表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/46

【第9話:浜風さんのポンコツ発揮】

「あ、いらっしゃいまふぇ〜っ!」


 ニコニコ笑顔でお客様のところに駆け寄る浜風さん。

 相変わらず積極的なのは素晴らしいのだが、早速言い間違えてる。


 フランス人とのハーフで、ブロンド色の髪が目立つ浜風はまかぜ 鈴々(りんりん)

 行動面ではうっかりが目立つ。


「あ……ど、ども」


 今まで何度か来てくれた20代くらいの男性客だ。地味な身なりで、まともに他人の顔を見ない気の弱そうな人。

 オタクっぽい感じで、なんとなく親近感が湧く。


「お座りくださいませ!」

「は、はい」

「何になさいますですか?」


 言葉遣いがおかしいぞ。

 あとで教えなきゃ。


「えっと……」


 男性客はテーブルについてメニューをじっと見た。

 そして顔を上げて、テーブル横に立つ浜風さんを見上げる。


「おおぉうっ……」


 彼女の顔に目線を向けた途端、男性が唸った。

 女子に気後れして、まともに顔を見ていなかったようだ。


「どうされましたですか?」

「か……可愛い」


 ようやくまともに見た相手が、アイドルのような容姿の女の子。

 しかも今まで何度か来ている人からしたら、突如現れた美少女。


 驚くのも当然だ。


「ありがとうございますっ! ……で、何になさいますですか?」


 ──浜風さん、軽く受け流すのか。


 まあ、あれだけの美少女だ。可愛いなんて言われ慣れてるんだろうな。


「……」


 男性客はうつむいて、テーブルに置いたメニュー表をじっと見つめてる。


「……」


 テーブルの横で浜風さんは、注文票を手に、見下みおろすように立っている。

 あれではお客さんが焦って、なかなか注文を決められない。


「浜風さんっ」

「え?」


 振り向いた美少女に手招きをした。


「はーい、なにかな?」


 パタパタと小走りで戻ってきた。

 なにかな、じゃなくて。


「すぐ横で店員に待たれたら、お客さんは落ち着かなくてメニューを考えにくいだろ」

「なるほど確かに」

「だから迷ってるなって思った時は『決まりましたらお呼びください』って言って一旦引くんだよ」

「ほぉー、なるほど! さすが店長! さすてん!」


 なぜ縮めた?


「やっぱ秋月君ってすごいね。尊敬のナマコで見ちゃう」


 ナマコでは見れない。それを言うならまなこだ。

 どうでもいいことだが、そもそもナマコには目がないらしい。


「でもこの店のメニューはわかりにくいネーミングも多いんだから、単に引くんじゃなくて、メニューの説明をしてあげた方がいいんじゃないのかしら?」

「うっ……」


 神ヶ崎が正論で殴ってきた。

 ドヤ顔を向けるのはやめていただけますでしょうか。


「なぁるほどっ、さすが涼香ちゃん! 親切う!」

「ホントですね。すごいです。勉強になります」


 浜風さんも京乃さんも絶賛だ。ちょっと悔しい。


「まあでもあの男性客は何度か来たことがあるからさ。あの人にはメニューの説明は必要ないかな」

「ふぅーん、負け惜しみ?」


 確かに負け惜しみなんだけどね。

 そんなことまでお見通しなのが余計に悔しい。

 くそっ、神ヶ崎め。


「すみませーん」

「ほら浜風さん。お客さんが呼んでるよ。注文が決まったみたいだよ」

「うん! がんぼる」


 可愛くガッツポーズしてから駆け出す浜風さん。

 相変わらず言い間違えている。


「あ、あああああーっ」


 お客様の目の前でアイドル級美少女が叫んでる。

 なんだ? 今度はどうした?


「たたた、大変だよっ秋月くんっ!」

「どうした!?」


 男性客も浜風さんの大声に驚いている。

 なにかわからないが、大変なことが起きているようだ。助けなきゃ!


 慌てて駆け寄る。


「どうしたの? りんちゃん大丈夫っ?」

「大丈夫っ?」


 京乃さんと、神ヶ崎までもが心配してついてきた。


「ほらっ、見て! この伝票の通し番号が7777だよ! ラッキーナンバー!」


 掌の中の伝票を嬉しそうに目の前に突き出して見せる浜風さん。


「おい!」


 なんなんだよ。


「そんなことでみんなを呼んだのか?」

「呼んでないよ。大変だよって言っただけ」


 確かにそうである。

 そうなんだけれども。


「何が起きたのか驚いて駆け寄るだろ」

「そっか、ごめんね」


 素直かよ。そんなに素直に謝られたら、これ以上何も言えなくなる。


「いや、気にしないでいいよ」


 それよりもお客様だ。こんなにわちゃわちゃしたら、お客様は皆さんお怒りに違いない。


「皆さま、お騒がせして申し訳ありません!」


 俺は周りをぐるりと見回して、お客様一人ひとりの顔を見てから深々と頭を下げた。


 ああ、俺が創りたい「楽しく癒される空間」がどんどん遠ざかっていく。


 やっぱり彼女たちには、バイトをやめてもらった方がいいかもしれない。


「あはは、いいよ。楽しいじゃないか」


 最初に浜風さんが接客した男性客が笑ってる。


「そうね。嫌いじゃないわよこういう雰囲気」


 京乃さんが接客した女性客も笑顔だ。


「えっと……い、いいんじゃないでしょうか」


 さっき来たオタクっぽい男性客まで肯定的。

 誰も怒っていない。


 浜風さんのあっけらかんとした天真爛漫なキャラのせいだろうか。


「皆さん、ありがとうございます」


 もう一度頭を下げた。みんな温かい目で見てくれている。ありがたい。


「じゃあ浜風さん、あとはよろしく」

「うん。ごめんね。ホンっと何度もごめん」


 ぺろりと舌を出す浜風さん。

 アイドル級の女子がするそんな仕草は、あまりにも可愛いかった。


「それに秋月くん、フォローありがとう」

「いや、別に礼を言われるほどのことはしてないよ。だって俺は店長なんだし、スタッフのフォローするなんて当たり前だよ」

「へぇ、カッコいいこと言うよね秋月くん。さすてん」

「あ、いや……」


 女子からカッコいいなんて言われ慣れていないから、恥ずかしすぎてなんと返したらいいのかわからない。


 ──俺ってチョロすぎだろ。


 でも──トップ3美女だなどとちやほやされている女子は、みんなプライドが高い。

 そんな風に思い込んでいたけど違った。

 神ヶ崎以外の二人は優しくていい人だよな。


 だがしかし、神ヶ崎は俺への当たりも強いし、やっぱりプライドが高いのだろうという気がする。


 俺にとっちゃ天敵だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ