5、学校の話はあまりしたくない
学校ではいつもボッチだった。
ボッチという言葉の意味について、ここで説明するつもりはない。
それは、学校の話を人前で口に出したくないのと相違ない。
青葉道学園は、街を通り越したそのさきにある。
つまり自宅マンションと、青葉道学園が、仙台の中心街をはさんでいるような形だ。
青葉通りという道が仙台の街中にはあるが、学園の場所はそれとはまったく関係がない。
青葉道学園に到着したぼくは、駐輪場に自転車を停めて校舎に入る。
教室につき、時間が来て、朝のホームルームがはじまる。
それがおわれば、こんどは授業の開始。
授業は様々つづき、昼食をはさみ、またつづく。
そして一日の時間割が終わると、掃除の時間だ。
今週の掃除は、廊下だった。
ぼくはホウキを持って廊下掃除をはじめたが、ほかの生徒たちのすがたはない。
ぼく以外の男子たちは、廊下のむこうでゴムボールでキャッチボール。女子たちの行方は知らない。
かなり憂鬱な時間だ。しかし、ぼくのところだけがそうなのではない。
けっしてぼくはだれかにイジメられているというわけでもない。
ただただ、掃除をサボる生徒たちがおおいだけの話なのである。
そのなかで、ぼくともうひとりだけ廊下掃除をはじめた人がいた。
うちのクラスの学級委員で、学園の生徒会長・立切リイコさんである。
立切リイコは、ホウキで床のほこりを掃きだしながら、突然、ぼくに話しかけた。
――ここでひとつ、補足すると、リイコさんはよく、いつもボッチのぼくを学園業務に利用する。まさにぼくは、彼女のお手伝いロボットだった。
……まあ、とはいいつつ、そんなに彼女と関係が深いわけではない――
「シュウヤくん」
「は、はい……」
なぜかリイコさんと話すと緊張する。
きっとリイコさんはぼくよりも地位の高い存在だからだろう。
「どうしてサボったりするのかしら……」
「そ、そうですね……」
リイコさんがふと、ホウキの手をとめ、ぼくの表情を怪訝そうにのぞきこんでくる。
「な。なんで、すか……」
「なにかあった?」
リイコさん、ぼくの顔色の変化に気づいたのだろうか。
たしかにぼくの顔色は、変わっていたことだろう。
いつもどおりの退屈な学校の時間。
しかしそれがおわり、自宅に帰宅すれば、今日はユウたちがいる。
それが、ぼくは、本当はうれしかった。
ユウのたすけにはなれないが、ぼくはふたりの存在が帰宅すればある、というだけで、すこし気持ちが楽だった。
その安心感は、まるで友達を持った気分だった。
「な、なにもないですよ……」
と言ったぼくの顔は、おそらくゆるんでいたことだろう。
「シュウヤくん」
「は、はい……」
リイコさんはすこし恥ずかしそうに、こう言った。
「いつもいろいろ、手伝ってもらっているから、なにかあったら、もしも、わたしなんかでよかったら、相談、しても、いいからね……?」