【★<√M>第68話:秋月雄飛の想い】
芝生に座って色々と話をしているうちに、気がつけばもう夕方になっていた。まだ暗くはないが、少し夕方の陽になっている。
楽しい時間はあっという間に過ぎるなぁ。
結局、好きだという言葉は欠片すら言えていない。
周りには少ないとは言え、人影もある。その人達に聞こえるわけじゃないけど、他人の姿が見えるだけでも、なかなか言い出しにくい。
「これからどうする?」
俺は探るような感じで訊いた。
せっかくの京乃さんとの時間。まだまだ帰りたくない。でも彼女はどう思っているんだろうか。
「少しお散歩しませんか?」
ああよかった。まだ帰りたくない気分なのは俺だけじゃなかった。
「うん、いいね」
「この奥に静かな場所があるのですよ」
彼女が導くまま、芝生エリアからさらに奥に歩いた。
この公園はかなり広い。園内には美術館なんかもあって、知的で落ち着いた雰囲気を味わえる。
そこからさらに奥に行くと、大きな池があった。
夕暮れに差し掛かった陽光が水面をオレンジ色に染めている。
池の中心では噴水が細かな水を噴き、キラキラと反射して宙を舞う。
「綺麗だね」
横を歩く少女の横顔を見ながら、『ホントはキミの方がもっと綺麗だよ』なんて、めっちゃハズいセリフが頭に浮かんだ。
うわ、なに言ってんだよ俺。いや実際には口に出してないけど。
「ホントですね。都会の真ん中にこんなところがあるなんて、全然知りませんでした。素敵です」
「だよね」
池の周りの遊歩道。周辺を囲う木々の向こうにはビル群が見える。
遠目に都会が見ているのに、俺たちの周りには人は誰もいなくて静寂。
それがまた不思議な感じだ。
今は他に誰もいない。よし、これはチャンスだ。
今日、何度も言おうとして言えていない言葉。それを言うんだ。
「あの、京乃さん」
意を決して、足を止めて彼女の背中に呼びかけた。
立ち止まった彼女は心配そうな顔で振り向いた。
「どうしました? 足でも痛いのですか?」
「いや違う。足は大丈夫」
「じゃあお腹が痛いの?」
「いや、お腹でもない」
「じゃあどこが痛いのですか?」
どっか痛いの前提なの?
俺って子供みたいに心配されてる?
「大丈夫。どこも痛くない」
あえて言うなら。
俺を心配して見つめる彼女の健気さに、胸の奥がきゅっと痛い。
「あのさ。俺……俺……」
きょとんとした顔で俺を見つめる黒い瞳。
急かすでもなく、気を逸らすでもなく、俺の言葉を待ってくれてる。
こういうところが、やっぱり京乃さんってすごくいいよな。
ああ、やっぱ好きだ。
──って、心の中では簡単に言えるのに。
いや、いい加減ヘタレるのもいい加減にしないとな。
ちゃんと言葉にしないのは京乃さんに失礼だ。
「ちゃんと言っておきたいんだ。俺……」
ごくりと唾を飲み込んでから、続きを言う。
「京乃さんのことが大好きだ」
──あ。思いのほか、言葉がするりと口から出た。よかった。
「え?」
長いまつ毛のくりっとした目が、さらに大きく、くるりんと見開かれた。
相当びっくりしたみたいだ。そりゃそうだよな。いくらなんでも唐突過ぎた。
「あ、急にごめん。京乃さん、俺……」
「待ってください雄飛さん。謝らないでください。その言葉嬉しいです。ありがとうございます」
「え? ホントに?」
「はい。録音して何度もリピート再生したいくらい嬉しいです」
「そんなに?」
「あ、そうだ。録音するので、もう一度お願いします」
かばんから取り出したスマホを録音モードにして、俺の口元に向ける京乃さん。
いやマジで録音すんの!?
「ちょっと待って。そんな風にスマホ向けられても、恥ずかしすぎて言えないから」
「あ、ごめんなさい。それはそうですね。嬉しすぎてつい。残念だけど仕方ないです……」
しょぼんとしてスマホをカバンにしまう京乃さん。ああ、申し訳ない。
うわ、めっちゃうなだれてる!
背景にどよんとした効果線が見えるくらい落ち込んでる。まずい。
「あの……京乃さん。録音してくれていいよ。もう一度言うから」
「え、ホントですか?」
「うん」
京乃さんが喜んでくれるなら、恥ずかしいなんて言ってちゃダメだ。
彼女は一転してウキウキした様子で、スマホを向けられた。
「はい、どうぞ」
深呼吸して、覚悟を決めて──
「俺……京乃さんのことが大好きだ」
「ひゃっ」
黒髪少女が変な声を上げた。可愛い。
「ありがとうございます。やっぱり嬉しいです。そっかぁ……雄飛さんが、わたしのことを……」
両手を頬に当てて肩をすくめている。可愛い。
いや、可愛いばっかだな俺。だって可愛んだもんな。仕方ない。
「あのですね雄飛さん。私の気持ちも聞いてほしいです」
「大丈夫だよ。京乃さんの気持ちは、もうしっかり聞いたから」
「そんなことはありません。わたしの雄飛さんへの気持ちは、いくら語っても語りつくすことはないのです。もっと語らせてください」
「あ、はい。よろしくお願いします」
いつになく積極的な彼女の態度に押されて、つい敬語で答えてしまった。頭を下げてお願いしてしまった。
「雄飛さん。わたしは、今の状況がまだ信じられません。だって長い間、ずっと好きだった人が。遠くから見ているだけだった人が……一緒に働くだけじゃなくて、今日こうやってお付き合いすることになったんです。まるで夢を見ているようです」
驚いた。彼女の口から出た俺への想いは、予想以上に熱を帯びていた。
「そんな大げさな。有名人と付き合うならともかく、俺なんて普通の人間だし。夢を見てるようなんて大げさすぎるよ」
それを言うなら俺の方だよ。TOP3美女と呼ばれる人気女子から好きだと言われるなんて。こっちの方が百倍、夢みたいな話だ。
「そんなことありません。わたしは……わたしは……それほどずっと雄飛さんだけを見てきたし、あなたが、大好きなんです」
この前の告白にも増して、言葉が熱を帯びている。
京乃さんは感極まって、今にも泣き出しそうだ。うわ、どうしよう……




