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それぞれの思惑

 天帝の呼び出しを受け、帝釈天、宮毗羅、摩利支天、三将が揃って王宮へ入ったことは、宮中内部に動揺を起こした。導かれて王宮内を歩く三人の前方から、甲冑姿の青年が近づいてきた。白銀の甲冑がよく似合う青年は三人を見て、わずかに眉根を寄せる。帝釈天の前に優雅なしぐさで、膝を折る。

「蓮華王、そのなりはそなたの軍がすでに動いているということか?」

 問いかけに、軽く頭を下げるのは蓮華王。摩利支天と同じ年ごろだが、既に一軍を率いる天将である。

「そなた、これが何を意味するか、分かっていような?」

 その言葉に、少し笑ったように見えた。

「陛下のご下命にございますれば命に従いまする。天軍の将であれば当然のこと・・」

「鬼道は、女子供しかおらぬ。それでも行くか?」

「これは、帝釈天さまのお言葉とも思えませぬな。天軍が動く以上は、相手がなんであれ、打ち滅ぼすが鉄則。貴方様も、その命を受けに参られましたのでしょう?」

 このまっすぐさが蓮華王の持ち味ではあるが、一方では、危うさでもある

のだ。が、時に帝釈天にすら挑戦的な態度をとるこの天将が嫌いではない。

 一礼して足早に去る後ろ姿を見送る。

「あやつにやらせては、間違いなく鬼道を滅ぼしつくすであろうな・・・」

 宮毗羅の指摘はおそらく正しい。それだけの前歴が蓮華王にはある。

「我らとは違いましよう。蓮華王は自らの手を血に染めて家督を継いだものですから・・そのくらいのことはなしましよう」

 摩利支天は幼いころから蓮華王を知っている。

 蓮華王一族の家督争いに巻き込まれ、殺されかけたことすらあると聞く。

 それは自分たちのような、何の異論もなく一族の頂点に立った身には理解が難しい。それゆえに蓮華王にすれば、我々のほうがずいぶんと甘く見えるのだろう。再び歩き出した三人は無言である。

(帝釈天さまは、何をお考えであろうか?)

並んで歩くその人の背後から、突然人が抱きつくようにして、脚を止めさせた。振り向いた帝釈天の黒曜石のような甲冑の胸にしがみつく格好になった少年がいた。

「律君さま!」

 長身の帝釈天の顔を見上げる少年に、宮毗羅と摩利支天はあわててその場に膝をついた。

「帝釈天!父上をおとめしてくれ!そなたならできようが?」

優しい顔立ちの貴公子は嫡子である皇子・律。その顔立ちに似て気性もまた優しい少年だった。

「鬼道と戦うことがあってはならぬ!!第一の将であるそなたの言葉なら父上とて、無碍にはできぬであろう?」

 優しい手つきで律君の体を胸から離してから、少し困ったような表情を見せる帝釈天

「私は天軍を預かる一介の将にすぎません。ただの武人にそのような力はございませぬ」

 その言葉は跪いていた宮毗羅と摩利支天の上に、意外な言葉として降って来た。思わず見上げた帝釈天に律君はなおも言いつのる。

「その言いよう卑怯ではないか?あなたは、逃げぬお人であろう?それを、その言葉で逃げるか?」

 帝釈天に対して「卑怯」などという言葉を、投げつけられるものが他にいるだろうか?

「ただいまより、われら三将、陛下のご下命を賜りにまいります。律君さまには御心お静かに、お過ごしあれ」

 律君の後を追いかけてきた侍女たちに、その体を渡し奥へと向かうため歩きだしたときだった。


「修理姫が、修理どのが・・泣いてもか?!」


 わずかな戸惑いの時間だったかもしれない。半分泣いている律君の声は帝釈天の足を止めることはなかった。

 帝釈天の後に続きながら、宮毗羅はその顔を窺った。

(一番痛いところをぐっさりと律君は、恐れ気もなくついてきたものだな)

 感情を消し去る帝釈天の黒い瞳は何を考えているのか、わからない時がある。ただ一点、「修理ひめ」のみが、この勇将を突き動かす。

 この事態で、その少女がどう動かしてゆくのか、宮毗羅はそれが少し楽しみな気もしていた。


(あの、イモムシの君がどう変体してゆくか、見ていようぞ・・・)

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