

ちょっと、いやかなりあの時の状況には断るに断れない雰囲気と盛り上がり具合だったが。

明新はやっと力のない、ばつの悪い笑みを浮かべた。

「そうか」

話を切り替えようと別の話を振ってみる。

「それより、もっと悩むことがあるだろ?」

それには怪訝な表情を返した。まったくもって心当たりはないらしい。

佳代さんもかわいそうに。かわいいのに何もこんな奴の彼女にならなくても。まあ、身内のお見合いだから贅沢も言えないか。

ちょっと意地悪な気分になってきた。

「悩む事?」

「もちろん、佳代さんへの誕生日プレゼントだ。明後日だよな、まだ用意してないんだろ」

「ええっ!」

明新は驚いた。佳代さんは、最近やっとできた、明新の中学生以来の二人目の彼女だ。佳代さんの父親は庭師で、よくうちのお寺の庭もお手入れしている。

「おいおい、知らなかったのかよ。千鶴さんから聞いたぞ。千鶴さんはかわいいハンカチを送るそうだ。ちなみに僕は義理で……」

「知らなかった……。よし!探しにいってくる!」

そのまま走り出さんばかりの勢いの明新にストップをかける。

「こらー! 今日は通夜入っているだろう!勝手に行くな!」

こんな時、僧侶になったことを後悔する。


「まったく」

明新はそそっかしい奴だ。けど、基本いい奴なんだよな。

明新は今、佳代さんと結婚して三児の父だ。完全に佳代さんの尻に敷かれている状態ではあるが。


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