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砂塵の中で

 正面に天帝が着座した。

 華麗な衣装の、どこかに神経質そうな気配を漂わせた人は三人の天将をこの大広間の中央に迎え、三段ほど高い所にいる。その位置から面白そうに見つめた視線が、帝釈天の上で止まった。宮毗羅と摩利支天はその場に膝を折り、礼をとったが帝釈天だけはその場で軽く頭を下げただけである。いつものことながら、この天将の態度は片腹痛いと思える。

 気に入らねば誰が相手であろうと決して膝を折らない。いったいこの男は誰に対してだけ礼をとるというのか。

 (気に入らぬな・・)

 天帝の思惑なぞは百も承知のこと。帝釈天一族なればこそ、それが許されてもいる。

 顔立ちが端正なだけに、余計にその態度がふてぶてしくさえ見えているだろう。

「既に蓮華王が動いている。三将もこれに続き鬼道を討て。一人も余さず討ち果たせ。特に鬼道の長。姫頭領・薫は生かしてここへ連れてまいれ。」

 現姫頭領・薫を生かせとは、早い話が側室にでもするつもりであろうか。三人同じことを考えてはいたが、それは口には出せない。

 

「帝釈天よ、そなたにはもう一つある。」

 下げていた頭を上げた帝釈天の顔を見て、天帝は意地の悪い微笑み方をした。

「そなたが庇護しておる鬼道の娘、あれを処分せよ。生かしておいてはためにならぬわ。」

 それは明らかに帝釈天の態度を楽しんでいるのだろう。ここでそれを拒否すればそのまま、反逆者である。

「お言葉を返しまする。あれはまだ十五の子供でございます。しかも、鬼道の子として何の力も持たぬ非力な生まれつき。決して陛下のお立場の妨げになるものではございませぬ。」

「今は十五でも、やがては年を重ねよう。その時あれがどうすると思う?蓮華王は十四の歳で一族を粛清し、家督を継いだぞ。ましてや、鬼道の次期姫長なれば、謀反に走るは必定。否やはないと思え。鬼道の娘、その手で処分せよ」

 言うだけ言うと、天帝は帝釈天の反論を許さぬかのように、三人に背を向け、さっさと広間を出て行ってしまった。長居をすれば帝釈天のこと、論で押してくることを承知しているからだ。


「陛下の言うことも、一理あるな」

 立ち上がり帝釈天に並んだ宮毗羅はこともなげに言う。

「あの姫にその器量があれば、そなたの育て方が間違いではなかったことの証明となろうし、それゆえに、哀れな末路ということもある。」

 どちらに転んだとしても、末は、平穏では、ない・・・

 謀反人として一生追われる生き方が、あの姫にできるだろうか?

 それができねば、今この手で始末をつけてやったほうがよいのか。

 王宮を出て、全軍を指揮するために馬上の人となった帝釈天は、おそらくまだ帝釈天王宮にいるであろう、修理姫の身の上を思った。

 それと同時に、あの貴公子の声も思い出す。


「修理ひめが、泣いてもか?」


 そう言われて、答えることもできなかった。我ながら情けないことだが、あの姫に泣かれることだけがつらいと思う。

 (これは、恋か?)


 天軍を率いながら、軽く唇をかみしめ前方を見つめる帝釈天の横顔を摩利支天は窺う。

 時折吹く風が、その長い黒髪を舞いあげる。鬼道やかたはここからそう遠くではない。

 (このお方の心には、あの姫しかいない・・そんな姫を手に掛けることなぞ、出来はせぬ)


 黒煙がたなびく鬼道やかたは既に蓮華王の軍に囲まれている。子供たちですら、鬼を操りながら

女たちの奮戦は続いていた。

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