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僕に妖怪  作者: 氷雨
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僕は結婚できない(二十五歳~三十歳)

結婚したい親海君の遍歴(?)をまとめてみました。

容姿は普通だ。

収入はそこそこ。一応サラリーマンで安定しているため、現実的な相手ならそれなりの価値になるだろう。

タバコ・ギャンブルはしない。

多分DVドメスティック・バイオレンスもしないはずだ。

家は築五十年だが持ち家だ。

両親と九歳下の妹・十歳下の弟は新築(といっても十七年前だが)した家に別居している。

動物を飼っているが、同じく動物好きなら問題ないはずだ。


見合い話もなかったわけではない。

事実、友人の妹や姉を紹介されたこともある。

しかし、現実問題として、結婚はしていない。

なぜならば、(そう、なぜならば、と理由はわかっている)柴と栗が家に他人を入れないのだ!

一度は噛み付かれた女性もいる。


「柴! 栗! そんなに家に誰も上げたくないなら、最初に言え! 僕が出て行く!」

噛み付かれた女性に謝り倒した僕は、疲れきって怒鳴った。

「家に入れるのは構いませんよ」

「そうそう、相手が嫁さん候補でなければ」

ケロリという二匹に悪びれた様子はない。

確かに、男友達が来ても何も言わず放っている。

「お前たちは僕がお嫁さんもらうのがそんなに嫌か?」

顔は引きつったが、声は呆れ気味だ。

「心配するなって。俺が成長したら嫁さんになってやるから!」

「心配しないでください。私はもう立派にあなたの妻です!」

栗は現在六ヶ月、人間で言えば十歳くらいか。確かにまだ仔猫の域だな。

柴は家事一切をこなす。確かにやっていることは専業主婦並みか。

気が遠くなる中でぼんやりと考えた。

そのうち二匹で喧嘩を始めた。

この二匹、本気で僕の嫁になるつもりか? お前らオスだったはずだよな?

やはり、妖怪になった後で二度目の去勢しなかったのが拙かったか。

「やめんかー! オスだろうが。嫁だの妻だのになる資格はなーい!」

もう出て行こう。どこぞの精神科医が言っていた、ペットは話さないからこそ可愛いって。

そのとおりだと思う。僕がまだ二十五歳の時だった。


うちが妖怪屋敷だと知っている友人Aがいたく同情してくれた。

曰く、外で会ってばれないうちに結婚すればいいから、と。既成事実さえ作れば引き下がるだろうと。

友人Aは親切にも彼女も紹介してくれた。僕が二十七歳の時だ。

「親海さん。ごめんなさい。私、好きな人ができたの」

結論から言おう。友人Aの作戦は失敗だった。

最初から二匹は知っていたのだ。

そして報復に出た。

僕には「柴が彼女を誘惑して別れさせる」ということ。

柴は人型になると、精悍な美青年だ。平凡な僕ではかなうべくもない。

友人Aには「栗が彼女と別れさせる」ということ。

栗は人間で言えば二十五歳くらいのはずだが、人型になると甘い美少年系で甘え上手の上、人心把握が得意だ。同じく平凡な友人Aがかなうはずもない。

「すまん。俺にあの二匹は天敵だ! 言い出しといて何だが、この話はなかったことにしてくれー」

号泣しながら友人Aは去っていった。数年ぶりに出来た彼女を取られ、いたく傷心したらしい。


うちが妖怪屋敷だと知っている友人Bが笑って妙案をくれた。

「なら、霊感のある女がよくね? 妖怪と直接対決で!」

と、のたまってくれた。

霊感があれば、きっと話し合いで解決できるだろうとの配慮だったはずだ。

しかし、やはり、期待するものではない。

やって来たのは妖怪バスター系の女性。仲良くしてくれればいいものを、敵対心バリバリである。

「いや、退治してほしい訳じゃなくて」

「いいえ! 退治するべきよ! 可愛そうに、長年一緒に暮らして洗脳されちゃったのね」

強気な姉御系の彼女は、柴と栗を徹底排除しようとした。

しかし、柴のしゃもじに敗北を喫した。

そう、しゃもじである。ご飯をよそうための調理器具である。

それなのに、折れもせず、彼女の護符を粉々にして、本人をノックアウト。

哀れな彼女は再戦を誓って、修行に出て行った。

「ごめんな、力になれなくて」

ハハハと弱弱しい笑いを漏らす友人Bは、二匹からきっと何か報復されたのだろう。

ごめんと言いたいのは、こっちのほうだ。


うちが妖怪屋敷だと知っている友人Cが言う。

「もう、男要らないけど子供だけ欲しいとか言う女はどう? 付き合わずに精子だけでいいぞ」

段々周囲も二匹の危険性を認識してきたらしい。

しかし、これもまた、僕の知らないところで二匹が精子男を用意したらしい。

どこで見つけてくるんだ、お前ら。


うちが妖怪屋敷だと知っている明新は、そんな僕を哀れみつつ、

「いっそ強い妖怪の女引っ掛けたほうがいいんじゃないか? 妖怪と結婚する話はけっこうあるし」

と言い放った。最近のことだ。

そういう手もあるのかー。なんてのんきに考えていたところ、両サイドから怒られた。

「そんなこと、絶対させません!」

「なんてこと言うんだ! 妖怪は全部排除しているのに!」

憤慨したのは柴と栗。お前ら、妖怪の女も排除していたのか。

「親海サマのお嫁さんなら僕もなりたいです!」

そんな宣言をして二匹にノックアウトされたのは高崎君。君解っているの? 僕も君も性別男だよ?

「俺より霊力が高くないと認めません!」

圭介、『魂埋め』できるのは日本中探しても片手で足りるほどしかいないのは知っているだろ? どんなハイレベルな女求めているの? しかも僕に。


そういう訳で、僕が結婚するのは当分無理だろう。

少なくとも柴と栗、高崎君と圭介を説得するまでは。

ああ、何でこんなことに?



結婚したい、と言いながらも受け身で積極的ではない親海君。

次回、最終話です。

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