【第58話:どうしたらいいと思う?】
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一日の授業が終わって、放課後になった。
凉香も交えて、三人で駅までの下校路を歩く。
「ねえ、凉香ちゃん。人生相談したいんだけど?」
「は? 人生相談? いったいどうしたの? 人生に疲れた?」
鈴々の言葉を冗談だと思った凉香は、冗談混じりに答える。
しかし反対側から、雅までもが真剣な口調で話し出した。
「いえ、人生に疲れたわけじゃないですけど、わたし達じゃ、もうどうしたらいいのかわからない状態になってまして」
「え? ちょっと待って。もしかして、真剣に大変なことが起きてる?」
「はい」
「そうなんだよぉ」
雅と鈴々は、ことの経緯を凉香に話した。
二人とも雄飛を好きだということがお互いにわかったこと。
さらに、同じクラスの田中美香も彼を好きで、来週の月曜日に告白を決行する予定であること。
クラスの男子が雄飛に、『チャンスを逃すな』などと煽っていたこと。
そんな話に、いつもクールな凉香もさすがに唖然とした。
「そんなことが起きてるなんて。思いもよらなかったわ。うーん……」
腕組みをして唸るクール美少女。
難しい顔の涼香を見て、鈴々は「あっ」と小さく声を上げた。
「もしかして……凉香ちゃんも雄飛君のことを好きだったりする?」
「別に嫌いじゃないけどね。ん……どちらかと言えば好き」
凉香の発言に、雅と鈴々は凍りついた。
「ちょっと待って二人とも。誤解してるようだからちゃんと言っておくわ。好きと言うのは、友達として、上司として好感を持てるという意味だからね。恋愛感情は一切ないから」
「そうなんだ」「そうなんですね」
二人の表情から緊張感が溶けていく。
「雄飛君って無自覚に良い人だから、彼の言動で時々私でもすごく照れてしまうこともあるけど……まあそれも含めて、恋愛感情じゃなくて、いい人だって感じ」
「あ〜びっくりした。凉香ちゃんまで雄飛君を好きだったら、もっとどうしたらいいかわかんなくなるよ」
「まあそこは安心して」
「わかった」「はい」
──でもこれって、今まで男子に苦手意識を持っていた凉香にとっては大進歩だ。雄飛君、やっぱすごい。
鈴々はそんなことを思いつつ、改めて尋ねた。
「で、どうしたらいいと思う?」
「そうね。確かに今の状況のまま何もしなければ、彼が田中さんと付き合う可能性もあるわね」
「やっぱそうだよね? よし雄飛君に、田中美香ちゃんの悪口を吹き込むか」
「何を言ってるのですかりんちゃん。そんな闇堕ちしちゃダメですよ」
「わかってるって。冗談だよ」
こんな状況でも能天気な鈴々を、雅はつい可愛いと思ってしまう。
「まあ正攻法からすると、彼女が告白する前に、鈴々や雅が告白するって方法ね」
「……え?」
鈴々と雅が見つめ合う。
涼香は苦笑いを浮かべた。
「あ、ごめんごめん。そんなことできないよね」
「いえ……それもアリですね」
「え? 雅、それ真剣に言ってる?」
「はい。りんちゃんがよければ、わたし達二人とも、告白するのもアリかと思いました」
「あたしも今、みやちゃんとおんなじこと考えてたよ」
「鈴々まで?」
「だってみやちゃんに負けるならいいけど、特に仲良くない子に負けるなんてヤダ」
「わたしもです。りんちゃんになら負けても悔いはありませんけど、よく知らない人に雄飛さんを取られるのは我慢できません」
「ちょっと待ってよ二人とも。二人が告白しても、少なくともどちらかはフラれるのよ。」
どちらか一方と付き合うことになれば、二人の間はぎくしゃくするかもしれない。そうなれば3人は今までどおりじゃいられない。
カフェ・ド・ひなたのバイトもどうするのか。
最悪、二人とも振られることだって……
そんな心配をする涼香に、鈴々と雅は、思いのほか穏やかな態度で口を開いた。
「もしフラれても、みやちゃんに負けたんだったら、あたしは今までどおりみやちゃんとも雄飛くんとも、付き合っていける気がするんだ」
「わたしもりんちゃんに負けたのなら、悔いはありません。今までどおり接することができる自信もあります。だってわたし、りんちゃんのことが大好きだから」
「あたしもみやちゃんのことが大好きだよ。もちろん涼香ちゃんのことも」
「ホントに二人とも告白するつもりなの? どちらが選ばれても相手を祝福して、これからも友達でい続けられるの?」
「うん」「はい」
「そう……」
呆れたような、安心したような。
即答する二人に、涼香はほほ笑んだ。
「そっか。雅と鈴々なら、本当にそんなふうにできるような気がするわ。あとは雄飛君が、今までどおりでいてくれるかどうか」
「雄飛君なら、だいじょーぶって気がする!」
「そうですね。わたしもそんな気がします」
「確かにそうね……」
涼香は少し思案顔をしてから、顔を上げた。
わかった。じゃあ私は、二人の告白をサポートする。その後もみんなで一緒にいられるように、私も最大限協力するわ」
「凉香ちゃん、ありがとうー!」
「すずちゃん。ありがとうございます」
三人で手を出し合って握手を交わす。
こうして雅と鈴々、それぞれが雄飛に想いを告白することが決まった。
ではいつ告白するのか?
もちろん来週月曜日の田中美香よりも、先に告白しなければならない。
「次の日曜日のバイトの時がベストってことかなぁ」
「そうですね」
「ぐえええ……あと二日しかないのか……ダメだ。急に緊張してきた」
「わたしは告白するって決めた時から、ずっと緊張してます。吐きそうです」
「み、みやちゃん大丈夫!?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫です。とにかくXデーは明後日の日曜日。さすがにバイト前や最中はまずいので、バイト終わりに二人とも告白するっていうのはどうですか?」
「うん、いいよ。どっちが先に告る?」
「そうですね。じゃんけんで決めましょうか。勝った方が先ということで」
こんな大事なことをじゃんけんで決めていいのだろうか。
だけど運まかせの方が、お互いに気を遣わなくて済む。
だから二人とも、案外これがベストな方法なのだという気がしてきた。
「そうだね。そうしよう」
二人はがじゃんけんをした結果──
「わたしが勝ちました」
「うっへぇ~っ、負けちゃった!」
雅が先に告白することが決定した。
どうやって告白の場をセッティングするのか。
そして告白した後の流れをどうするのか。
「私が協力するから、こうしましょう」
凉香がアイデアを説明した。
「なるほど、さすがすずちゃん。頼りになります。わたしはそんなことまで考えてもいませんでした」
「あたしなんか、たぶん、もっとなんにも考えてなかったよ、あはは。ありがとう〜」
──そして二日後。
運命の日曜日がやってきた。




