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煌めく舞台の向こう側  作者: 海野雫
第九章 新たな始まり

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9-3

 俺たちPRISMに土日の休みはほとんどない。陸は大学に進学したし、活動は放課後と土日という限られた時間でしかできない。テレビの収録がある時は、学校を早退したり欠席しないといけないこともある。


 そういえば、翼と付き合ってから、デートをしたことがない。お家デート、もとい、寮の部屋デートはしているが。


 一緒に出かけたいと思うが、もうすぐデビュー一周年を記念したアリーナツアーが予定されていて、忙しくて休みはない。


 ――翼と、恋人らしいデートがしてみたいな……。


 俺はそんな思いをこっそり胸の中にしまい込んだ。


「今度の土曜日、オフになったからね」


 レッスン室に入ってきたマネージャーが俺たち全員に告げた。ツアーまではオフはないと思っていたのに、思わぬところで休みをもらえて、正直、嬉しい。


「やったぁ〜! もう、俺、疲れが溜まりすぎて死にそうだった!」


 海斗が飛び跳ねて喜びを体現している。それだけ動けているのに、疲れが溜まってるなんて、嘘だろ? と思わず目を細めてしまった。


「せっかくの休みだから、体を休めるなり、趣味を楽しむなり有意義に使ってね。この後はホントに休みなしだから」


 マネージャーがにこにこしながら怖いことを言った。


 休みなし……。


 今回のツアーは全国五ヶ所のアリーナツアーだ。前回の武道館の動員数と同等の人数を五ヶ所全部で集めなければいけない。


 休日はゆっくり体を休めるか。そう思っていたら、翼が近づいてきてそっと耳元で囁いた。


「なあ、休みの日、デートしねえ?」


「えっ?」


 翼を振り返ると、頬を赤らめてにやりと笑っていた。


「だってさ、俺ら、デートしたことないだろ? 遠出するのも大変だから、映画見るとか、カフェに行くとかでいいからさ」


 俺は翼の提案にこくこくと頷いた。


「はい、そこー。デートの約束してるんじゃないでしょうねー」


 マネージャーから指摘されて、びくっとしてしまった。マネージャーは大きくため息を吐いて言った。


「匂わせ程度でお願いしますよ」


「任せとけって!」


 翼が自信満々に親指をあげて口角を上げた。



 思いがけないオフのおかげで、俺たちは初デートに出かけることができた。


 映画館では暗いということもあり、思う存分指を絡ませて手を握り合った。演技の勉強のために見たはずの映画だったが、ドキドキしすぎて内容が全く入ってこなかった。


 そのあとはショップ巡りをした。肩が触れ合うほど寄り添って歩く。変装しているが、二人並んで歩いていると、俺たちがPRISMの翼と蓮だということがばれているようだった。


「ねえねえ、あの二人ってPRISMの……」


「めっちゃ距離近くない? 仲良しなのかな?」


「ってか、付き合ってるみたい……」


 ひそひそと囁かれている声に、俺は心の中でつぶやいた。


 ――そうだよ! 俺たち付き合ってるから!


 翼に目を向けると、彼も満足げに微笑んでいた。そして急に腰をぐっと引き寄せて耳元に口を寄せる。


「俺ら、付き合ってるように見えるみたいだな」


 俺は「そうだね」と言うと、翼に身を預けた。すると、周りから「きゃあ」「きゃあ」という声が溢れた。「尊い」とか「ヤバい!」という声が聞こえる。


 俺と翼は顔を見合わせて、微笑み合った。


 この瞬間、俺たちは確かに何かを変え始めていた。小さな一歩かもしれないが、それでも確実に前に進んでいる。愛する人と手を繋いで歩ける世界は、きっとそう遠くない未来にやってくる。そんな希望を胸に、俺たちは肩を寄せ合い、小指を絡めて歩き続けた。


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