【☆<√R>第67話:カラオケルームの室内で……】
カラオケ店の前で待っていた浜風さんは、なぜか手にマラカスを持っていた。
マラカスをぶんぶん振って、チャッカチャッカ鳴らして、俺を歓迎してくれた。
「浜風さん……それは?」
「ああ、お店で借りたんだよ」
「カラオケ屋さんで?」
「そーだよ」
「なんで?」
「先に受付を済ませたんだけどさ。カウンターの横に貸し出し品で置いてあったから借りた」
「えらく準備が早いな」
「だって雄飛君が来たら、これで大歓迎しよーかと思って」
得意げに胸を張る浜風さん。
相変わらず予想斜め上を行く行動だ。
もしも俺が来なかったら、そのマラカスどうするつもりだったんだろう……なんてことは怖くて訊けない。
「ありがとう。浜風さんの心遣い、嬉しいよ」
「でしょでしょっ! うん、我ながらグッドアイディーアだったよ」
「アイデアの所だけ無駄に発音いいな!」
「無駄って言うな!」
「あははっ、ごめんごめん」
「あははっ、どーいたしましてっ!」
やっぱり浜風さんといると楽しい。おもろい。元気がもらえる。
すごく良い子だなぁと改めて実感した。
ところで……うっかりスルーするとこだったけど、さっき浜風さんはカラオケ店の受付を済ませたっていってたよな?
「あのさ浜風さん。カラオケ屋さんに入るの?」
「うん。カラオケ屋で待ち合わせしたんだから、とーぜん入るよ?」
いや、当然って言われても。
付き合うって決めてから、初めて二人で行くところがカラオケ?
確かにこの前はイケメンABCやTOP3美女と一緒にカラオケに行った。だけど俺は特にカラオケ好きというわけじゃない。
あの時も誘われて、仕方なく行ったってことは浜風さんもわかってるはずだ。
だから彼女のこのチョイスは、理由がよくわからない。
浜風さんが歌いたい気分なのか? 歌うのが大好きなのかな?
「雄飛君、なんか納得してないって顔してるね」
「いや納得してないって言うか、なんでカラオケなのかな……って不思議に思ってる」
「その理由は、ですな!」
浜風さんは目の前に人差し指を立てて、意味ありげにほほ笑んだ。
やっぱり理由があるんだ。
「今、こんな場所では言えませ~ん!」
「なんだそりゃっ!」
ずっこけた。なんなんだよいったい。
でも大好きな女の子とのこんなやり取りも、めっちゃ楽しいと思ってる自分がいる。
カラオケルームに入ったら理由を教えるからと浜風さんは言った。
既に受付を済ましていることだし、とにかく中に入ろうと促されて、俺達は店内に入った。
──あ、そう言えば。
俺はまだ、浜風さんに好きだってちゃんと伝えていない。
でもはっきり言うのは恥ずかしいし、このままでもいいかな。
……いや、やっぱちゃんと言うべきだよな。
ルーム内に入ったら二人きりだし、気持ちを伝えるチャンスはきっとある。
よし。カラオケルームを出るまでに、ちゃんと『好き』を伝えよう。
そう決意しながら店内に足を踏み入れた。
***
俺達が入った部屋は、10名くらい入れる部屋だった。
がらんとした感じの室内に俺達二人。何となく気まずい。
えっと……ここでいきなり『好きだ』なんて言ったら変だよな。
その後の気まずさを想像すると怖すぎる。
焦るな俺。1時間や2時間はここにいるはずだ。機会を見て言おう。
うん、それがいい。
そんなことを考えて突っ立っていた俺に、浜風さんが声を掛けてくれた。
「さあ、どこでも好きなところに座ってよ」
優しいな。だけどホントは、俺がもっとリードしなきゃいけないんだろう。
だって俺は店長なんだし。
「あ、うん。ありがとう」
シートはL字型。モニターに対して横向きの席に座るか正面に座るか。
やはり正面は浜風さんに譲ろう。その方が浜風さんもバリバリ歌いやすいだろうし。
そう考えて、横向きのシートに腰を下ろした。
俺がL字型のこっち側に座ったんだから、浜風さんはあっち側に座る。
完全にそう思い込んでいたら──
「しっつれいしまーす! よいしょっ」
「……え? なんで?」
なぜか彼女は俺の隣に腰かけた。
「さあ、雄飛くん。なに歌う?」
天真爛漫ガールが、さも当然といった様子でリモコンタッチパネルを俺に差し出してきた。
いや、その前に……だだっ広い空間で、なぜ俺のすぐ隣に座るのか。
好きな人と触れ合うくらい近くにいるのは、嬉しくてドキドキするのだけれども。
でも恥ずかしくて緊張して、気まずい。
「あのさ、浜風さん。『なに歌う?』の前に……」
「ああっ、そうだった! あたしったら焦り過ぎたよごめん」
「わかってくれたらいいよ」
「はい、どーぞ」
「いや、ドリンクメニューが欲しかったわけじゃなくて!」
俺は、さっき浜風さんが言ってた「カラオケルームを選んだ理由」を聞きたかったのに。
「違うの?」
きょとん顔で小首を傾げるハーフ美少女の姿は、可愛くて可愛くて可愛かった。
そうじゃないんだよ浜風さん……と言いたいところだが。
あまりに緊張しているせいで、喉がカラカラだ。
「いや違くない。ドリンク頼もう」
「だよね。んもう、喉がからっカラだよ」
「何にしようかな……」
テーブルの上にあるメニューを見る。
そしたら横から、にゅいっと頭が出てきた。浜風さんのブロンドヘア。
顔が近い。花のようないい香りがする。
シャンプーの匂いだろうか。
そう言えばメニューは一枚しかない。
「あ、ごめん。先に見ていいよ」
俺がメニューを浜風さんの方に寄せようとしたら──
「このままでいいから」
手を押さえて止められた。
手の甲に浜風さんの指先の体温。
吐息まで感じるほどすぐ横には、彫りが深く美しい顔。
しかも二人っきりの空間。
そんなシチュエーションが、俺の心臓の鼓動を激しくさせた。




