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総角童子


約一月ぶりに帰ってきたその人は、少しも変わらぬ態度で自分の前に立ち、いつもの笑顔でポンと肩をたたき一言


「世話をかけたな・・許せ」

と言ってくれた。


 総角童子の前を行く人。戦場を離れて人界へ降りていたこの人はその人に会えたのだろうか?

 長身は今、こうして天帝の呼び出しに応じて天宮の長い廊下を歩いていた。

「ご無事であれば、それだけでよいのです・・」

 泣きそうになっている自分に気が付いて、総角童子は戸惑っていた。


 あの姫はそこまでされるほどの存在なのか・・と・・

 帝釈天と言えば天界第一と称されるほどの人。わが主として誇りに思う人である。

 それが、自分の目から見てどうしても納得はできないのが、あの妙な姫の存在であった。とにかく不器用と言われていた・・女の子なのにである!


「あそこまで不器用だと、見ていて面白い・・」

 よく十二神将一族の長は笑いながら言っていたが・・蹴躓く、落ちる、割る・・

 とにかく何かしらやらかす毎日が、普通の日々であったのだが・・


 はっきり言えば、あの姫に比べればはるかに自分のほうが器用に何でもこなしてきたつもりである。だからこそ主人に信も置かれこうしてそばに仕えてもいるのだ。 それなのにあの姫のことになると主人は自分の知らない人のようになってしまうのが、理解できない。

 もう一つあるのは、あの不器用な姫に比べれば王宮の奥に住まいしている美しいお方のことがどうしても気にかかるのである。

 自分はそのお方のことを「奥方様」とお呼びしているが、どうもそういう存在でもなさそうな・・あのお方「真志保さま」

 そのお人のことは兄弟である善哉童子も知っていた。だがどういうわけか、善哉童子はあの不器用な姫に肩入れしているような気がしていた。

 双子に生まれてきたが性格はまるで違う。ヘタをすれば主人でさえも叱り飛ばしかねないほどに剛毅なところがあり、そのくせひどく面倒見の良いところのある少年だった。繊細と言われる自分ではなく、その性格を買われて今は人界にいるとか聞いてはいるが・・


 その善哉童子が、あの姫のことを以前に

「あのお方は、ただの不器用や注意力散漫なのとは少し違うような気がする・・」

 そう評したことがあった。何をもちそのように感じたのか自分にはわからなかったが、ただそのすぐ後にへらっと笑ってから


「いや、あのお方のことゆえ、ただの行き当たりバッタリかもしれないなあ」

 そう言い放ったことがあった。

 そういうことの嫌いな自分にしてみれば、どうしても好きにはなれないタイプの少女だったのだ。あの鬼道の修理という姫は・・


「まあ、あと四年もしてみよ、あれは化けような・・」

 とは、宮毗羅さまの言葉ではあったけれどそれがどういう意味かは、総角童子にはわからない。


 そんなことを考えながら前を行く人の後をついて歩いていた総角童子の視界を突然、、紫色した薄物が覆ったかと思うと


「総角、しばしそこで待て」

 という帝釈天の声がした。頭から被せられた薄物をはぎ取った総角童子が見たものは、豪奢としか言いようのない黄金の髪をした人に腕をとらえられて、円柱の蔭へ連れ込まれてゆく主人の姿であった・・



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