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煌めく舞台の向こう側  作者: 海野雫
第二章 見えない絆
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2-2

 俺たちPRISMのメンバー五人は、たまたま全員が高校生だった。本格的にデビューに向けてのレッスンが始まると、事務所の方針で会社が提供する寮に全員が入ることになった。それに伴い、俺たちはみんな同じ高校へと転校することが決まった。


 転校初日、五人で登校すると、あっという間に注目の的となった。


「ほら、あの五人、今度デビューするんだって!」


「うわあ〜! みんなイケメン!」


「何年? 同じクラスにならないかなあ……」


 女子生徒の話し声が、嫌でも耳に入ってくる。


 ――他のヤツらはどうか知らないけど、俺は別にモテたくてアイドルになったわけじゃないんだよな……。


 心の中でぼそっと呟く。ちらっと他のメンバーを見ると、お調子者の海斗はひらひらと女子生徒に手を振りながら「PRISMをよろしく〜」とアピールしている。


 高校三年の陸は三年五組、高校一年の海斗は一年一組になった。残りの高校二年組は俺と翼が二年三組、悠真が二年四組だった。


 俺たちはまず職員室へ行き、担任と共に教室へ向かった。


 担任に続いて教室へ足を踏み入れると、きゃあと黄色い声が上がった。


「静かに! それでは今日、転校してきた二人を紹介します。桜井蓮くんと神谷翼くんです」


 俺たちは二人並んで「よろしくお願いします」とクラスメイトに頭を下げた。すると、教室内がざわめいた。女子生徒たちの視線が俺と翼に集中している。


「やばっ!」


「めっちゃかっこいいんだけど!」


 俺はその声を聞いて、思わず苦笑いをした。横目で翼を見ると、彼は笑顔を見せているが、目が笑っていない。


 そうだ。俺たちはこれからアイドルになって、ファンの女の子たちを楽しませなければならないのだ。こんなことで動揺なんてしていられない。


「桜井くんの席はあそこで、神谷くんはこちらの席に」


 担任が指定した席に座った。翼とは隣同士ではなかったが、お互いの距離を感じることができる近い席だった。


 休み時間、翼が俺の席にやってきた。


「クラスも同じになるなんてな」


「そうだな。悠真も同じクラスだったらよかったのに」


 俺たちは年も近いということもあって、リーダーに就任した陸の提案で、メンバー同士を下の名前で呼ぶことになっていた。


「でも、これも何かの縁かもな?」


 翼がニヤニヤしながら俺に言った。確かに、翼とはオーディションの最初から最後までずっと一緒だった。縁があると言ってもいいのかもしれない。


 俺が苦笑いしていると、周りから女子生徒の声が聞こえてきた。


「蓮くんの方が絶対素敵だって! あの透明感のある肌、女子以上だよ?」


「何言ってんの? 翼くんの方が絶対かっこいいって! あの男らしさがいいんじゃない」


 転校初日にして「蓮派」と「翼派」ができており、論争が始まったようだった。やいやい言っている女子生徒から目を逸らすと、俺と翼はお互い顔を合わせて困惑した。


「転校初日からこれかよ……」


「……だね……。でも、幸先がいいと考えようか……」


 俺と翼は二人、苦笑いを浮かべた。


 休み時間に廊下を歩いていると、すれ違う生徒たちの視線を感じる。特に女子生徒たちの反応は激しく、俺たちが通るたびに黄色い声を上げた。


「蓮くん、推していきます!」


「翼くん、頑張って!」


 こうして廊下を歩くたびに声をかけられるので、落ち着いて他のメンバーのいるクラスになど足を運べなかった。


 数学の授業中、俺は問題を解きながら何気なく翼に目を向けた。すると翼も俺を見ていた。目が合った瞬間、慌てて目を逸らしたが、なぜか胸がドキドキして収まらなかった。


 ――これは新しい環境に知った人がいる安心感からなのか?


 俺はこの胸の鼓動が何を意味しているのか分からず、シャーペンをぎゅっと握りしめた。


 昼休み、俺と翼は女子生徒たちの注目から逃れるために屋上へ行った。扉を開けると、そこには他のメンバーたちもいた。


「なんだ、みんな来てたんだ」


 俺が声をかけると、三人ともげっそりとした表情で頷いた。


「初日からやばい……」


 いつも元気な海斗から生気がなくなっていた。


「海斗、モテて嬉しいんじゃないのか?」


 翼がからかいながら言うと、半べそをかく。


「俺、まだそういう耐性がないんだってぇ」


 ぐずぐず言っている海斗の隣で、陸は落ち着いた表情で淡々と言った。


「デビュー前でこんだけ騒がれてるんだもん。デビューしたらもっと大変だよね」


 確かに、今はまだ学校内で騒がれているだけだが、デビューしたら多くのファンが俺たちのことを見てくれるはずだ。少しずつ、こういうのにも慣れなければならない。


「でも、いいことじゃないか。これだけデビュー前から注目されているのは」


 無口で冷静沈着な悠真がジュースを飲みながら言う。


「そうだよな。こうやってみんな同じ高校に通えることになったんだ。みんなでちょっとずつ慣れていこうよ」


 俺がそう言うと、みんな頷く。ついこの前まで普通の高校生だったのだ。デビューすることが決まって一気に色々と周りが変化して戸惑うことが多いのは当たり前だ。しかも俺は翼と同じクラスで、一人きりではない。二人でいると、大変だと思うことも乗り越えられるような気がする。そう考えるだけでも心が楽になった。


 放課後、廊下を歩くだけでまだ女子生徒が騒いでいたが、俺と翼は堂々と廊下を歩き、下校した。


「あの二人、仲良しだよね」


 そんな声が耳に届く。


 ――仲良し……。


 その言葉が妙に耳の奥で引っかかる。隣で歩く翼を横目で見ながら、今日一日、同じクラスで過ごした時の感情を思い出す。


 あれは友情なのだろうか……?


 今日、俺が感じた翼への気持ちは、友情とは違うような気がしてならなかった。でもそれが何なのかも分からない。


 新しい学校で翼と一緒に過ごす時間が増えることに対する期待と、自分の気持ちの変化への戸惑いが複雑に絡み合って、俺の心を揺さぶっていた。


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