微笑むのは 下
赤陣営の纏まりは早かった。さっそく学級委員長のような、リーダーのようなものが数名集まり、まとまりを見せていた。
「このゲームは罠だ!争いを起こさせ、賞金を取らせないようにしている。賞金が後々必要になることは明白で、お金があればエージェント・ジェネシスの入団テストを受けられることも事実だろう!?」
多くのものは賛同しているがやはり何名かは納得していないようだ。いや賛同している中にも裏切りがいるかもしれない。ましてやリーダー達が裏切るかもしれない。これは集団ではなく個人戦だ。
ふと横を見るとあの生徒指導室の帰り道にすれ違ったあの子がいた。髪型はポニーテールで纏められ、髪色は黒髪に紫色が混ざったツートンカラーをしている。物静かで美しい様な印象を受ける。私は声をかける。
「わたしはやえい。あなたの名前はなに?」
「私は花雨。どうかしたの?」
「何か、考えがあるのかなーって」
「よく分かったね」
「この状況、どう思う?」
「あまり良くない。この後争いが起きて一人大怪我する』
「??どうして分かるの?」
「秘密」
花雨はそう言うと人混みの中を分け、どこかへ行ってしまった。
私も話しに参加する必要が無さそうだから後を追うように抜ける。
本館に入り、図書館で勉強しようとするとメリッサが立っていた。
「どうしたの?メリッサ。待つように立っているなんて」
「言いたいことがあるからよ。周りの人間を信用し過ぎなさいことね」
「...それよりエージェント・ジェネシスってなに?」
「エージェント・ジェネシスって言うのは貴方たち生徒、エージェントの中でも優秀な人達で固められたグループよ。この学園の大きな勢力。あのお酒大好き人間もエージェント・ジェネシスに入ってるわ」
「ルジェも?!」
「えぇ、私が直々に魔法を教えたのだもの。ならないとおかしいわ。」
「そうだったんだ...」
「貴方もエージェント・ジェネシスを目指した方が良いわ。なれば他の国に行けて、より支援も多くなる。そうすればより両親の謎を解明できるかもね』
「わかった、頑張ってみる!」
「じゃあ二日後、あの草稿を手にしている姿で会いましょう」
エージェント・ジェネシス...学ぶべきもの、目指すべきものは多いそうだ。しまった。あの事を聞き忘れた。適正な魔法を教えてくれる儀式について聞かないと。
私はメリッサが向かった方へ歩く。角につきあたる時、声が聞こえてくる。メリッサとルジェだ。
「何度言ったってあれは魔法議会の代表者達で決めたものよ。取り消しには出来ないわ』
「あんな恐ろしい物、生徒の手に取らせる気?あれも一種の叛機よ?!」
「声を大きくしないで。叛機ではないわ。だから既に叛機を持っていたとしても大丈夫よ』
「それでもあの草稿は人を狂わすのに十分な力。それは貴方たちが一番はっきりわかっているはずよね?」
「残念だけど国の統治者と考えたものよ。たとえ貴方たちジェネシスであっても覆らない」
「どうしていきなり魔法議会や統治者は戦力を欲しがっているの?まさかあの噂を鵜呑みにしているの?」
「あれが噂であればいいわね。でなければ多くの死者がでるわ」
「私たち、エージェント・ジェネシスがいるから大丈夫」
「もし貴方たちより大きな××が××だとしたら?」
「...」
「私達の考え分かってくれとは言わない。ただ変えることは無理ね。」
「あの人も賛同したって事よね?...」
「えぇ、珍しく。」
「わかったわ。」
「あれが私たちの形見でもある事はわかってるわ」
二人は別々の方向に別れた。ルジェは私の方へと向かってくる。盗み聞きしてしまったのだ。隠れていた方が良さそうだ。私はそこら辺にある棚の後ろに隠れた。蜘蛛がいて辛かったが我慢した。
ルジェは外へと出ていった。私は彼女を元気づけようとついて行く。暗い中をどれほど歩いただろうか。大広場の下の練習場の下には森がありそこに入っている。
声をかけるタイミングが分からず、ストーカーしているようになってしまっている。
森の奥ら辺だろうか。少しだけ周囲が開けている場所がある。どうやら墓場のようだった。
ルジェはある墓の前にしゃがみ、何かを話しかけている。そして墓を綺麗にし、墓場を出ていった。
私はルジェがしゃがんだ墓の前に立つ。そこには『親愛なる貴女へ』と書かれており、名前は乗っていない。ただ死因は寿命ではなさそうだった。
足音が近づいてくる。私は咄嗟に近くにある木へ身を潜める。するとまた新たな人間がやってきた。中性的なその人は私が見ていた墓ではなく、奥の墓へと足を運ぶ。そしてルジェと同じように何かを投げかけているかのようだった。
私は闇に染まる気持ちで墓を後にする。私はこの試練を乗り越えることができるのだろうか。かさめからの不安な予告。まだ知らぬ過去。迫り来る明日。血が流れないことを祈りながら帰路につく。
お読みいただきありがとうございました!