2、路地裏(2)
なぜ、突然、体が宙に浮かび、消えたのか。
まったく、想像のつかないことが、起こったのかもしれない。
だが、なにが起こったのかはわかるはずもない。
気づくと、違う道にいて、ぼくは飛んでいた。
いや、飛んでいたのではない。
宙から、宙へと、移動したにすぎない。
ぼくは、叫ぶ 。
「ああああああああ……!」
走るおとこたちの頭上に、落下する。
――流星ダンス。
あたまのなかに、声。
だれの声なのか。
紳士的なおとこの声だ。
その声がなぜか聞こえる。
そして、もういちど、
――踊れ。
ぼくは、地面に着地して知らぬ間に体験したことのないカポエラのようなダンスをおどっている。
体が、かるい。空気のように動く。知らないダンスだというのにおどれる。
地面に転んでいたおとこたちが、立ちあがる。
みんな、ぼくのことを、おどろいたような顔をして 見てくる。
ぼくが突如、あらわれたことにおどろき、そしてダンスをおどりだしたことにおどろいている。
ぼくだってわけのわからないことが起こっている状態なんだ、どうホモトリオに声をかけたらいいのか わからない。
逃げ出したかった。
本音を吐くと、逃げ出したかった。
しかし、逃げ出せなかった。
体は、勝手にダンスをおどっていた。
「……さっきの少年か」
おとこのひとりが、言った。
ぼくは、おとこたちから妙な疑いをかけられないか不安でしかたがない。
「まさか!」
おとこが、手のなかのネックレスの石を見る。すると石が赤くひかりだした。強いひかりだ。強烈なその石の眩しさにおとこは目を眩んだ。
「うう……」
たん、たたん、たたたん――
水溜まりを避けるように、ステップを踏む。
おとこに近づき、片腕を突き出す。
「あぐ」
ぼくの手が、おとこのみぞおちを捉えて、突く。
おとこはよろめき、ネックレスをとりおとし地面にたおれる。思った以上だった。思った以上のちからで、ぼくは、おとこに、攻撃を仕掛けた。いったいどうなっているんだ。体は勝手に動く。左右のおとこたちが声をあげる。「能力者だ!」「石を使えるっていうのか!」。ふたりは、サバイバルナイフを取り出す。ぼくは足がステップを踏むなかで、嘘だろう、と思っていた。しかしそれでも体は踊りつづける。おとこたちがおそってくる。その一手一手を巧みに避けながら、ぼくは左右のおとこたちも突き飛ばす。背後からあの美少女が駆けてくる。
「すごい!」
少女は言う。
「(流石を使えるなんて!」
「流石?」
いつの間にかぼくは手にネックレスを持っていた。
「とにかく逃げよう!」
「え」
少女に手をとられ、走り出す。
ぼくはわけのわからないまま、ただ少女についていく。
感動的なシーンだったし、この機会をのがすわけにはいかなかったのだ。
内心、ぼくはたのしくて仕方がない。
「あいつらはしつこいから!」
「あいつらって、さっきの人たちのこと?」
「そう、わたしはねらわれているの!」
「ねらわれてる?」
そんなありふれたフィクションみたいな話があるのか?
けれどぼくは美少女の言うことだから信じたい。
「詳しいことは、あとで話す! その流石をうばわれるわけにはいかないの!」
「わ、わかった……」
本当はまったくわかっていなかった。
「と、とにかくにげればいいんだね……?」
「うん……」
少女の返事が、すこし遅れた。
なぜ、遅れたのか。
ぼくは、首をかしげる。
しかし、ほおをゆるめる。
少女のうなじからただよう甘いにおいが、ぼくを、犯す。