三流ドラマのような人生。
ドラマのような人生。
それは、一度は憧れたことがあるかもしれない、そんな人生。
自分の人生、平凡で何もないと思う人はいるはず。
でも、ドラマのような人生って言っても、これは三流ドラマのような人生。
三流ドラマがなぜ面白くないか?
深くは考えたことはないけど、こんなこと、起こらねーよ・・・みたいな、共感できない点が多いから?
あるいは、あまりにも似たようなストーリーが多くて、先が読めてしまうから?
私は恐らく後者だと考える。
これは、そんな、たいしておもしろくもない人生を送ったことのある人たちの話。
・・・ずいぶん前、恋に恋するような女と、女はナンパしなきゃ落とせないと考えている男がいた。
女の名は、上ヶ崎 幸。
男の名は、保田 鉄也。
幸のルックスは、幸の性格とは異なり、当時で言う不良少女のようだった。
純日本人であるにもかかわらず、もともと茶色い髪の毛、クセッ毛でパーマと間違われる髪型、強そうと勘違いされる高い背。
それにもめげずに「遊んでそー」という噂を潜り抜けたとき、彼女は、鉄也に会った。
鉄也も当然彼女は、遊んでいそうな女として映った。
ナンパすれば3日もせずに落とせるだろうと踏んでいたのだが、彼氏に振られ、一途に彼を想い続けていた幸が3日で落ちるはずもなく、二人は友達として3ヶ月以上そのまま発展を見せなかった。
最初の出会い。
お互いの印象は、軽そうな男と、軽そうな女。
*
やがて二人は結婚し、それなりに幸せな生活を送っていた。
だが、ある日、幸が家に帰ると、電気も水も止まって出てこなかった。
わけが分からずに鉄也に尋ねると、鉄也の机の引き出しから請求書の束が出てきた。
今まで払われていると思っていた水道代と電気代は、全く払われていなかった。
慌てて払われていなかった分のお金を払い、いつも道理の生活に・・・戻れるはずもなかった。
見たこともない、知りもしない男たちが家を見張り、車を見張り、毎日家のドアを叩いた。
借金取りから逃れる生活が、始まったばかりだったのだ。
郵便物はもっぱら請求書。
鉄也は、ブラックリストにまで乗り、一日しか知り合っていない人の車の保証人になり、その人に逃げられ、まんまと50万程の借金をかぶされた。
さらには飲酒運転で、事故を起こし、怪我人もいないような、軽い事故だったが、刑務所に2日ほど放り込まれた。
二日で済んだのは幸が涙ながらに必死になったからだろう・・・色々と。
やがて二人の間に一子が誕生すると、今まで生活していた場所からマンションへと引っ越した。
6階で、日当たりもわりといい部屋だった。
娘がだんだん二足歩行ができるようになると、よくエレベーターに指を挟ませ、泣き付いた。
鉄也の借金も昔ほどひどいものはなくなり、借金取りに追われる日々もなくなっていた。
娘はすくすく育ち、小学校二年生になったとき、家の掃除をしていた幸は、パタリ、と洗濯機から鉄也の手帳が落ち、そこに鉄也と仲よさげに肩を抱き合って笑っている、知らない女が映っていた。
しかも、その写真一枚だけではない。
一通り、全部の写真に仲良くその女と鉄也が移っていたのである。
しかも、鉄也のつくってくる借金は、幸が地道に返していた。
幸は離婚を決意すると、鉄也と口論になった。
そんな姿を娘の咲は見ていた。
咲には幼すぎて、なぜ二人が口論しているのか、なぜ幸が泣いているのかわからなかった。
だが、子供ながらに不穏な空気を察知していたのだろう。
ドアの隙間から覗きにいっては、幸に怒られ、泣いて眠る、そんな生活が続いた後、幸は家を飛び出し、しばらく母親の家に住むことになった。
咲にはわけが分からずに「パパは?」と尋ねたが、幸は、「パパは来ないよ。」といい、祖母は怒るばかり。
鉄也は以前、いきなり祖母の家から怒って出ていった事があった。
おおよそそんなものだろうと考えた咲は、それ以上聞くこともなかった。
咲が、離婚の意味を知るのは、後一年後の事である。離婚し、母子寮に入り、鉄也と再会したとき、咲は、離婚の理由を知らなかったが、鉄也に「結構しないでね。」と言っていた。
鉄也もそれにうなずいた。
今思うと、忘れて欲しくなかったのだろう。
幸の存在と、自分の存在を。
その時の空模様は、今でも覚えている。
明るいライトグレーの曇り空だった。
まるで心境を表すようだった。
鉄也と咲の間で続いていた交換日記は、鉄也の方から連絡が途切れ、荷物が送られてきた。
それは、咲の時計や、ぬいぐるみなどだった。
なぜ送られてきたのか、咲には理解できなかった。
ただ、幼い頭で、“無いと不便かと思って、送ってくれたのかな?”と思考をめぐらせていた。
一年後、咲が小四になったとき、鉄也からの保護手当てが打ち切られた。
咲は、鉄也のケータイにたまたま連絡を入れたが、電話に出たのは知らない男の人だった。
咲が小五になると、引っ越しをした。
小六に虐めにあった。
咲が中一になり、冬に幸がこたつの中で動けなくなった。
腰痛・・・ヘルニアの発症で一ヶ月近く入院した。
たぶん、相当無茶をしたのだろう。
中学校二年生になって、また引っ越しをした。
学校が変わり、中三、転校生だと虐められた。
幸は、仕事があわずに体調を崩した。
高校一年生になり、ようやく安定してきた生活かと思いきや、幸の彼氏が家に上がり込んできた。
咲にとっては、基本的にどうでもよかったので、放っていた。
幸の体調も回復していて、ヘルニアの再発を気をつける以外は元気に動き回っていた。
が、ある日彼氏のケータイにメールが来て、冗談半分で開くと、どう考えても彼女からとしか受けとりようのないメールが来ていた。
メールアドレスは、どれもむき出しで、名前はなかったが、どれも彼女としか思えないようなメールが多かった。
彼氏は一応土木建築業の社長で、借金を返すまで妻とは別れられないと言っていたが、このメールからすると、20代後半~50代までより取り見取り。
彼女と思われる女の数は推定20人。
中には自分の浴衣姿をメールに添付しているものまでそんざいしていた。
すべてのメールを証拠として写真に残すと、彼氏の荷物を全て外へ出した。
やがて荷物を持っていかないので車に詰め込み、着信拒否をした。
着信拒否した後、咲が迷惑な目にあっていた。
ひょっこり窓から顔出し、彼氏はしつこく「咲に迷惑かけた!謝って!って言われたんだけどさ、俺、咲に何かした?」と聞いてくるではないか。
「知らない。どうでもいいよ、自分達の問題でしょ。自分でなんとかしてよ。」
「なぁ、迷惑かけた?」
「知らない。」
「迷惑、かけた?」
「別に。」
「だよなぁ、なのに謝って!って言われても。」
「もういいから、おやすみ。」
そんな調子でグダグダと続き、追い出すことに成功すると、次から続いたのはまるでストーカーのような行為だ。
咲に取り入ろうとマンガを家に置き、幸がそれを捨て、咲にメールが届く。
咲は、どうでもいいと思っていたが、ついにイラッとして、“幸ちゃん、(彼は幸の事を幸ちゃんと呼んでいた。)着信拒否したい。”と来たので、“あっそう。だから?だいたい、日本語おかしい。着信拒否したい?どうぞ勝手にすれば!?”と送ったにも関わらず、まだメールが来るので、この際、きっぱりと“自分達の問題でしょ。そこに他者を介入しないでよ。私を通じて何かしようとしないで、面倒くさいし、私には関係ないから。”と送り、後のメールは無視した。
無視しても来るメールに、ついには着信拒否をした。
すると、今度はパソコンからと思われるメールが届き、それも着信拒否すると、今度は家の電話に電話が来たので、幸が着信拒否設定をなんとか調べあげて、着信拒否すると、まだ届られるマンガに、ついには警察へ行った。
警察へ行ってからしばらく安静な日々だったが、道路で警察に注意されたはずの元彼氏が「幸。」と呼んだのである。
注意の中には、呼ぶことも禁止。と言うのが会ったはずだと幸は警察へ乗り出した。
ここまでくると、立派なストーカー行為だった。
警察は、「明日から家の周辺を巡回しますね。」と答え、ようやくこの件は一段落した。
咲が高校二年生になったとき、幸はヘルニアが再発しかけた。
それ以外は、たぶん、ここで一段落したのだろう。
今は一応安静に暮らしている。
そして、これから先、もう何もないと信じたい。
ただ、平凡に生活が送れると、そう、信じたい。




