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煌めく舞台の向こう側  作者: 海野雫
第二章 見えない絆
6/9

2-1

 最終審査は、事務所にあるレッスン室で行われた。ここまで駒を進めてきた参加者は実力派揃いのはず。誰がメンバーに選ばれてもおかしくない状況だった。


 三組に分かれて歌唱力、ダンス、表現力、そしてグループとしての調和を審査される。


 今回もまた、俺は翼と同じグループになった。ここまでくると、運命めいたものを感じてしまう。


「桜井、今回もよろしくな」


 人を惹きつける笑顔で、翼が気軽に声をかけてきた。


「こちらこそ。最終審査、精一杯楽しもうぜ」


 お互いに拳を突き出し、コツンと合わせる。その一瞬、指先が触れ合った感触が妙に印象に残った。


 最終審査では課題曲を一曲与えられ、それに対する振り付けを教わる。一次審査のような簡単なものではない。それでも参加者は誰一人として音を上げることなく、そつなくこなした。


 歌詞を全て暗記し、与えられた時間を使って、グループになった五人で話し合いながらダンスと歌を合わせていく。どの部分でファンにアピールするか、どんな表情をするか――それらも全て審査対象だ。


 与えられた時間があっという間に過ぎ、ついに審査が始まる。同じ曲、同じダンスなのに、メンバーが違えば見せ方がまるで異なる。どのグループも甲乙つけ難かった。


「それでは、最終審査の発表は一週間後の土曜日、午後二時を予定しています」


 スタッフがそう告げると、その日は解散となった。


 最寄り駅までの帰り道、俺は翼と並んで歩いた。


「これで決まるとか、実感ねぇな」


 翼は夕暮れの空を仰ぎながらぽつりと呟いた。


「確かにそうだな。みんな上手かったし……誰が選ばれてもおかしくない」


 本心では、俺がメンバーとして選ばれたいと強く願っている。でも今日の審査を見る限り、実力は拮抗していた。


 最終審査の結果発表の日。午後二時、俺たちは事務所の会議室に集められた。重厚な机がロの字型に配置され、室内は落ち着いた色の壁紙で統一されている。前面にはモニターが設置されていた。


 俺たちは指定された位置に着席した。隣には翼が座っていた。俺はぎゅっと拳を握り、発表を待った。


 扉が開き、社長をはじめ重役と思われる人たちが入室してきた。社長の手には、俺たちの運命を決める書類が握られている。


「皆さん、長い間お疲れ様でした」


 重厚な机の向こうに座った社長が口を開いた。最終審査から一週間――俺は生きた心地がしなかった。


「最終審査の結果、次の五名の方に正式に『PRISM』のメンバーとして活動していただくことに決定いたしました」


 社長の手に握られた書類に、俺の運命が託されている。社長が言葉を発するために息を吸う。俺は緊張で胸が痛くなった。強く拳を握ったせいで、手のひらに爪が食い込む。


「高峰陸さん」


 拍手と共に最初に呼ばれた陸が、静かに立ち上がった。俺の背中に冷たいものが伝ってくるのが分かる。


「白石海斗さん」


 二人目が呼ばれた。海斗は元気よく「よっしゃあ!」とガッツポーズしながら立ち上がる。あと三人。まだ大丈夫だと自分に言い聞かせるが、呼吸が荒くなる。


「森川悠真さん」


 名前を呼ばれた悠真は、拍手を送る人たちに丁寧にお辞儀をして立ち上がった。残りはあと二人。冷や汗が止まらない。


「桜井蓮さん」


 自分の名前が呼ばれた瞬間、またもや頭が真っ白になって体が動かなかった。隣に座っていた翼が、突然俺の手を握ってきた。


「やったな!」


 翼の低い声が耳元で響く。その興奮が手のひらを通して伝わってきて、俺もようやく現実を受け入れることができた。ゆっくりと立ち上がる。拍手の音が遠くに聞こえる。


「神谷翼さん」


 最後の一人の名前が呼ばれた。隣に座っていた翼は、俺の手を握ったまま立ち上がった。そして俺の方を見て「これから、よろしく」と小さく囁いた。


「おめでとうございます。皆さんには今日から、プロのアイドルとして活動していただきます」


 社長の言葉に、会議室は静まり返った。夢にまで見た瞬間が、ついに現実となったのだ。


「よろしくお願いします!」


 最年長の陸が代表して深々と頭を下げた。


「やったー! 夢みたい!」


 海斗の屈託のない声が会議室に響く。その純粋な喜びに、場の緊張が少し和らいだ。


「頑張ります」


 悠真は落ち着いているが、その瞳には確かな決意が宿っていた。


 翼はまだ俺の手を握ったまま、興奮状態だった。俺はようやく今の状況に気づき、慌てて手を引っ込めようとしたが、翼は全く気づく様子がない。


「身の引き締まる思いです」


 俺はどうにか声を絞り出した。翼の手の温かさに動揺しながら。


「最高のグループにします」


 翼がようやく俺の手を離して言った。その瞬間、俺の手のひらがひんやりと感じられた。なぜかその冷たさが、少し寂しく思えた。


「それでは、これから皆さんには様々な研修を受けていただきます。歌、ダンス、演技、バラエティ対応まで、プロとして必要なスキルを一から学んでいただきます」


 マネージャーの説明が始まる中、俺は翼を横目で見た。彼も俺を見ていて、視線が合うと小さく微笑んだ。


 これから始まる新しい生活への期待と不安。そして、翼と一緒にステージに立てるという喜び。複雑な感情が俺の胸の中で渦巻いていた。


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