【第54話:鈴々のお悩み相談】
「あのう……りんちゃん?」
「なぁに?」
「お伝えしたいことがありまして」
「うん」
「わたし実は……」
先手を打つ意味合いで、雅は鈴々に、自分は雄飛のことが好きだと打ち明けようとした。
「あの……えっと……わたし……」
「うんうん、どした?」
急かすでもなく、いらつくでもなく。
鈴々は雅の次の言葉をゆっくりと待ってくれている。
──ああ、やっぱりりんちゃんっていい人だ。
そう思えば思うほど、鈴々に打ち明けるという決心が揺らぐ。
「えっと……実は……わたし……」
その時、一組の客がレシートを手に席から立ちあがり、レジへと向かい始めた。
お会計のようだ。
「あ、行かなきゃ」
気づいた雅がレジに向かう。
「すみませーん。追加注文で!」
別のお客が手を挙げて声をかけてきた。
今度は鈴々が「はーい!」と答えて客席に向かう。
店内が再び忙しくなったせいで、鈴々に自分の気持ちを言い出せない。
それから後も、何度か鈴々に気持ちを打ち明けようとした。
だけど仕事中という環境の中で、なかなか言い出せなかった。
勇気を振り絞ろうとした雅だが、結局それは叶わないまま、営業時間の終わりを迎えた。
***
「今日もお疲れ様。みんなありがとう。今日はとてもいい雰囲気だったよ」
閉店後、後片づけも終わって雄飛がみんなに声をかけた。
スタッフ全員が仕事に慣れてきたおかげで、確かにかなりスムーズにお店が回っている。
雰囲気も良く、お客様の癒しの空間になっている。
雅もそんなふうに思う。
「じゃあ帰ろっか!」
鈴々が声をかけてきたが、凉香の姿が見えない。
「すずちゃんは、なんか今日は寄りたいとこがあるんだって。時間がないって、急いで出てったよ」
「そうなんですね」
「だから今日は二人で帰ろ」
「あ、はい」
天真爛漫に笑顔を向ける鈴々。
さすがフランス人とのハーフ美少女。女同士でもつい見とれるほど可愛い。
「ん? どしたの、みやちゃん」
「あ、いえ……」
ああ、こんなに可愛い子が、雄飛さんを好きなんだ。
彼だって嬉しいに決まってる。
──やっぱり敵わないです。
実はわたしは雄飛さんのことを好きなのですと、鈴々に明かそうと思っていた気持ちが、しぼんでしまう雅だった。
***
雅と鈴々は二人で電車に乗った。ここから家の最寄り駅までたったの二駅。
鈴々はドアにもたれて、面と向かって雅が立つ。
雅は思った。
──りんちゃんに『実は、わたしは雄飛さんが好きなんです』と伝えるチャンスだ。
バイト中に言おうと思ったていたけど、なかなかチャンスがなかった。
しかし今なら二人きり。充分時間もある。
だけど──鈴々の屈託のない笑顔を見ると、やはり言い出せない。
「今日は忙しかったですね」
雅が苦笑いを浮かべて、当たり障りのない話題を振った。
「だよね。ゆっくり話す暇なんてほとんどなかった」
「ですね」
「あのさ、みやちゃん。ちょっと相談があるんだけどいいかな?」
「なんですか?」
「恋について、なんだけど」
「……え?」
突然の、思いも寄らないキーワードにフリーズする雅。
「ほら、みやちゃんは、ずっと好きな人がいるって言ってたよね」
「あ、はい。言ってました」
「そんな恋愛マスターのみやちゃんにききたい」
「いやいや、なんで恋愛マスターなんですか? 好きな人がいるだけで、今まで付き合った経験なんてゼロですよ?」
「だって人を好きになる経験はたっぷりしてるわけだよね。それも未体験ゾーンなあたしからしたら、みやちゃんは充分にマスターなわけよ」
マスターという言葉に、雅の頭には雄飛の父が思い浮かんだ。
それにしても、鈴々の謎理論にはきょとんとするばかりだ。
「そんなことないです。わたしには、恋についての相談なんて乗れませんよ」
そもそも鈴々が恋の相談をするなんて、嫌な予感がする。
これは絶対に聞いちゃいけないやつだ。
そう思って拒否る態度を見せた。
「恋をしたことがある人なら、たぶんそんなに難しい相談じゃないと思うんだ」
いったい何を相談しようと言うのか。
聞きたくないと思うが、電車という閉鎖空間では逃げ出すわけにもいかない。
「わたしには相談に乗るなんて無理ですよ」
「あのね、みやちゃん。どうやらあたし……雄飛くんのことが好きみたいなんだよね」
「……え?」
──いきなり、特大爆弾が、投下された。
そんな衝撃が雅を直撃した。
「好き……みたいって?」
「あたし、今まで異性を好きになったことないからさ。よくわかんないんだよね。だからみやちゃんに訊きたいの」
「なにを?」
「あたしのこの雄飛君への気持ちは、果たしてホントに恋なのかどうか」
「そ、そんなのわたしにわかるはずがないじゃないですか!」
相変わらず無茶ぶりをする鈴々に焦る雅。
ましてや雄飛さんを好きなわたしに、そんなことを聞かないでくださいよ~~~っ!
──と、心の中で叫ぶ雅であった。




