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僕に妖怪  作者: 氷雨
22/22

結婚諦め編(三十歳) ※別視点です。

ようやく現実的に決着を見出しました。


「さて、皆に集まってもらったのは他でもない。僕の結婚についてだ」

柴・栗・圭介・明新・高崎君・千秋・ご住職・千鶴さん・ジャンが集まっていた。

「け、結婚、するんですか?」

今にも泣きそうな顔の柴。

「認めないからな」

ぶすくれている栗。

「邪魔してあげます」

不気味で妖艶な笑みの圭介。

「「「良かったー」」」

能天気な明新とご住職、そして千鶴さん

「……………………………」

無言だが不服そうなジャン。

「誰なんですか?」

私も内心いうと不満だ。親海さんにお嫁さんが来るなんて。

仁王立ちしている親海さんは、座っている私たちを一周睥睨した後口を開いた。

「その前に、お前らナニカ決め事しているだろう? 僕の同意も許可もとらずに!」

いつも優しい声音の親海さんの、打って変わったドスの効いた声が講堂の中、地響きのように響く。

「「「「「「うっ」」」」」」」

「言ってみろ、その不可能な結婚条件」

「「「「「……………………………」」」」」

条件を付けていないご住職一家はキョトンとしているが、寒々しい空気を感じてかビクビクと二の腕を擦っている。


妖怪の柴と栗の場合

「………言えないんだな? なら言ってやろう。

柴!栗!……『才色兼備、料理と気配り上手で、性格は温和で夫を立てるしっかり者。妖怪と仲良くできて、親海さんを守れるだけの霊力もある。キャリアウーマンも可能だが、非常時には帰ってきて親海さんを守れるものに限る』……だってな? 今の時代、そんな優良物件転がってない! いたら即お嫁に行っている! よって僕には無理だ!

 と言う訳で却下だ」

柴と栗はガックリ肩を落とした。


吸血鬼神父ジャンの場合

「次にジャン、貴方は………」

「『僕に誘惑されない人』です。簡単でしょう?」

小首をかしげて何故怒られているのか本気で全く分かっていないらしい。

「ジャンは古くて強い吸血鬼なの! それこそ白木の杭を打たれても平気で蘇生するでしょう! そんな吸血鬼に誘惑されてあらがえる人なんかいないよ! ていうか、誘惑されなかったらそれはもう人間じゃないから!

 と言う訳で却下だ!」

ジャンも柴と栗同様にガックリとうなだれた。


半分狐の高崎君の場合

「それから高崎君だが……」

「ぼ、僕はそんなに高い理想じゃないです…………」

高崎君はビクビクと怯えながらも、控えめにだがしっかり反論している。

「そう?…………『稲荷ネットワーク以上の人脈・霊脈網を持つこと』………は、そんなに簡単じゃないよね? 末社の数でいくと稲荷神社が三万社を超えて全国一位、二位が八幡神社の二万五千社、三位が諏訪神社の一万以上。狐以外には絶対無理だ!

僕は一応仏教徒であるが、カソリックのネットワークならジャン神父でもできないことはなさそうだが……これは暗に狐と結婚しろと言うのか?」

親海さんの額に青筋が浮かんできて見える。

「僕はまだ四本ですが、尻尾が五本になれば人間と結婚できるんです! 女にも変化できます! あとちょっとだけ待っていてください! きっと親海サマの立派なお嫁さんに、ぐおあ………」

見事なアッパーカートが両サイドの柴と栗から強烈に繰り出された。肩を怒らせる二匹に、高崎君はさすがに気絶している。


最期に圭介の場合

でろでろでろでろろろろろ

真っ黒で不穏な空気が部屋の中一帯に広がった。まずい、これはさっき高崎君を殴れなかった『魂欠け殺し屋』圭介の怒りだ。どうしよう…………

そんなことにも親海さんはめげない。偉い!

「圭介、不機嫌になるな。で、お前の条件は何だっけ?」

親海さんはいつもの優しい声に戻っているが、笑顔が般若に見えるのは気のせいではないはずだ。きっと内心怒りまくっている。

「俺はただ、『少なくとも魂欠け・魂埋め以上の霊力を持つこと』の一つだけですよ。『魂埋め』のためだけに結婚されてもお嫌でしょう?」

「たわけが…………『魂埋め』なんて知っているのはこっちの業界人か人ならぬモノだけだっていうの! 普通の人間は知らないぞ! ったく…………」

「知っている人は知っています」

「じゃあ訊くが、基準を上回る女にあったことがあるのか?」

「ないです。当たり前でしょう?」

何をそんな簡単なことをと言うように親海を見上げている。

「だったら!」

「どうしてそんなに結婚に拘るんですか? しても無駄なだけでしょう?」

「無駄って…………」

何て事言のこいつ。親海さんは絶句している。

「そうでしょう? 『魂埋め』が普通の人間と同じ年齢を、時代を生きていけますか? 『白蛇のオンジ』は既に五千歳を超えています。狐だって三千歳を超えて空狐になれば空に消えていく存在です。

だから俺は、霊力があなたと同じレベルの人間を要求したのです」

なんですって? じゃあ、親海さんは結婚しても一人取り残されてしまうって事?

「で、でも子供が出来れば……」

寂しくはないんじゃないの? そう続けたかった私を見てうんざりしたか呆れたかの様に薄く微笑んだ。

「子供が出来たとして、どの程度遺伝するかわかりませんし、体に霊力がついて行けず生まれる前に亡くなってしなう可能性が高いでしょうね」

ふと、遠くを見るような瞳。周りが結婚を進める中でその結婚を阻止した『魂欠け殺し屋』、結婚できないということを知らしめたことで、この男もまた同じ運命を背負っていることを思い知らされた。

「圭介はいつも未来を見ているね。それなのに僕はいつも浅はかで甘い。

 わかったよ、結婚はしない。それでいいかな?」

親海さんは少し俯いて細く力のない声で返事を返した。

「分っていただけたようで結構です。

……でも、恋くらいはしてもいいんですよ? 恋はやがて失ってしまうものですからね」

そうか、親海さんって周りがさせないんじゃなくて、元々結婚できないのか。


しんみりした空気の中、ご住職が唐突に口を出す。

「しかし、結婚してもすぐ離婚することもあるし、死別することもある。そう身構えなくともよいのではないかね? ……愛してなくても恋して結婚してもいいし。そもそも昔は結婚式の式場で初めて会ったということも少なくなかったそうだから」

雰囲気ぶち壊しだ。

「え、ええっと………………そうですね。……………檀家さんにもそういう方いらっしゃいますしね」

何となく言い辛そうに親海さんが口を開く。

「親海さんとしてはそれでいいの?」

「あ、えっと…………………ごめんなさい。僕もそう深く考えていたわけではなくて……」

視線がそわそわと下をうろうろ上をうろうろ、これはきっと邪魔者対策をしてから相手を探すつもりだったわね。

「その、早く結婚しないと子どもの進学とか老後の事とかあるだろう? 最近就職している同級生が次々に結婚していくし…………まだ結婚しないの? とか言われて結構プレッシャーだしで」

つまり、外圧に負けているのか。

よし! アプローチしてやる。子どもはできないかもしれないけど、性格からいって老後の面倒は見てくれるでしょ。子どもが無ければ養子でもとれば家族になれるわ。

「親海さん! 現実を見ましょう!

まず、私以外は男です! 体が変化しても戸籍がありません!

次に、私だったらいろいろと状況を知っています。遅く帰ってきたからって「女がいるでしょ」とかになって夫婦別居になんてなりません! それに退魔師なのである程度は身を守ることもできます。

子どもは養子をとりましょう。できれば実子がいいですが、無理なら潔く諦めましょう」

出来るだけ理論整然と言ってみた。

「あ、ありがとう。でも、君の方の事情は?」

きっぱり言い切ったためか、親海さんは若干引き気味だ。

「もちろん両親をはじめとする外圧が重いからです! 利害は一致していますよね?」

「確かに。いいのかい?」

「いいんです。私はこの仕事に生きがい感じていますし、何も知らない男と結婚させられてとやかく言われたくないんです」

親海さんの性格ではやはり、はっきりきっぱりカッコよく言うのが効果的だろう。

「わかったよ。じゃあ、契約って事で、一つよろしく」

にっこり笑って右手を差し出してきた。

「わかったわ。表向きは結婚だけど、これは契約って事で」


後になって思えば、いい契約だったわ。

妖怪ども(柴・栗・高崎君)は何かしでかせば親海さんが怒ってくれる。

『魂欠け殺し屋』も親海さんにだけは頭が上がらない。

師匠のジャン神父とは関係も良好。

妖怪ハンターの仕事を終えて帰れば(ちょっと妖怪臭いけど)あったかいご飯。

そして優しい親海さん。


変だけど楽しい毎日。

次女で身軽な私はそのままアパートを引き払って親海さんの大きな家に押しかけた。親海さんは書斎を提供してくれるから、寝る場所には困らない。

仲の悪い親・親戚たちにも二十五過ぎて嫁に行かないなんて、っていう嫌味を言われなくなった。





これが最終話です。

読んでいただき、ありがとうございました。

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